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ツアーレポート 三重・尾鷲地域 森林スタディツアー

村落に住み、そこで生業(なりわい)を営む人たちと交流し、彼らの自然保護と伝統文化の継承への取り組みを学ぶツアーシリーズ。今回は5月21日〜23日、三重県の林業先進地、尾鷲地域を訪れました。内容たっぷり、充実した3日間の報告をします。

森林組合おわせ / 泉林業 / 速水林業 / 吉田本家山林部 / 細渕林業

 

細分化された各林分とも手入れが行き届いている尾鷲地域の森林


森林組合おわせ

> https://www.owase.or.jp/

最初に森林組合おわせの事務所を訪問しました。ここは地元の木材を使ったログハウスです。床もヒノキ製です。床材のヒノキに関しては、厚さ5cmもあるそうで、作業員が作業着のまま、つまりスパイクつきの靴で中に入ってきてもへこみはするものの翌日には元に戻るそうです。改めて木という素材のよさに関心しました。

森林組合おわせは紀伊長島町・海山町・尾鷲市を範囲とした森林組合で平成8年に合併・誕生しました。現在の組合長は速水林業の速見亨氏で、扱う木材にFSC材が含まれるため、組合所有の加工施設もCoC認証を取得しています。林業の盛んな土地だけあってこの森林組合の従業員は28名、平均年齢も30代半ばと非常に活発な組合である印象を受けました。もっともこの辺りには徳林家が多く、必ずしも森林組合に施業を委託するわけではなく、自前の従業員で施業しているところも多いそうです。

尾鷲地域の木材は関東への出荷が多いそうです。近距離には名古屋もあり大きな市場だと思いますが、名古屋は長野県の木曾ヒノキが多く流通しているため、あまり尾鷲ヒノキは名古屋には出回らないのだそうです。

案内してくださった丹羽さんによると、尾鷲地域は知名度の高い林業地であり、その材「尾鷲桧」は高品質材で通っているにもかかわらず、やはりこの地でも経営状況は厳しいそうです。林地を伐採してやっと生活費が出る程度で、再植林にかかる費用は必ずしも稼げない状況とのこと。したがって材木屋に土地ごと売ってしまう例もあり、なおさら再植林がなされない可能性が高く、尾鷲においても放置林が存在するという話でした。また、FSCが木材の価格に好影響を与えているかという質問には全然そんなことはないとのことでした。

 
 地元ヒノキ製の立派な看板 案内いただいた常務理事の丹羽さん  ヒノキ製の床

径の大きさごとに整然と分類されている市場

次に、組合が経営する木材市場に案内していただきました。数日後に市を控えているらしく、玉切りされた丸太が整然と分別されていました。最近は末口14〜16cmくらいのいわゆる小径木の人気が高いそうです。これは垂木に利用するもので、1m3当たり2万円くらいになるとのこと。一方、中途半端に太い材は製材品として必要な部分以外が無駄になり、その処分時の運送代が余計にかかってしまうことから、人気が落ちているようです。

この市場(いちば)には地域の材すべてが来るわけではなく、本当にいい木材は市場を通さず業者間の直接取引きで流通するそうです。ただしすべての木材が直接取引きされるわけではなく、伐り出した木材を売りきるため、そしてまとまったロットを揃えることができるため地元の需要にも対応できることなど、この市場も重要な役割を果たしているようです。

次は、木材加工場を見学しました。建物は比較的新しく、ログハウスなどに用いる円柱を加工している施設です。当然、FSC材を扱うわけですから、この加工場もCoC認証を取得しています。また、非FSC材との区別を工場内できちんと行っています。

興味深かったのはこの工場で作っている間伐材を用いた土木工事用の看板です。三重県にはリサイクル認定制度というものがあり、間伐材を「山に放置してある廃棄物」として認定を受け、「通行止」とか「工事中」などの看板として原料指定が受けられるそうです。

このような看板は一工事で使い捨てであることが多く(そういえば工事がとっくに終わっているのに放置されたスチール製の看板をよく目にする)、朽ちてしまう性質を持つ木材のほうが材質としては好ましいかもしれません。間伐材が「廃棄物」というのは驚きですが、利用できるものはなるべく利用しようとする姿勢には凄みを感じました。

丹羽さんは、「森林認証の有無に関係なく、(木材として、森林として)機能の高い人工林は適正な評価がなされるべきである」との意見をお持ちで、近年の天然林偏重傾向に一石を投じています。

人工林とて、適正に管理することで水源涵養や土壌保全、二酸化炭素吸収など地域の公共性・公益性を担うことは可能であり、伐採されてからも建材として家で二酸化炭素を固定する(丹羽さんは「CO2の缶詰めを各家庭で備蓄する」という表現をされていました)機能を十分に果たすことができるため、人工林だからという理由だけで、価値が低いとか機能が悪いとか、そのような評価は好ましくないということでした。「木を伐って売る」行為は単なる一次産業に留まらず、かなりの公共性を持つことを理解しました。

森林組合おわせの円柱加工場  ヒノキ製工事用看板 製材廃材も無駄なくリサイクルされている
     

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尾鷲地域の現状について熱く語る泉さん


泉林業

速見さんの出した木材を加工する泉さんの加工場を見学しました。ここもFSC木材を取り扱うためCoC認証を取得しています。

ここで製材された材を問屋に高値で卸していくそうです(速見林業のFSC材のうち、良質材が森林組合の市場を通らずここにくるものと推察)。ここで製材されるものは尾鷲地域の材のみではなく、和歌山の材もあるそうです。もちろんFSC材との区別はしているそうです。

次に見学したのは木材乾燥所です。乾燥機は電気釜で9日間かけて乾燥するそうです。含水率は20〜25%に設定。建築基準法の標準仕様書では8〜10%と指定されているものの、泉さんはそれに疑問を呈していて、「過度な乾燥によって木の吸湿性などの性質が死んでしまうため、わざと高めの含水率に留めている」そうです。

建築基準法で瑕疵責任が問われるようになりましたが、完全な規格化に対応可能な工業製品と、動く(呼吸する)ことを特徴とする木材とを同等に扱うのはいささか無理があるのではないかと感じます。吸湿性や通気性がよい木材住宅に隙間ができるのはむしろ当然のことですし、非木材を用いた高気密性住宅がもてはやされてはいるものの、一方でシックハウス問題が深刻化していることを考えると、もう一度、「どのような住居に住まうか」とか「日本に適した建造物」といったことを真剣に見直し、木材住宅を再評価していく必要性を感じました。

 
粉塵に配慮して密閉された製材機  FSCのCoC認証マーク 大型木材乾燥機。近隣の材も扱っている
     

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未来派林業家、速見亨さん


速水林業

> https://www.chiiki-kankyo.net/hayami/

午後からは、関西の学生環境サークルのSAGEと合流し、速見林業の太田賀山林を見学しました。

速見林業の経営は、ヒノキ主体の約1000haの管理地を従業員19人体制で施業しているそうです。以前、一度この場所をテレビで見たことがありましたが、そのままの風景がそこにありました。高木となったヒノキの下にサクラなどの雑木が入って復層林を形成し、さらにその下にはシダが繁茂しており、人工林といっても管理手法によって様々な様相を呈することを知りました。

太田賀山林はおよそ100haの林分ですが、様々な齢級の林分が混在しているのが印象的でした。これは尾鷲全体に言えることでもありますが、なかなか新規に植林をしている場所を普段なかなか目にすることがなく、つまりは伐採という行為自体が減少していることも意味しますが、伐採−植林という健全な林業サイクルが成立している地域であるからこそ目にする光景であることを再認識しました。その他、きちんと整備された林道や排水設備などについても感嘆しました。

速水さんは「同じ林分でも林内と林縁で環境が異なる」と話していました。林縁は林齢の異なる他の林分との境目であり、双方の特性が混じりあう場所であるため、生えている植物も林内と林縁部では見た目に違うそうです。林齢が異なる林分があるということは、その土地に多様な環境を創出していると捉えることも可能で、ここに「多様性」を見出す契機があるように思います。生物多様性の観点から、少ない樹種により構成されている人工林は、天然林との比較において劣勢であるという認識が近年の潮流であるが、必ずしもそうでない点が多々あります。この場所のように、面積、齢級とも多様な林分が混在することによってそこに入り込む植物も多様化し、いわゆる生物多様性に富んだ環境を生み出します。つまり、何を判断基準とした「生物多様性」なのか、単純に生息種数によるものなのか、その議論を抜きにして、人工林を評価することはできないと思いました。

FSC認証に関しては、速見林業の所有するすべての山林に対して取得しているため、切り出した材はすべてFSC材です。そのプレミアム/アドバンテージについての速水さんの見解は「特になし」でした。FSC取得は、林業再興への啓蒙ツールの一つとして捉えているにすぎず、取得によるプレミアムはあまり期待していないようでした。むしろ、取得過程における施業計画の見直し、長期的ビジョンの確立、およびその実現に向けた従業員間の意志向上を大きな収穫であったと捉えている様子でした。

FSC取得は、森林経営に対する国際的評価を意味するものでもあります。その取得を実現した今、プレミアムが期待できないのであれば、認証維持に費用をかける必要もなく、止めてしまってもよいのではないかと思い、速水さんに代わって林地の説明をいただいた川端さんに「FSCを止める選択肢」について質問したところ、選択肢としてはある、というお話をいただきました。ただし、トヨタがISOを取得していない例を出し、認証がなくても厳しい基準を評価してもらうことは可能であろうが、FSCがプレミアムを生む可能性もあるので当面は考えてないということでした。


速水林業、大田賀山林

林内見学前にレクチャーを受ける参加者

 手入れの行き届いた美しい人工林
各林分には、見学者向けの看板も  林道にはウッドチップが敷かれている  広葉樹の混じった植林後、間もない林分
     

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新進気鋭の林業家、吉田さん


吉田本家山林部

三日目は吉田本家山林部を見学しました。事務所は海山町から車で一時間ほど北上した大宮町にあります。吉田本家の所有山林は渡会郡、多喜郡、尾鷲市などに点在し面積はおよそ1200ha。こちらも昨年FSC認証を取得。速水林業とは異なり、吉田本家の山林はスギが大半を占めます。尾鷲からの距離は車で一時間ほどですが、地味が異なり、ヒノキよりもスギのほうが適しているそうです。

スギは成長が早く豊かな土壌に適し、ヒノキは栄養分の少ない土壌でも育つことができるため、おのずと植える樹種は異なります。尾鷲の土壌はやや痩せているそうです。仮にヒノキを土壌の豊かな地に植栽すると、栄養過多により、色が黄色になってしまったり、曲がったりと、材としては低質なものになってしまうそうです。普通に考えると、肥沃な土壌がいいように思えるのですが、こと林業に関してはそうではないようです。

吉田さんの案内で所有山林を見学。実際に抜き切りをした現場を案内していただきました。現場はちょうど下から抜き切りをしていく段階だそうで、すでに施業が終わった下の部分は林内に光がよく入っていましたが、上の方のこれから施業を行う場所は暗く、間伐施業の効果がよく理解できました。

施業後の場所は重機なども当然入るため林道や林内が結構荒れてしまっている印象を受けました。その点について吉田さんに質問しましたが「それほどのことはない」とのことでした。素人目には施業後の状況はかなりワイルドに写るのですが、間伐が遅れることによる林内環境の悪化を考えれば、比較的早く回復する下層植生が少々荒れることなど問題はないのでしょう。

速水林業では伐採直後の現場は見学しなかったため余計にそう感じたのかも知れません。速水林業の森林には完成、秩序立っている印象を受けたのに対して、吉田本家の森林はこれからという感じもしました。吉田さんは今年家業を継いだばかりの若社長です。頑張ってください。


歴史を物語る吉田本家事務所 2003年3月に取得したFSC森林認証証書  伐採した木材を搬出する「タワーヤーダ」
間伐直後の林分。下層植生の成長が待たれる 手の行き届いていない林分。土砂流出が起こっている 100年生のスギ。吉田さん自慢の美しい林分
     

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厳しい現状を語る細渕さん


細渕林業

最後の見学地は宮川町にある細渕林業です。宮川町は大宮町から西へ宮川の上流へ向かったところにあります。宮川町では森林組合としてFSCを取得し、細渕さんの森林の一部も認証森林なのだそうです。所有山林は300haです。

車で移動中、道沿いに見える細渕林業の山林について説明をいただきました。幾つか皆伐跡があり、抜き切りをしていた吉田本家とは異なり、細渕林業では皆伐が多いそうです。経営状況は厳しく、皆伐をした売り上げをもって、以前皆伐した部分の植林を行うという「自転車操業」をしている状態なのだそうです。最近は、そのサイクルもうまくいかず、残念ながら再植林が行われていないところもあると、経営の窮状をお話いただき、速水林業、吉田本家においては感じなかった林業の苦しさが、ここでは色濃く感じました。

細渕林業は決して小規模林家ではありませんが、近年の木材価格の低迷により経営が苦しいそうです。最近の価格は、25年前の価格からすると3割にも満たない1haあたり170〜180万円の売り上げとのことで、50〜100年を単位として考えていく林業にとって、短期的な価格変動を読んだ経営方針は立てにくく、苦しい状況も理解できます。

現状では、造林費を捻出するために、伐採面積の拡大を強いられているそうで、環境負荷を懸念するものの、事業維持のためにはやむを得ないとのことです。

経営状況が厳しい上で、あえてFSC認証を取得した理由について質問をしたところ、「FSCの取得とは内外に向けた一種のステートメントである」とのことでした。

ここでまとめると、現状においてFSC取得により得られるものは、従業員の意識改革、具体的には、自分がFSCの山で働いているという意識が芽生え、彼らの振舞いを変える効果、外向けには森林への注目が集まることが期待されることなどであると言えそうです。

今回訪問した林業家は、どの方も熱心に取り組んでいるので、三重県の林業には好印象を受けました。林業不振という厳しい現実に負けることなく、森林認証取得といった攻めの経営をしているところが、国内随一の林業地たるゆえんだと感じました。認証取得効果が市場に表れるには、まだ時間がかかりそうですが、その姿勢は評価に値するものではないかと感じました。


ニホンカモシカの食害対策のため張られたネット 見事な100年生のスギ材。ところが売値は二束三文  皆伐後、再植林のための地こしらえがされている
     

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