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ツアーレポート 北海道森林スタディツアー

村落に住み、そこで生業(なりわい)を営む人たちと交流し、彼らの自然保護と伝統文化の継承への取り組みを学ぶツアーシリーズ。今回は6月30日〜7月4日にかけ、旭川、士別、下川、斜里、知床、釧路と北海道をぐるっと一周して、各地の森林および自然復興事業地を見学してきました。4泊5日の行程について、参加者の皆様からご報告、ご感想をいただきました。その充実ぶりを北海道の大自然を写した写真ともども、ご覧ください。

日本製紙旭川工場 / 北海道森林管理局森林技術センター / 下川町 / 斜里町・知床財団 /

知床自然観察教育林 / 釧路湿原再生事業 / 森林ツアー体験記

 

針葉樹チップと広葉樹チップが区別されて積まれている土場の様子


日本製紙旭川工場

> https://www.npaper.co.jp/home.html

旭川工場は日本製紙の国内工場の中で唯一内陸に位置する工場です。そのため輸入材が少なく、道内の木材を活用しています。沿岸の工場では輸入材の使用が多く、ユーカリなど海外で植林した材を積極的に使っているそうです。

1960年代に植林されたトドマツ、カラマツの間伐材と端材をチップに使用していて、用途はPPC用紙、雑誌、教科書、紙カップなどで、PPC用紙は道内産材の表示を付けて売り出しているそうです。他にミズナラ等の広葉樹材の間伐材、端材も使っているそうです。素材によって繊維の長さや容積重が異なるため、配合によって製品の厚さや強度といった紙質は全く変わってくるため、素材は十分に選んでいるそうです。また丸太は道内消費が多いそうです。北海道の間伐材は山の傾斜がゆるく、径が太いなどの理由で、本州より割に合うとのことでした。

「環境問題」という言葉の先駆けである「公害問題」の頃は、製紙会社が出す汚泥による水質汚染がひどかったと聞きましたが、現在では排水対策が随分進んでいるようです。対生産量の廃棄物量は非常に少なく、工程から出る灰やカスは別の用途に売られるそうです。また電力の99%が工程から出る副産物の黒液を燃料とした自家発電だそうです。

道内材推進に取り組む旭川工場の採算面については質問できませんでしたが、輸入チップを使用している工場と比較してどうなのか、疑問の残るところです。当日は道庁担当者の方も同席されており、地産地消の推進には公的機関からの市場原理に任せない施策や、地場材に対する社会的評価などの支援も必要だと改めて思いました。
(文:春名聡子さん)

※工場内は撮影禁止でした。

 
広葉樹の雑木が積まれている カラマツの間伐材 ここのチップは出所もはっきりしているとのこと
     

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国有林入り口に設置されているガイドマップ


北海道森林管理局森林技術センター

森林技術センターは国有林における林業の技術開発をしている機関です。北海道の森では、ササが繁殖して根を張り森林の成長に影響を与えているため、地掻きと呼ばれる、ブルドーザーを使ったササの根を掘り起こし、実生から天然更新(注1)を促進する方法が取られています。

注1 天然更新は実生と萌芽とがあり、自然に地に落ちた種からの更新を実生、切り株から更新するのを萌芽という。

自然のサイクルにおいてササが枯れるのは数十年に一度であるため、ササに邪魔されず林床に幼樹が出てくるチャンスも数十年に一度ということになる。これでは林業として成立しないので、地掻き処理を行うそうです。

ただし、地掻き後の土地にササは出てきませんが、先駆種(注2)のダケカンバといったカバノキ科シラカンバ属ばかりが出てきて、他の種が根付かないので結局単層林になってしまうことが悩みの種だそうです。マツを植樹しても実生のダケカンバのほうが成長量が早く、植林木は負けてしまいます。北海道のような厳しい気候では、実生のほうが生き残るそうです。

注2 一般的に、先駆種は伐採跡地や大木が倒れてできるギャップや伐採された場所など、光が十分にあたる場所で発芽する種で、耐陰性が低く、二次林種である。寿命もあまり長くない。
(文:春名聡子さん)

 
本州とは違い、どこまでも平坦な森林  あいにくの雨ながら真剣にレクチャーを受ける様子 若齢木が多く、開発の過去を物語っている
     

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FSC森林認証を取った下川町の森林。


下川町

> https://www.shimokawa.ne.jp/shinrin/wellcome.html

二日目は下川町を訪問しました。下川町は森林組合が管理している民有林、町有林、そして国有林が一体となった形での森林管理のあり方を模索している地域といえます。様々な立場の方々から森林管理を通じた町おこしについての話を聞くことができました。

町有林の施業は30年伐期だったが、現在は60年伐期とし、年あたり50haを造林するサイクルをとっているそうです。ここに国有林の買受け分を合わせ、計4,500haが管理面積となっています。

林業の採算性が低下している昨今、国有林の買受けを行う自治体は少ないそうです。しかし植林を進めることで、森林組合や林道建設などによる雇用が生まれ、また生産量の減少している国有林に代わって、地元林産業へ材の供給ができるなど、産業活性化につながるため、買受けを行ったそうです。林業で町の経済を支えていく姿勢がはっきり見えます。

また下川町では、私有林、町有林、国有林を合わせたFSCのグループ認証を昨年8月取得しました。FSC森林認証によって林道建設のあり方や、準天然林の設定など、FSC側から追加的に提示された課題に応えていくことが必要であるそうです。また認証林を今後追加でどう増やしていくか、現状ではFSC認証のプレミアムが付かず普通の材として流通せざるを得ない現状など今後の課題が色々あるとのことでした。

森林組合は町有林の管理を一手に引き受けているほか、木材加工事業も行っています。町の林業が生き残ってきたのは、加工業があるからとも言えるそうです。現在町に8つの加工事業体があるとのこと。林業地に加工工場がある町は現在減っているが、町内に工場があることで輸送費が浮き、また林業側の事情にも配慮した製品作りや対応が可能になるというメリットがあるとのこと。

午後は民間の製材工場、森林組合出資工場の木炭、小径木加工製品、おがくず利用製品、トドマツアロマオイル製造現場を見学しました。

構造用の集成材は住宅用に道内のメーカーに供給されているそうです。

木炭は一時はよく売れたものの、現在は輸入品との競争が厳しいようでした。都内の会社にも供給しているアロマオイルや、省庁にも採用されている木道用杭など、付加価値を付けた新しい製品作りに熱心な様が伝わってきました。また、木炭から出た木酢を円柱の消毒に使うなど、工程から無駄を出さないゼロエミッションシステムを採用しているのも素晴らしいと思いました。商品開発に対する熱意が伝わってきます。

最後に、サークル森人類が整備している“体験の森”を見学。森の手入れや環境学習はもちろんのこと、森でコンサートを開いたり、ツリーハウスを作ったりなど、夢のある企画が立てられています。

住んでいる人々の元気な感じがIターン者を次々と呼ぶ秘訣かもしれません。観光地ではないけれど人を惹きつける町、下川。知る人ぞ知るひそかな人気スポットにゆっくりとなってほしいなぁ。

人口や産業生産額の推移を見ると、典型的な過疎化の波に襲われている地域であり、林業経営にも課題はたくさんあるとのことですが、果敢にチャレンジし新しい発展の道を切り拓いている森林組合、役場、地元産業の方々にとても感銘を受けました。日本の林業を変える旗手としてがんばってほしいですし、消費地からの支援としてできることを考えたいと思いました。
(文:春名聡子さん)


大自然を満喫できる山小屋。全て下川の材で建てられた  左がカラマツ林、右がトドマツ林。  手入れの行き届き下層植生も豊かだ
古い庁舎を利用した森林組合の展示館  淡々とした語り口ながらも内容はとても熱い渡辺さん  材の色の違いがよくわかる
玉伐りされただけの原木が・・ 皮が剥かれてラインに乗って・・  きれいな製材品となる
木酢液に浸して、薫煙処理をして、最後に研磨をすると・・  洒落た円柱材になる。北海道では公共施設によく使われている  そしてすべての残材は炭となって土へ帰る
さーくる森人類の小日向さん 活動で管理している森。手が行き届いている  小学校にある大きなニレの木の前で記念写真
     

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柵の内外を比較すると一目瞭然。内がトラスト運動の対象区


斜里町・知床財団

> https://www.town.shari.hokkaido.jp/100m2/

> https://www.shiretoko.or.jp/index.htm

昼過ぎに斜里町役場に到着し、総務環境部環境保全課自然保護係の村上隆広さんに、斜里町でのナショナルトラスト運動である「しれとこ100平方メートル運動」の歴史と現在についてのお話を伺いました。

知床国立公園のある地区は、大正時代に開拓が始まったが昭和40年代までにはすべての開拓者が去ってしまい、開拓による成果は得られることなく終わってしまった地域だそうです。昭和39年に国立公園に指定されたものの、開拓後の農地が不動産業者等により転売され、土地開発の波に押されそうになっていたところ、当時の斜里町町長(藤谷豊さん)が朝日新聞の天声人語に掲載されていた、イギリスのナショナルトラスト運動の記事に注目しヒントを得て、「しれとこ100平方メートル運動」を始めたとのことでした。「しれとこで夢を買いませんか」というキャッチフレーズの効果もあり、全国から寄付金が寄せられ、平成9年には目標金額の5億2千万円に到達したそうです。

トラスト地の森林再生事業の基本方針としては、原生的な自然の回復と本来その土地に生息していたとされる野生生物群集とそれらを取り巻くエコシステム全体の循環を再生することにあるようです。例えば、植林ひとつをとっても、遺伝子の汚染を防がないといけないわけですから、知床の森から採取した種子を発芽させ、その実生を苗まで育てて植樹をするというふうに行われているのです。自然に遷移が進行しつつある二次林はなるべく人の手を加えないようにしているそうです。

その他にも様々な問題点があり、また目標到達までに気の遠くなるような長い年月を要する計画ではありますが、知床でのトラスト運動は比較的成功している方だと思います。他のトラスト運動と異なり、当初から行政主導で進められた運動であったことが主な要因のようです。それでも、行政からの援助がある程度はあるものの、例えば計画を変更しようとしてもすぐには許可されないといった小回りの効きにくいという難点があることも事実です。

現在のところ、トラスト地を観光資源として利用することは考えておらず、また生活の場として利用されている場所もごく一部を除いてほとんどないそうなので、森林生態系として安定するまでは、極力人を入れないようにしているようです。知床の世界遺産登録に向けて今も様々な努力が続けられていますが、世界遺産として認定される際には、市民への適切な公開の方法についての十分な議論が必要であると感じました。

実際に森林の再生事業が行われている場所へ行きました。現在、100平方メートル運動の森づくりの現地業務は知床財団に委託されており、現場では知床財団の方から具体的な作業についての説明を受けました。役場でもお話には聞いていたのですが、エゾシカの多いこと!!苗を植えた後、第一世代を守るために防風・防鹿柵を設置するそうですが、広範囲に及ぶ柵の設置には多額の費用がかかるようで、柵でガードできない木には一本一本に網やペットボトルを切り開いたものを巻きつけて、シカによる食害を防いでいるそうです。このエゾシカの過密化に伴う被害は深刻で、かつてはシカが食べていなかったイタヤカエデやミズナラまでもが被害にあうようになってしまっている現状です。

この地域は鳥獣保護区に指定されているので、人為的にシカを間引く(駆逐する)のは不可能なのですが、木の成長スピードを上回るエゾシカによる被食スピードは、森林を多様性の高いものに導くにあたってはやはり大問題なので、法律の改正に向けての努力といったものも必要だと思いました。
(文:須崎玲さん)


移動中に海岸沿いに見た風力発電施設  現在、活動域内は防風林として植えられたカラマツのみ。再生に何年かかるのか?  うっそうとした牧草の中に広葉樹が植えられている
     

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ユニークな語り口で森の隅々まで案内してくださった西さん

知床自然観察教育林

3日は知床自然観察教育林を散策しました。案内して頂いた林野庁の西さんがクマに人間の存在をアピールするためのベルを身につけて先導して下さいました。この散策で個人的に一番印象に残っているのは、林内にある沼に羅臼岳をはじめとする山々が面に鏡に映し出されているかのように映っていた様子です。普段はこの時期になると水が枯れてしまい沼が消滅してしまうし、ちょっとでもさざ波がたってしまうと映らないらしく、今回のようにきれいに映っているところを見られることはあまり多くないそうです。
(文:須崎玲さん)


熊の通り道で説明を受ける参加者 倒木にはおいしいきのこが自生している  おとぎ話に出てきそうな風景
「逆さ羅臼」が見えるほど絶好な天候だった  知床峠から見る山々は森林限界の地 遠くに見える国後島を背景に記念写真
     

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展望台から見る広大な釧路湿原


釧路湿原再生事業

> https://www.kushiro-wetland.jp/

前日に斜里町から移動し、釧路入り。午前より釧路湿原での自然再生事業の実際と進行の様子を見学しました。視察に先立って、環境省自然環境局東北海道地区自然保護事務所次長の鳥居敏男さんに釧路における自然再生事業の位置づけや在り方、現在の状況等についてのお話を伺いました。

平成14年に制定された「自然再生推進法」に基づき、環境省を中心として、湿原に生息する多様な野生生物の保全の強化と人間活動や開発により劣化・破壊された生態系の再生を地域の人々とともに推進する事業が展開されています。戦後、釧路市周辺の発展に伴い、湿原とその周辺部でも宅地開発や農地の造成、河川の直行化や排水路整備が進み、湿原面積が戦後50年間で全体の約2割が減少し、さらに湿原へ土砂や栄養塩類が流入するようになったため、湿原内のハンノキ林の占める割合が近年急速に拡大し、湿原特有の生態系の消失が進行しているのが現状です。

元々、湿原に対する特に地元の人々の認識は、生産性を上げにくい不毛な地というものだったようですが、1970年頃から湿原の価値を見直す動きも現れるようになり、また釧路湿原がラムサール条約登録湿地、続いて国立公園に指定されたことによってその生態学的な価値が広く認知されるようになってきたようです。釧路湿原は、5市町村にまたがる集水域を中心に広がり、この流域25万haが湿原に直接的に影響を与える地域であるため、再生事業は湿原+その流域全体を含めて包括的に行われる必要があるようです。ただ、一度に流域全体で事業を展開していくことは困難なので、湿原周辺部のバッファーゾーンから試験的に事業を進めていき、その成果を評価しながら徐々に再生地域を拡大していく方針をとっているそうです。

事業対象地域のひとつである達古武地域の中の保全・再生すべき区域には、私有地(企業等の)も含まれており、自然保護活動の展開に当たってこうした私有地をNPO法人トラストサルン釧路が買い上げ、環境省との連携・協働により事業を実施しているそうです。現在、達古武周辺のトラスト地は100haとのことで、トラストサルン(サルン=アイヌ語で湿原)釧路で職員として働いていらっしゃるのは、この日現地を案内してくださった杉沢さんお一人で、会員の方がボランティアとして働かれているとのことでした。

実際に見て回った場所は、湿原への土砂の流入を食い止めるために適切な森林形態への移行を進めている所でした。針葉樹のみの人工林は地盤を保持する能力が弱く、そのため保持しきれなかった土砂が流れていってしまうので、保持能力の高い針広混交林へ徐々に移行させるための試みが為されていました。植樹する広葉樹の苗を育てている場所にも案内して頂きました。ここでも、シカの食害を防ぐために、周りに網が設けられていました。

釧路での自然再生事業は、環境省(国の機関)・地元NPO(トラストサルン釧路等)・自治体・地元住民とのパートナーシップに支えられながら展開されており、今後の日本や世界における自然再生事業の考え方や進め方を示すモデルとして位置づけられていると言えます。知床と比較すると、トラスト運動地としての釧路はまだその認知度は決して高いものとは言えないようで、人でも不足しており思うように作業が進められない、拡大できないといった問題点があるので、市民がつくりあげる地域としての情報の発信を盛んにし、広く寄付やボランティアを募っていく必要があると感じました。
(文:須崎玲さん)


環境省が手掛ける湿原域内のカラマツ林。混交林に戻していく過程  釧路湿原再生事業の主体であるトラストサルン釧路の杉沢さん  ここでも活動の障害となっているのは鹿たちである
 ササがひしめく中、成長する期待の広葉樹  シカとの知恵比べについての説明を聞く参加者  トラストサルンの苗畑の看板
これはバットになる木で有名なアオダモ  こちらはミズナラの苗木。  釧路湿原の展望台で記念撮影
     
〜 おまけ 〜
国後島がこんなに近かったとは・・ 道中に立ち寄った摩周湖。「霧の」が頭文字につくことで有名だが・・  なっ!なんと、霧の晴れた摩周湖を見ることができた
     

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