将来予測
許容域内「2℃未満」に気候変動を抑えるため何が必要?
地球温暖化の被害を少しでも抑えるためには、温室効果ガスの大気中濃度の安定化が必要となります。最近の報告書では、大気中のCO2濃度が750ppmと550ppmになることを想定した場合の予測研究結果が発表されました。この研究によると、適切な措置をとった場合、気候変動は50年から100年間遅らせることができることがわかりました。どちらのケースでも然るべき行動を行なうことで、適応措置をとるのに時間的余裕ができることになります。
しかし、両方のシナリオで予断を許さない結果が出ていることは否定できません。大気中のCO2濃度が750ppmになることを想定したシナリオでは、ラテンアメリカ地域での大規模な熱帯林の損失、ヨーロッパと中東での深刻な水資源不足が発生することが予想結果として出ました。550ppmを想定したシナリオでは、以下の悪影響が回避できるという結果が出ています。
排出を削減しなかった場合のシナリオと比較して、CO2濃度を550ppmで安定化できた場合:
・ 世界の気温が現在のレベルより2度上昇するのを2050年から2100年に遅らせることができる。
・ 2080年に予測されていた40cmの海面上昇の発生を25年間先延ばしできる。
・ 2080年に増加するとされていた水不足に苦しむ人々の数を6億6千万人から10億人程度減少させることができる。特に恩恵を受けるのはパキスタンとスーダンである。
・ 穀物収穫量の減少を軽減できる。アフリカ諸国とインドは依然として被害が大きいが、ラテンアメリカの一部では改善へとつながる。
・ 2080年に予測されていた洪水の被害を受ける人々の数を80%すなわち1900万人にまで軽減できる。
・ 2080年に予測されていたマラリアの被害を受ける人々の数を40%すなわち1億7500万人にまで減らすことができる。
これらは大気中のCO2濃度を550ppmで安定化できた場合の予想ですが、これでもまだ数百万人の人々へ悪影響が及ぶことには変わりはありません。上記の数字は将来の気候変動が及ぼす影響の中でも最も軽いレベルを想定してでなされたもので、意外な事態が発生することも考慮しなければなりません。そのためここに示された以上の危険性があることは容易に想像できます。これを踏まえ、予防的アプローチを行なうことにより、大気中のCO2濃度を450ppm近くで安定化させ、気温上昇は産業革命以前から環境・人間の許容レベルである「2℃未満」に抑えなければならないのです。
ではどうしたらいいのでしょうか?IPCCの報告では、世界平均で60から70%のCO2排出削減が必要となるとしています。実施期間に関しては、実施開始が遅ければ遅いほど達成が困難になってしまいます。450ppmもしくは550ppmレベル、2℃未満での安定化のためには、2050年ごろには60から70%の削減を達成することが要求されます。現在までの国際及び国内の取り組みはこの水準を大きく下回っており、今すぐに緊急の効果的な対策をはじめることができなければ、数百万人の命が多大な危険にさらされることになってしまうのです。