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イベント報告 - シンポジウム 「生物多様性の損失を止める方法はあるのか?」

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生物多様性保全に関する政策研究会シンポジウム
生物多様性の損失を止める方法はあるのか?
―COP10を契機に考える新たな政策の可能性―
議事録

1、開催要旨、イベント情報など
 開催情報はこちらをクリック

2、資料ダウンロード  (※右クリックから「名前を付けて保存」を選択してください。)
講演資料
 生物多様性保全のためのミティゲーションの課題
矢原徹一(九州大学)
※諸事情により掲載できなくなりました。
下記議事録をご参照下さい。
講演資料
 生物多様性保全に関する政策提言案とその背景
宮崎 正浩 (跡見学園女子大学)
講演資料
 ノーネットロス政策と生物多様性オフセット(代償ミティゲーション)の義務化
田中 章 (東京都市大学)
※諸事情により掲載できなくなりました。
下記議事録をご参照下さい。
講演資料
 都市開発におけるノーネットロスの取組み
鈴木 章浩 (森ビル 株式会社)
パネルディスカッション 話題提供
 「生物多様性保全に関する政策提言」へのコメント
名取洋司(CI Japan)
「生物多様性保全に関する政策研究会」による政策提言 最終版
(2010年1月21日 第2回意見交換会 検討内容反映済みのもの)
   企業の生物多様性に関する活動の評価基準作成に関するフィージビリティー調査報告書の原文はこちら



4、議事結果概要


日時:平成21年3月19日 13:00〜16:00
場所:東京大学駒場キャンパス13号館1331号室(日本生態学会第57大会と同時開催)
主催:国際環境NGO FoE Japan、地球環境パートナーシッププラザ(GEIC)、生物多様性条約市民ネットワーク、地球・人間環境フォーラム
◆後援:日本生態学会
◆協力:企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)、WWFジャパン、バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)

【概要】
 本シンポジウムでは、生物多様性の保全を目的として既に欧米諸国で行われている“ノーネットロス政策”を中心に、今後の日本における生物多様性政策のあり方について議論が行われました。

 最初に、九州大学教授の矢原徹一氏より、九州大学におけるノーネットロスのための取組事例のご報告をいただきました。九州大学では『自然との共存』を謳い、ノーネットロスを目標に据えたキャンパス移転計画が立案され、その目標として『全ての種を残すこと』が掲げられました。一度絶滅する生物を取り戻すことはできないことから、建設工事によるリスクを回避することが難しい植物や水生生物、水と陸の両方を利用する哺乳類に焦点を絞り、これらの生息域を調査し、ミティゲーション計画が立てられました。ノーネットロスの実現のためには、開発前のアセスメントと開発後の持続的取り組みが重要であると述べられました。また矢原氏は、これらの経験から、ノーネットロスは実現可能であるとの見解が述べられ、ノーネットロス政策が推進されるように主張されました。

 生物多様性保全に関する政策研究会の代表・跡見学園大学教授の宮崎正浩氏からは、ノーネットロス政策などの必要性を訴えている『生物多様性保全に関する政策提言案』の概要をご報告いただきました。この中では、海外において行われてきたノーネットロス政策を参考にしながら、日本に適したノーネットロス政策の制度設計の重要性など、今後の検討事項等が提言案には盛り込まれていました。

 東京都市大学准教授の田中章氏からは、@環境アセスメントにおける生息地影響の定量評価、A回避・最小化・代償の各ミティゲーション方策の定義と優先順位の規定、B自然再生事業のオフセット・バンク化、C里山バンキングの試行、Dアースバンキングの検討等が、ノーネットロス法制化と併せて提案されました。

 企業の取組事例としては、森ビル株式会社の鈴木章浩氏より、都市開発におけるノーネットロスへの取り組みが紹介されました。森ビルでは、独自の垂直庭園都市(Vertical Garden City)という理念の下、JHEPを用いた客観的な評価手法を用い、生物多様性を再生する取り組みを始め、緑の少ない都市における再開発事業においてもネットゲインを実現することが可能であることを示す事例が紹介されました。

 パネルディスカッションにおいては、講演者に加えてコンサベーション・インターナショナル・ジャパン生態系政策プログラム担当の名取洋司氏もパネリストとして加わり、アンケート方式で集められた会場の質問を元に契機に活発な討論が行われました。名取氏は回避および最小化に対して最大限努力した上で代償を検討するというプロセスの重要性を強調し、代償が免罪符的として多用されることのないように注意を払うべきだと訴えられました。

 日本においては、ノーネットロスという概念の普及のみならず、その定義や指標に関してはまだまだ検討すべき点が残されていることも今後の課題として浮き彫りになりました。しかし、開発による生物多様性の損失をゼロとするために必要な政策として国全体で取り組んで行くことが必要であることが改めて確認されました。

今回のシンポジウムにおいて会場の皆様からいただいたご意見は「生物多様性保全に関する政策研究会」が作成する政策提言に反映する予定であり、その政策提言は、日本政府の政策決定者に提出するとともに、2010年10月に名古屋で開催されるCBD第10回締約国会議(COP10)に向けて国外へも発信していく予定です。

なお、この政策提言は、同研究会メンバーが個人として参加した研究会において議論し合意されたものであり、各メンバーが所属する団体や機関の公式見解ではありません。

【内容】
1. 開会:FoE Japan三柴氏の司会で開会。
コメンテーターとしてCI Japanの日比氏に代わって名取氏が参加していることを紹介。

2. 基調講演:
「生物多様性保全のためのミティゲーションの課題」  矢原徹一(九州大学)

(概要)
 地球の環境問題は、天然資源の枯渇(森・湿地などハビタットの減少、野生の食糧資源の減少、生物種の減少、土壌の減少)、天然資源(化石資源、水、光合成能力)の限界、人間が作り出したリスク(有害物質、外来種、温室効果ガス)、間接要因(人口増加と一人あがりのエネルギー消費量の増加)に分けられる(ダイアモンド著「文明崩壊」参照)。天然資源の枯渇は現在も続いている。このため、生物多様性条約(CBD)の2010年目標は失敗に終わると言われている。

 生物多様性の損失を止めるということは、ハビタットの損失を止めることであり、野生の食糧資源の減少を止めることを意味する。これは、とてもチャレンジングな目標である。資源の枯渇が続くことは明らかに持続可能でない。人間が作り出したリスクも減らさなければならない。

 日本での市民の協力を得た調査の結果によれば、100年後には約8%の植物種が絶滅する見通しである。環境省の改訂版植物レッドリストでは、ランクダウンされた種がある一方で、新たな絶滅危惧種がリスト化された。これらの種を減らしている要因のトップは開発行為である。大規模な開発は減ったが、小規模な開発が続いており、これが残ったハビタットを破壊している。新たな脅威は、シカの増加である。最近になって顕在化した脅威だがインパクトは大きい。シカを増やしている要因はおそらく3つある:林道によってシカが移動しやすくなっていること、温暖化の影響、人間が森を使わずハンターも減ったこと(これが最大の要因)である。

 日本は、食料も木材も国内自給率が低い。このことが世界の森林減少につながっている。森林減少に特に関係が深いのは、天然ゴムやパーム油の輸入である。アジア諸国では、森林が次々に伐採され、ゴム園やアブラヤシ農園に変えられている。アジア諸国では人口が若い世代に偏っており、今後の人口増加と経済成長を通じて、森林減少への圧力はさらに増大するだろう。

 日本の新しい生物多様性国家戦略では、2020年までに新たな絶滅危惧種を生み出さないという目標があるが、これは非常に達成が難しい。この実現のためには、国内外の大きなトレンドを止めなければならない。種を絶滅させないというほうが、より現実的な目標だろう。

 九州大学では、新キャンパスの造成にあたって、種を絶滅させない、森林面積を減らさないという目標を設定して、生物多様性保全事業を推進している。生態系をふくむ生物多様性保全のためには、事業の目標を明確にする必要があるが、生態系の機能や生態系サービスを指標とすることは難しいので、種を残すということ(ノー・スピーシーズ・ロス)を目標とした。しかし、微生物まで含めてすべてを調べて残すのは無理なので、植物と水生動物、および哺乳類に焦点を当てて保全事業を実施した。植物は移動して造成工事を回避できないし、水生動物も移動力が乏しく、造成工事の影響を受けやすい。これに比べ鳥類や陸上の昆虫などは移動力が高く、キャンパス用地以外も利用して生活しているので、キャンパスだけでの保全を考えるのは現実的ではない。哺乳類は移動力が高いが、鳥類などと違って空を飛べない。このため、哺乳類の存続には、水場・えさ場・ねぐらなどに適した環境の多様性がキャンパス内に確保されている必要がある。また、ロードキルを避けなければならない。

 まず、どこにどのような植物があるかを1300地点におよぶ10m×4m単位のベルトトランセクト調査によって把握した。その結果、対象地域に生育する種の約半分は、1300地点中5地点以下にだけ生えていた。このように、地域の生物多様性の大半は、その地域で稀少(レア)なものである。これらは、絶滅しやすい。このような稀少種は、例えてみれば、経済活動における中小企業のようなものである。保全においてはその地域で希少な種の多様性を残すことが大事である。

 造成計画策定においては、森林が残っている場所の保全につとめたが、建物に利用する有効敷地を確保するためにやむをえず造成区域に含めた森林については、特殊な重機を利用して林床を1.4m×1.4m×約50cmのブロックに切り取り、合計1.3ヘクタールの森林を別の場所(新たに造成された斜面)に移植した。この方法は、林床の植物、土壌中の種子や動物をそのまま移すことができる点で、非常にすぐれた方法である。ただし、高木をそのまま移すことはできない。このため、樹高約5mをこえる高木は地上部を伐採したうえで移植した。その結果、移植直後には林床が明るくなり、外来雑草をふくむ雑草性の種が増えた。しかし、2002年から2005年にかけてこれらが減少し、一方で森林性の種が土壌中の種子から回復した。その結果、241種から237種へと4種減ったが、森林性の在来種の多様性は維持された。また、水生生物は池を作って保全した。造成によってなくなる池から、新たに池へ生物を移動させた。これらの作業は市民・学生と協力して実施した。哺乳類は、赤外線センサーを用いて調査し、ちゃんと暮らしているかをチェックした。ロードキルに合わないようトンネルを作った。

 里山の自然は単に残すだけで守れない。人が森にいかにかかわるかが大事である。そこで市民ボランティアとの連携をはかり、市民がどんぐりや他の樹木の種子から苗育てて戻す活動を進めている。また、学生が組織したNPOでは、地域の酒造メーカーと協力し、人手のかかる伝統的な製法でお酒を作り、その売り上げの5%を森づくりに生かしている。

 このような九州大学での経験から、ノーネットロスは現実的に実施可能であると考える。ただし、開発前の戦略的アセスが重要である。九州大学の新校舎建設では公社がその造成工事を行ったが、このような公社方式では、事業主体と発注者との意思統一が必要であり、その調整が難しい。また、開発後の持続的な維持管理も課題である。

3. 話題提供(1)
「生物多様性保全に関する政策提言(案)」

宮崎 正浩 (跡見学園女子大学教授/FoE Japan 客員研究員)
(概要)
生物多様性保全に関する政策研究会が取りまとめた政策提言(案)について、その背景を含めての説明があった。(※詳細はこのページでダウンロードできるプレゼン資料をご参照下さい)

4. 話題提供(2)
「ノーネットロス政策と生物多様性オフセット(代償ミティゲーション)の義務化」

田中 章(東京都市大学・環境アセスメント学会)
(概要)
 生物多様性オフセットをどの時点から議論すべきか、が重要である。例えば東京湾の昔と最近を比べると開発事業によって非常に多くの干潟が失われた。残された干潟である播州干潟は、東京湾横断道路が建設されたが、その当時の環境アセスメントでは野生動植物のハビタットが11ha消失するとしている。しかしアセスの結論は、影響は軽微であり、環境保全目標は満足すると書いてある。代償はもちろん、回避、最小化もされていない。これは環境アセス法成立の前の事例であるが、アセス法制化後は回避、最小化、代償を行うこととなったが、現状でも実態は以前とほぼ同じである。ここが私の話の出発点である。

 多様な生物を保全するためには多様な生息地の保全が必要である。開発事業が生物多様性の危機の最大のものである。保全のカギは、開発による生息地の減少をどのようにコントロールするかである。これをコントロースするのがアセスの仕組みである。ミティゲーションの序列により、回避、最小化の検討を行い、それでも開発する必要がある場合には、残る影響は、仕方がないから、必要悪として代償することが必要である。

 このような代償において100%補償するのがノーネットロスであり、それ以上に補償するのがネットゲインである。保全のためには定量的目標が必要である。例えば東京湾でどれだけ干潟を将来の世代に残すのか、を議論するとなかなかまとまらない。このため、最大の問題である開発で、一個の開発でプラスマイナスゼロとすることを目標とするのが、ノーネットロス政策である。米国では潜在的な理念としては1950年代からあり、明確に規定されたのは1981年である。

  米国の事例を紹介すると、住宅開発で希少種がいたため、他のトマト畑を再生することとなった。この畑は、昔は河川生態系であったものである。この事例では、ある稀少種がいたおかげでノーネットロスが義務化した。また、ノーネットロスのために代償をまとめて行うのが、ミティゲーションバンクである。米国では、5年前では国レベルでは400くらいであるが、現在では600くらいはあるであろう。

 生物多様性オフセットは、米国の代償ミティゲーションとほぼ同義である。ドイツではコンペンセーションメジャー、豪州では生物多様性オフセットと呼ばれている。しかし、COP10に向けて「生物多様性オフセット」という用語にまとまりつつある。生物多様性バンキングは、従来からの米国でのミティゲーションバンキングであり、ドイツではエココントなどと呼ばれている。

 生物多様性オフセットは急速に世界に伝播し、52カ国で制度化が進んでいる。生物多様性オフセットは、CBDの第8回締約国会議(COP8)の決議にも入っており、その後、世界各国が国内制度化し、現在はODAなど越境的なものが議論されている。BBOPが今度のCOP10でオフセットのガイドラインを出すことになっている。また、グリーン開発メカニズム(GDM)はオランダ政府が提案しようとしており、その中の一つがODAによるオフセットである。このように生物多様性オフセットに向けての国際的な枠組みつくりが進んでいる。

 日本では、国内で制度化されていないが、国際的な企業やODAでは否応なく取り組まざるを得なくなってくるだろう。

 日本での生物多様性保全の課題は多いが、まずは、開発による生物多様性への影響を定量評価する必要がある。現在は、これが義務化されておらず、あいまいな言い回しで済ませている。環境アセスが重要だとされているが、現状では99%の開発事業はアセスの対象になっていない。日本では環境アセスは年間数十件くらい実施されているのみ。重要な生息地への影響がある開発が対象となれば千のレベルになるはずだ。まずはスクリーニングが問題である。また、ミティゲーションの定義と順位が明確でない。

  二次自然のアンダーユースの問題がある。このため、ミティゲーション・バンキングと二次的生態系の里山保全を融合した「里山バンキング」を提唱している。また、自然再生事業もバンクとして使うことも可能であろう。現状では、自然再生事業の土地はバンクとしては使わないことになっているが、国民の税金を使う前に、(汚染者負担の原則から)まずは自然を破壊する人が最初に払うべきだ。また、種の保存法によるハビタット空間の保護をもっと義務化すべきである。

  ODAでは戦略アセスとオフセットを開発事業にパッケージにした「生物多様性オフセットパッケージ型ODA」化を提案している。越境的バンキングも検討課題である。全地球レベルでのノーネットロスは、いずれは考え方として出てくる。EUではバイオバンキングとして越境的なものが検討されている。国によって事情が違うであろうが、いくいく考えざるを得ないであろう。しかし、マネーゲームのような変な方向にいかないよう、今からルール作りを考えていくべきだ。それを「アース・バンキング」として提案している。

5. 話題提供(3)
「都市開発におけるノーネットロスへの取り組み」   鈴木 章浩(森ビル)

(概要)
森ビルの緑化を支える理念(Vertical Garden City)、ノーネットロスへ向けた定量評価事例(JHEPを用いた再開発事業計画)について説明があった。(※詳細はこのページでダウンロードできるプレゼン資料をご参照下さい)

6. パネルディスカッション
- パネラー:矢原徹一(九州大学)、田中章(東京都市大学)、鈴木章浩(森ビル)、名取洋司(コンサベーション・インターナショナル)
- コーディネーター:宮崎正浩(跡見学園女子大学)

(1) コメント 名取洋司(コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 生態系政策プログラム) (※詳細はこのページでダウンロードできるプレゼン資料をご参照下さい)

(2) パネルディスカッション
参加者からの質問に対し、パネラーが回答又はコメントした(内容は省略)。

文責(宮崎 正浩)

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