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気候変動と海面上昇に対するフィジー諸島共和国環境省の取り組み

2002年7月1日
フィジー環境省気候変動局 イバ・レウェニクルワイ氏

はじめに
私たちは太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)と呼ばれるプロジェクトを行なってきた。この講義では、このプロジェクトについて主に扱う。このプロジェクトは、正式には2001年12月に終了している。
2002年3月からは、このプロジェクトの名前を変え、CBEDAMと呼ばれる教育向上のプロジェクトが始まっている。新しいプロジェクトの詳細については後の章で述べる。


フィジーの概況
 フィジー諸島共和国は南緯15度〜22度、西経177度〜東経174度に位置している。300以上(320)の島々からなり、100ほどの島だけに人が住んでいる。総面積は1万8,000km2(1万8,345km2)である。2つの大きな火山のある島があり、ヴィチレブ島は1万400km2(1万385km2)、ヴァヌアレブ島は5,540km2(5,535km2)である。ヴィチレブ島とヴァヌアレブ島を合わせた面積は、フィジー総面積の87%を占めている。

 フィジーの気候は、太平洋島嶼気候に分類される。南太平洋収束帯(SPCZ)は、フィジー諸島の北東から南西にかけて移動し、高い降水量をもたらす。南太平洋収束帯の位置は、乾期と雨期の2つの季節と区域内外の気候の変化に大きな影響を与えている。5月から10月までの乾期には、南太平洋収束帯はフィジーの北東に位置する。11月から4月までの雨期には、フィジーの南西に位置する。また、南太平洋収束帯とエルニーニョ・南方振動(ENSO)(1)の移動の影響を強く受け、南太平洋収束帯の区域内では降雨量の可能性が高い。熱帯サイクロンと低気圧は、フィジー諸島の南東を避けて、北側から西側の進路を通る。ヴィチレブ島の、ナンディーからスバまでの太平洋海岸と呼ばれる地域は、平均的に乾燥しやすく、時に、霧による影響で激しい雨が降る。

 次に、社会経済面についてであるが、フィジーはフィジー人、インド人、インド系フィジー人、ヨーロッパ人、中国人、その他の民族から構成されている。長くイギリスの植民地にあり、1970年に独立した。そのため、ヨーロッパ人も多く、一つの民族として分類している。1996年の調査によると、総人口は77万2655人である。人口密度については、90%以上が地方と都会に住んでおり、多くが海岸線沿いに住んでいる。フィジーではホテル産業やインフラが海岸線沿いで発達しているために、90%の人が海岸線沿いに集中している。その90%の人口のうち、75%はヴィチレブ島に住んでいる。近年、都市化の傾向にあり、仕事、教育、社会的サービスを求めて、地方から都会へ移り住む人が増えている。


気候変動に関する国際連合枠組条約への同意
気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)は1992年10月9日に締約され、1993年2月25日に批准された。フィジーは、この枠組条約に14番目に加盟した。今日、155以上の国が気候変動に関する国際連合枠組条約に加盟している。1997年の気候変動に関する国際連合枠組条約締約国会議・京都会議(COP3)では、先進国は2008年から2012年までの間に平均で5.2%、各国に決められた量のCO2量を削減することが確約された。1998年までに、フィジーは京都議定書を世界で最初に締約し、批准した。このことから、フィジー政府がフィジー諸島の気候変動と海面上昇の影響について大変強い関心を持っていることが分かる。


どうして気候変動と海面上昇が関心事なのか
 フィジーに来る前に勉強されてきたことだとは思うか、太平洋の島々では、環状サンゴ島に住む人々が、海岸侵食により海から離れた所に住まなければならなくなったり、海水侵入により農業方法を変えなければならくなったり、風、雨、潮流の変化が起きたりしている。海面上昇により、住んでいた場所から別の場所へ移った村が実際にいくつかある。ヴィチレブ島の東側にあるRA州(RA州はスバから車で1時間くらい)の村では、住民が内陸の方に移り住まなければならなくなった。満潮の時には、農場に海水が入り込んだり、家が海水の侵入により被害を受けたりしていた。住民の目の前には、海がせまってきて、後ろには切り立った崖があった。そのため、住民はどうすることもできずに、自分達の土地を離れることになった。現在のところ、住民の半数は別の土地へ移動したが、半数はまだ移動していない。このように、気候変動と海面上昇によりいくつかの村では、ここ5年の間、問題に直面している。この村の事例は、昨年、環境NGO団体のWWFにより、明らかになった。WWFは今、フィジーの気候変動と海面上昇のドキュメンタリー番組を制作していて、その村の長老にインタビューをして、移動の話を知ったのである。その村では、気候変動と海面上昇という難しい問題に直面している。ドキュメンタリー作品が出来上がれば、私たちも見ることができると思うが、作品の収録は終わっているが、今は編集の段階にある。その村には、外国人のジャーナリストも取材で入っている。昨年、ジャーナリストの神保哲生さんがフィジー、ツバル、キリバスを訪れ、収録をした。

 多くの州が気候変動に直面する一方で、それは証拠となる。気候変動の影響で起こりやすい被害の例を示してくれるからだ。私たちの近年の発展形態は、私たちの脆弱さを際立たせている。フィジーでは2000年のクーデターの後、海岸沿いのホテル産業の発展に力を入れている。砂糖産業は1997年から1998年の旱魃の後、大打撃を受けている。砂糖産業はフィジーの主要産業であり、GDPの19%を占める。砂糖産業は大変重要であるが、1997年の旱魃を受けて、製造業や観光業などの他の産業で、その打撃を補い、産業形態を切り換えようとしている。ナンディからスバまでの海岸沿いでは、現在、ホテルやリゾート建設が盛んで、そのために、森林の伐採が行なわれている。フィジーでは90%の人口が海岸沿いに住んでいるが、観光業が彼らの雇用を支えるようになってきていて、観光業はこれからも拡大する傾向にある。
 また、都市化により、地方から都市へと人が移動する。都市では無法居住者が増加していて、海岸生態系の崩壊をもたらすとともに、観光業の急速な発達を促している。このことは、島の極度な気候の変化をさらに加担している。


フィジーの気候変動の影響
 ここではフィジーの気候変動の影響を紹介する。太平洋島嶼気候変動支援計画の成果の一つとして、フィジー経済の調査を行ない、気候変動と海面上昇によって被害を受けやすいということをレポートにまとめたことが挙げられる。脆弱性と適応策に関する調査(V&A)では、農業、海岸、水、健康の4つを分類してまとめた。現在、出来上がったレポートを各部門に配布し、目を通してもらっているところで、数字や地図は変わる可能性がある。今年末か来年初頭にかけて、レポートを公表する予定である。南太平洋地域環境計画(SPREP)のウェブサイトでも、レポートの中の影響に関する内容を公開する。南太平洋地域環境計画(SPREP)の太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)のページには、この太平洋島嶼気候変動支援計画に参加している国々の公表レポートや計画の成果として挙げられたレポートを掲載している。

 脆弱性と適応策に関する調査(V&A)の第一部門では、農業について詳しくまとめた。レポートの中でも、この農業の部門が一番多く占めている。このことから、農業が、フィジーの経済で大きな役割を果たしていることが分かる。農業はGDPの19%を占め、外貨獲得の43%を占めている。フィジー経済の基幹産業で、外貨獲得の43%だけでなく、フィジーの総雇用の50%も支えている。農業は生産量や生産可能量において、気候変動やサイクロン、洪水、旱魃などの公害の被害を最も受けやすい。1997年のエルニーニョ現象は、その翌年にかけて深刻な旱魃の被害をもたらし、砂糖産業に大打撃を与え、農業部門に被害を与えた。他の農産物も同様に被害を受けた。

 海岸部門では、漁業と観光業も含めている。海岸線には、水資源、肥よくな農業地、暗礁、マングローブ、魚介類などの資源が集約されていて、私たちのような小さな島嶼国にとっては大変重要である。フィジーで、海岸の海面上昇や気候変動で予想される影響としては、海岸線の侵食、海抜の低い島、環状サンゴ島やビーチの喪失、海水の浸水、嵐や洪水の増加、地下水への海水の侵入、河川や湾の海水化である。

 パトリック・ナン教授は、フィジーの海面上昇と気候変動の影響の調査を長年にわたって行なってきた。特に、ヴィチレブ島の西側の海岸線沿いにあるセルア島で調査を行なっている。ヤサワ諸島でも同様の調査を行なっている。将来の海面上昇と気候変動を明らかにするにあたって、フィジーも含めた多くの太平洋島嶼国で、半世紀以上にわたり海面上昇の調査が行なわれてきていることを知っておくことは、重要なことである。三村教授とナン教授が共同して行なった調査(1998年)では、フィジーでは1年に1.5ミリの海面上昇が起きていることが分かった。他にも、ザン教授(1992年)、エスラー氏ら(1995年)、ナン教授(1996年)、ソロモン氏とクルーガー氏(1996年)が調査を行なっている。このような数々の調査から、気候変動と海面変化により、フィジーの海岸沿いが被害を受けやすい状況にあることが分かっている。また、調査はすべて文書化されている。1995年のエスラー氏の調査報告では、これまでの様々な調査により、海洋資源の過剰略奪、海岸汚染、都市化による土壌養分の減少が明らかになっていると述べている。先ほど説明したように、海岸線沿いのインフラ整備やホテル建設の増加、急速な都市化が、海岸線の自然環境をより圧迫している。

このような調査は、ヴィチレブ島の海岸地域に集中している。それは、研究者の資金不足や時間の制約からヴィチレブ島で調査を行なうことになるからである。また、ヴィチレブ島には75%の人口が集中し、10.400km2と面積が大きい。海岸線域は狭く、海抜も低い。このヴィチレブ島の地形は、5000年前から3000年前にかけての地殻変動と海岸線分離により形成されたもので、おおよそ3000年前に今の形になった。

調査の中で、私たちが重点をおいた第三部門は、水資源である。水は、物理的にも社会経済的にも生計維持の役割を果たすことから、必要不可欠である。フィジーは、水に関して、2つの正反対の自然災害が起きる。1つは、熱帯サイクロンシーズンの激しく大量の雨、洪水で、もう1つは、川の水の量が少ないことや旱魃から生じる水不足である。水不足は特に、フィジーの乾燥した西側地域で起きる。水不足の一例として、1997年から1998年にかけてのエルニーニョ現象による旱魃で、この旱魃は20世紀にフィジーで起こった大規模な水不足のうち、最も被害の大きかったものの一つである。現在も、水不足は続いていて、海抜の低い土地、特に観光産業が集中している地域では、海水が地下水に侵入して、半塩水になり、飲み水として使えなくなってしまったりする水の問題に直面している。セルア島には、美しい青い海や白いビーチが広がっていて、観光産業が集中している。この島でも、水不足に悩まされている。政府が水の輸送をして、多くの水を獲得しようと解決策を取り始めている。セルア島では以前から水不足の問題があったが、1997年から1998年にかけての旱魃後さらに水不足が悪化した。地下水に海水が侵入し、海岸から離れた内陸の地域でも塩水が検出された。その島の人々は、生計のため、観光産業のためにも、塩水ではない新鮮な水が必要である。

第四部門は私たちの健康に関するものである。気候変動と海面上昇は、洪水やサイクロンにより直接的にも、水や蚊を媒介とした病気の流布により間接的にも、私たちの健康に影響を及ぼす。デング熱は増加傾向にあり、人々の健康の重大な関心事でもある。デング熱は、降雨量の変化、周囲の気温、湿気により、蚊の発生量や蚊の刺す回数が増加することで起きる病気である。旱魃と同様に、下痢、皮膚や目の炎症といった病気や、栄養物摂取の減少も人々の関心事である。

健康部門は、ここ25年の間に発展を遂げた。人々の健康状態も向上している。これは、乳児死亡率を見ると顕著であるが、1975年には41.4%であった乳児死亡率が、1994年には16.3%となった。また、1996年の平均寿命は、女性は68.7歳、男性は68.4歳である。気候変動や海面上昇を抜きにして、健康部門はサービスを向上させてきた。医療技術の進歩により、多くの人々がよりすぐれた医療を受けられるようになっている。しかし、海面上昇や気候変動がもたらしたデング熱は人々の一大関心事であり、私たちは海面上昇と気候変動を防がなければならない。


太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)
 太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)は1997年に始まり、地球環境資金制度(GEF)の資金援助により、そして、国連開発計画(UNDP)の主導により22の太平洋島嶼国と4ヶ国の先進国が加盟している南太平洋地域環境計画(SPREP)(2)によっても支えられている4年間のプログラムである。また、太平洋島嶼気候変動支援計画は、国連研修研究機関(UNITAR)が実施している途上国の開発目標に温暖化対策を統合し、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の実施能力を向上させるための研修プログラム(CC.TRAIN)とも連携をしている。このプログラムは、1997年7月1日から正式に始まった。

太平洋島嶼気候変動支援計画は、太平洋島嶼国に対して、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の第12条で求められている自国の温室効果ガスの情報を取りまとめ、事務局にその情報を送付することを支援することに重点が置かれている。温室効果ガスの目録を作成することが義務付けられている。1994年の数字に基づいて、私たちは温室効果ガスの目録を作成し、1997年に完成した。その他に、気候変動によって起こりうる影響を割り出し、その影響に関して調査を行なうことが義務付けられている。その調査が先ほど述べた脆弱性と適応策に関する調査(V&A)であり、報告書は2000年にまとまったが、まだ発行には至っていない。国家の戦略を策定することは重要である。この報告書は、一種の権威書のようなもので、気候変動や海面上昇を明らかにしている。別の言い方をすると、この報告書を参考にして、フィジーの気候変動政策を考案していくつもりである。気候変動と海面上昇を対処していくためには、環境省と他の省、機関との連携は不可欠である。

人々の関心を高めるということは、すぐにはできない。時間を要する。このニュースレターは、環境省の様々なプロジェクトや太平洋島嶼気候変動支援計画についても書かれている。私たちは一年間の計画で仕事を遂行しているが、環境省ではどういうことを行なっていて、どのようなプロジェクトが行なわれるのかという情報を知ることができる。今年3月から人々の意識向上に関する新しいプロジェクトが始まっている。このニュースレターは、国内外を問わず、すべての人に配布している。南太平洋地域環境計画にも配布している。ニュースレター作成は昨年から導入し、気候変動局や環境省のほかの局からの資金で、ニュースレターを作成している。基本的には、環境省におけるすべての局のプロジェクトを紹介している。英語で書かれているため誰でもニュースレターが読める。学生、小学生、中学生にもどのようなことが行なわれているか分かるようになっている。それぞれの局から、個々のプロジェクトが人々の意識向上を推し進めている。ニュースレターの他にも、石油会社のシェルの資金を頂いてポスターを作成している。私たちは民間の石油会社シェル、イギリス警察、他の民間会社から支援を頂いている。


太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)の継続、CIDAへ
 太平洋島嶼気候変動支援計画の内容についてさらに話したい。太平洋島嶼気候変動支援計画は、加盟国に、これまで行なわれた数々の調査の意義について考えさせることもしてきた。また、計画は、気候変動対応策の一部として、各国の発展計画をまとめていくことにもなる。私たちの国家戦略(NIS)報告書には、フィジーの各省の様々なプログラムについて書かれてある。国家の環境政策や戦略を立案するために、私たちは国家チームを作っている。そのメンバーには、各省の代表、非政府組織(NGO)、その他に気候変動と海面上昇に対して持続可能な将来に向けての活動に賛同してくれる人々が入っている。フィジーは大きな島国であり、経済力もあるため、30人のメンバーが集まっている。メンバーは経済を支える各部門から集まっていて、政府、民間からは3、4名、非政府組織、科学者、南太平洋大学の学識有識者などである。メンバーは、それぞれの組織において地位のある人々である。この国家チームは、太平洋島嶼気候変動支援計画の主導により行なわれていて、各省の他のプロジェクトにも学びの場を与えている。フィジーでは今多くのプロジェクトが稼動していて、私たちは環境保全のため、気候変動と海面上昇の対処に向けて、皆で取り組んでいる。しかし、私たちには資源がない。皆がチームとして集まって、資源を共有し合い、対策に向けて取り組むことは良いことである。太平洋島嶼気候変動支援計画に加盟しているほかの小さな島国でも、国家チームとして10から15人のメンバーが集まっている。フィジー、バヌアツ、パプア・ニューギニアという大きな島国では、20から30人の国家チームのメンバーが集まっている。全部合わせると、太平洋島嶼気候変動支援計画の主導で実施している国家チームには、200人のメンバーがいることになる。

 太平洋島嶼気候変動支援計画は、正式には2001年12月に終了した。このプログラムに参加していた国々では、今も何らかの形で活動を続けている。2001年12月から、カナダ政府が気候変動の適応支援策として、資金援助を行なっている。この2国間援助は、2001年にフィジーで行なわれた会議で、太平洋島嶼気候変動支援計画に参加している10ヶ国に告示された。この支援策を受け入れたいなら、それぞれ各国が、その旨をこの提案書に書くようにと告げられた。最終的には、4ヶ国だけがこの支援策を受けられることになった。その4ヶ国とは、フィジー、バヌアツ、サモア、クック諸島である。この適応支援策は、カナダ国際開発局によるものである。

 太平洋島嶼気候変動支援計画は2001年に終わり、2002年3月からは新しいプロジェクトが始まった。このプロジェクトの名前は、太平洋島嶼国における適応策の発展を促すための意識向上の統合的手法(CBEDAM)である。このプロジェクトの総合目標は、環境を保全し、持続可能な発展に向けて人々の意識を向上させ、よりよい生活環境を構築することである。この適応策と意識向上のプロジェクトは、私たちにとって学ぶものが多いと考えている。私たちは、これまであまり気候変動プロジェクトの適応策に関わってこなかった。今回の適応策は、政府により計画され、実行された初めてのものとなる。フィジーで行なわれている適応策と気候変動を目的としたプロジェクトの多くは、非政府組織によるものである。非政府組織は、地元のコミュニティと結びついて、天然資源を守ろうと積極的に取り組んでいる。政府も多くのプログラムを行なっているが、今回の適応策のプロジェクトは、フィジー政府がコミュニティと一緒になって行なうものとしては、初めてである。私たちは、3つの村を選んで、気候変動と海面上昇に対応していくために一緒に取り組んでいくつもりである。いずれも私たちが事前に調査をした村で、気候変動と海面上昇について見解をもっている村である。

 このCIDA(CBEDAMを略して)プロジェクトは、太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)から上積みされただけで、気候変動の政策と戦略を作り上げるにあたって、必要な情報や取り組みは、太平洋島嶼気候変動支援計画によってすでに行なわれてきた。CIDAプロジェクトは太平洋島嶼気候変動支援計画の続きに過ぎない。このプロジェクトは、気候変動と海面上昇に関わっている様々な機関の連携への動きを強めるだけでなく、プロジェクトをさらに発展し維持していくためには、国際間及び地域間の連携や結合が必要となる。地域間の連携とは、太平洋島嶼国や、同じような脆弱性と適応策の問題を抱えているカリブ海の国々のことである。

 CIDAプロジェクトは5つの要素から成立っている。1つ目は計画である。2つ目は意識向上(キャパシティ・ビルディング)であり、このプロジェクトの中でも最も重要である。私たちは地域のコミュニティに対して、参加型学習の方法を計画している。3つ目はコミュニティによる評価である。私たちは太平洋島嶼気候変動支援計画で適応対策を行なってきたが、それは国家によるもので、ある特定のコミュニティに焦点が置かれたものではなかった。このプロジェクトでは3つのコミュニティに特定した評価を行なうことになっている。4つ目は、3つのコミュニティに特定した適応支援策を行なうことである。5つ目は、プロジェクトのモニタリングとマネージメントである。5つの構成要素は、私たちが産業プロジェクトを計画する時に、様々な職務や活動、責任から明らかになったものである。


CIDAの内容・目標
 まず、気候変動対策の政策と戦略である。第2に、人々の意識向上である。教育部門がコミュニティに行なった太平洋島嶼気候変動支援計画の意識向上の活動プログラムは20例だけである。私たちが行なっている意識向上の活動の多くが、村の長老に対するものであり、子供も村で起きている様々な変化を知っておく必要性がある。このプロジェクトの中で、人々の意識向上(パブリック・アウェアネス)は重要である。
 以前、政治家に対してセミナーやプレゼンテーションを行なったことがあるが、政治家でさえも、気候変動や海面上昇について知っておく必要性があると感じた。政治家が認識した上で、村に彼らをつれていき、村の人々に対して意見を言ってもらおうと考えている。国内の適応支援策や政策を作り上げようとしたいなら、政治界を教育することが重要である。

 第3に、方法論を発展させることである。プロジェクトを行なっていく過程において、方法論を発展させ、コミュニティとともに取り組めるようにする。コミュニティと効率的に活動するためには、私たちは柔軟性をもたなければならない。ただコミュニティに行って、ここではこのような影響が出ている、このようにやってほしい、と人々を説教するようではいけない。私たちには文化と伝統がある。コミュニティと効率的に活動するには、人々と一緒に座って、分からせるようにしなければならない。私たちが調査した科学的事実からは、気候変動の影響でこのようなことが起きている。海面上昇でこのような影響も起きている。コミュニティと一緒になって方法を発展させ、適応支援策を効果的にしていくことが大切である。

 第4に、方法論と技術の移転である。方法論を発展させることは、コミュニティ自身でもできる。プロジェクトの計画段階、実行段階からコミュニティの人々と一緒に取り組む。コミュニティが主導的にプロジェクトを実行するためには、一番始めからコミュニティを巻き込んでいくことが大切である。つまり、住民が、問題がどういうもので、気候変動と海面上昇により起こっているという事を知っていることである。科学的な知識だけでなく、伝統的な知識も使えば、適応支援策の戦略を発展させることができる。気候変動と海面上昇により、コミュニティは適応することができないと言うことは不公平である。伝統的な方法によって、コミュニティは適応することができる。例えば、もし住民が、海面が海岸線に近づいて、子供たちが遊んでいる所まで近づいていると気付けば、昔は村の前にはマングローブが生い茂っていて、海は今ほど近くなかったと言うだろう。そして、これは村の前にあるマングローブを刈ってしまい、それによって海面上昇が起きていると分かる。このような変化に適応するためには、住民自身がマングローブを再生することで適応できるという方法を取る必要がある。海岸線沿いに植物を植えることで、適応していけるようになる必要がある。植物を植えることは、海面上昇の影響を抑えるのである。このようなことが、太平洋島嶼国の伝統的な方法である。海岸沿いの植物には、薬草作用がある。これが、海岸沿いの多くの森林がなくなっていっている理由でもある。太平洋島嶼国では、マングローブは重要で、使用方法も多岐にわたる。人々が薬に使ったりするために、森林伐採が頻繁に行なわれている。住民自身が率先して、周りの環境の変化に適応していく。つまり、海岸沿いのマングローブの再生プロジェクトを行なったり、一年のある期間は、特定の地域で漁業をしないようにしたりする。

 最後に、実践とプロジェクトのマネージメントである。このプロジェクトは気候変動局の私たち2人によって運営されている。私たちがプロジェクトを運営し、コミュニティ評価の研究のためのデータや情報を集めているが、近く地元のコンサルタントにやらせるつもりである。


補完プロジェクトとしてAIACC
 もう一つの適応策プロジェクトとして、気候変動による科学データのみに焦点を置いている複数地域及びセクターにおける気候変動の影響評価と適応(AIAAC)がある。AIACCプロジェクトは将来世代のモデル提示に焦点を置いている。太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)のもとで、私たちは包括的なシナリオモデルを始めた。そして、ニュージーランドに本部を置く地球調査の国際センター(AGCI)が、太平洋島嶼国の気候変動や海面上昇の将来のシナリオモデルを発展させた。AIACCプロジェクトはそのモデルに上積みして、将来のモデルを構築することが目的とされる。つまり、適用と評価に焦点が置かれ、データをもっと集め、土台にある情報を発展させて、手法やモデルを有効化して、脆弱性と適応の評価をおこなうことである。キャパシティー・ビリディングも内容の一つである。方法とモデルを移転して、南太平洋大学で行なわれている国内の訓練プログラムを発展させている。AIACCプロジェクトはフィジーとクック諸島のみの事例研究であり、今行なわれている様々なプロジェクトの補完的なものに過ぎない。

 将来世代のモデルは、太平洋島嶼気候変動支援計画のもとで構築されてきた。将来世代のモデルとは気候変動と海面上昇によって受ける影響評価のシナリオを作ることである。太平洋島嶼気候変動支援計画の時には、太平洋島嶼国の統合的な評価モデルを構築した。この評価モデルはPACCCLINと呼ばれている。CCLINの評価とは、気候変動と海面上昇により受ける影響の評価である。CCLINは、地域のシナリオを構築したモデル、つまり温室効果ガスの目録を作成して、地球の海面の変化モデルや地域の機関を使って、将来のシナリオに向けて気候変動と海面上昇を示したモデルである。これまでのモデルを発展させて、将来世代のモデルを作ることである。モデルの改善は可能な限りできる。そして、CCLINモデルから、各国が自国のモデルを作る。フィジーでは、フィジーCCLINモデル、フィジー気候モデルと呼ばれる自国のモデルを作った。このモデルは、農業部門、水資源部門、健康部門、海岸部門から構成されるものだが、広く一般には公表はしていない。まだ発展段階にあり、太平洋島嶼気候変動支援計画の支援を受けながら、意見や将来の気候変動や海面上昇の予測が付け加えられている。


結論
 太平洋島嶼国における適応策の発展を促すための意識向上の統合的手法(CIDA)プロジェクトは、太平洋島嶼気候変動支援計画(PICCAP)を引き継いだ。そして、複数地域及びセクターにおける気候変動の影響評価と適応(AIAAC)は、CIDAの補完的プロジェクトである。地域、国家、コミュニティなどあらゆる階層の協力によって気候変動への取り組みが動き出したところである。プロジェクトは、過程で学んでいく学習効果のあるものである。私たちはコミュニティの気候変動の適応策に精通した専門家ではない。住民と共に取り組み、そこで生活している住民、伝統や文化を大切にしている住民と共に取り組むために、慎重にプロジェクトを積み重ねていく必要がある。また、政治、経済、社会のあらゆる人々に呼びかけ、プロジェクトの手法は有効か、適切か、費用は見合っているかということを提示していく必要がある。フィジーのような大きな島国では、気候変動や海面上昇の対策としてすべてを巻き込んで取り組んでいくことは簡単だと思われるかもしれないが、大変難しいことである。気候変動政策や戦略が考案されるように、皆が能率的に一緒に取り組んでいけるように、気候変動や海面上昇に適応していくために同じ意見にしていけるように、様々な部門から人々を集めているが、それぞれの部門ごとに政策やプログラムをもっているので、まとめていくことはとても難しい。皆がチームとなって動けるように、力が合わせられるようにしている。加えて、南太平洋大学とも一緒に取り組んでいかなければならないし、簡単なことではない。もし私たちが会議に加盟せず、太平洋島嶼気候変動支援計画の加盟国でなければ、フィジー政府の気候変動プロジェクトは行なわれなかっただろう。しかし、政府の中に気候変動プロジェクトを作り、活動が共同して動いていけるように気候変動局を立ち上げたのは、政府がこの問題に関心があるからなのである。


引用資料
(1)ENSOは、暖水プールの移動と大気現象があい伴って起こっており、大気−海洋の相互作用が地球規模の気候変動をもたらす例としてそのモデル計算や観測を現在おおぜいの研究者が進めている。(https://www-cger.nies.go.jp/cger-j/c-news/vol7-5/vol7-5-1.html)
(2)SPREPは22の南太平洋島嶼諸国および地域(アメリカ領サモア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、フランス領ポリネシア、グアム、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、ニューカレドニア、ニウエ、北マリアナ諸島、パラオ、パプアニューギニア、ピトケルン島、ソロモン諸島、トケラウ、トンガ、ツバル、バヌアツ、ウォリス・フツナ諸島、西サモア)と先進4ヶ国(オーストラリア、フランス、ニュージーランド、アメリカ)によって構成されている。 (https://www-cger.nies.go.jp/cger-j/db/info/orgnf/sprepnf.htm)

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