サンロケ多目的ダムプロジェクト
地球の友から輸銀への要望書(99.9.20)



地球の友から輸銀への要望書
1999年9月20

日本輸出入銀行
総裁 保田 博 殿

フィリピン・サンロケダムへの融資再開及び新規融資について

 貴職におかれましてはますますご活躍のこととお喜び申し上げます。
 さて、日本輸出入銀行(以下、輸銀)が近日中にフィリピンのサンロケ多目的ダム事業に対して、融資再開および新規融資を承認するとの情報を得ました。しかし、これまで国会議員、地元自治体、専門家、住民、市民グループによってダム建設による堆積や地震への安全性など環境アセスメントの不備、先住民族の権利、不十分なコンサルテーション、採石による環境破壊、移転地での生活など多くの問題(下記参照)があげられており、いずれも解決されないままです。十分な社会・環境対策が実行されないままに、ダム建設は事業実施主体(サンロケパワー社)およびフィリピン電力公社によって一方的に進められています。日本の公的金融機関である日本輸出入銀行は、これらの問題が解決されるまで融資再開および新規融資を行うべきではないと考えます。

1.ダム上流の先住民族の生活への影響

 ダム上流のアグノ川流域を生活基盤とする先住民族は、ダムの貯水池に生活基盤である土地が奪われるという短期的なダムによる影響だけでなく、長期的なダムによる影響を懸念している。巨大ダムによって彼らの生活基盤であるアグノ川が塞き止められ、川床が侵食によって土砂で埋まり、貯水池への堆積によって川岸での洪水が頻繁に起こるようになり、彼らの田畑、果樹、家屋、コミュニティや文化、生活そのものが失われてしまうという問題を懸念している。また、貯水池に十分な水を溜めるための集水域管理計画により、アグノ川流域での彼らの土地へのアクセスが制限されることを懸念している。 環境アセスメントの分析の中でも、ダム上流部での堆積が予想されている以上の速度で進み、上流部で頻繁に洪水が起こる可能性が指摘されている。しかし、現時点でこうした影響によって先住民族の人々の生活にどれだけの影響があるのか十分に調査がなされていない。もちろん、こうした社会・環境影響における対策も取られていない。

 現在、フィリピン電力公社によって上流部の先住民族の生活への影響を再調査するための社会・経済調査が実施されているが、この調査はまだ完了していない。フィリピン電力公社 によるとこの調査は今年11月か12月までかかるとのこと。輸銀は、少なくともこの調査結果をもとに地元住民への十分な説明と対話の場を設け、対策が十分であるかどうか審査した上で、融資再開の判断を行うべきである。

2.ダム上流の先住民族とのコンサルテーション

 堆積や集水域管理計画によって、プロジェクトは現在把握されているよりもより広範囲の人々に影響を与えることが容易に予測されるが、これらの人々との適切なコンサルテーションはいまだに行われていない。

 輸銀は自ら作成した融資再開の前提として「プロジェクトから影響を受ける移転対象世帯以外の住民(含む先住民)とのコンサルテーション・対象住民数確定調査の実施」をあげているが、現時点でプロジェクトから影響を受ける対象住民数確定調査が完了していないため、彼らへのプロジェクトによる影響についての説明や意見交換などのコンサルテーションは当然、実施されていない。

3.環境アセスメントの不備

 今年8月、国際河川ネットワーク、サンタナイ・シャルピリップ先住民族運動、コルディ

 リェラ民族同盟、地球の友ジャパンによって行われたダムの専門家チームによる、1984年の環境アセスメント 、1997年の改訂版環境アセスメント 、1985年の国際協力事業団(JICA)によるサンロケ多目的ダム開発計画調査、1994年の実行可能性調査(F/S)、1999年のアグノ川堆積調査の分析結果が発表された。

 この中で専門家は、貯水池は堆積によってアセスメントで予測されているよりも早く埋まり、このためダムの寿命が極端に短くなりダムの経済性に影響を与えることになるだろうとしている。また、汚染された土砂の堆積が貯水池や下流域の水質を悪化させるであろうことや、アセスメントで予測されているよりも地震による影響が大きいと考えられること、ダムが洪水の影響をむしろ悪化させてしまうという問題についても指摘している。この分析に基づいて、フィリピンの上院議員グレゴリオ・ホナサン氏も、地震によるダムの安全性について再調査を行う必要があるとの声明を発表している。しかし、これまでのところサンロケパワー社、フィリピン電力公社、輸銀のいずれからも、この分析に対する具体的な返答はない。

 輸銀は「環境アセスメント分析は、事業実施主体およびフィリピン政府が対応すべき問題である」として、この中で指摘された問題について何ら具体的な説明を行っていない。輸銀は少なくとも環境アセスメントの不備に対して再調査等適切な対応が取られるまで、融資の再開および新規融資を検討するべきではない。

4.採石による下流域への環境影響

 ダム下流のパンガシナン州サンマニュエル市議会からも、ダム建設にともなくいくつかの懸念があげられている。その一つは、サンロケパワー社がダム建設のために行っているサンマニュエル市のナラ村での500ヘクタールに及ぶ10メートルの深さの採石である。

 この採掘作業はこれまでのコンサルテーションの中では議論されてこなかった課題であり、環境天然資源省によって出された1985年の環境許可書の中にも触れられていない。この採掘作業に関しては環境アセスメントの中でも触れられておらず、地元住民は数ヶ月前に採掘作業が始まるまで採掘について知らされていなかった。採掘は地域の洪水を悪化させ、議会はナラ村の人々は移住を余儀なくされるだろうとしている。

 もう一つは、地元のラックラック民族とのコンサルテーションの過程についてである。議会によると先住民族国家委員会(NCIP)の承認に関する合意文書は、ラックラック地域全体との通常のコンサルテーションに基づいて出されたものではないという。多くの部族のメンバーは合意文書に反対している。彼らは通常のコンサルテーションに基づいて、ラックラック地域の要望が反映された合意文書の作成を望んでいるが、これまでにサンロケパワー社もフィリピン電力公社もこの申し入れを聞き入れようとはしていない。

 最後に議会は9月15日の日本大使館宛ての手紙の中で、フィリピン灌漑事務局(NIA)が水量調節池の建設がいつ始まるのか明らかにされていないといういう問題をあげている。議会によると、これは調節池の完了をダムの完成から少なくとも3−4年遅らせることになるという。これは下流域での洪水を悪化させることになり、突然の不慮の放水によって死傷者を出すことにもつながる。調整池のデザインや建設についての計画が明らかにされるまで、ダム建設は行われるべきではない。

5.移転地での生活

 現在、サンロケ村の再移住地では仮移住地から永続移住地への移動が進んできているが、移転対象世帯は必ずしもここでの生活に満足しているわけではない。8月初めに行われたフィリピンのNGO、教会関係者によるミッションによると、移転対象世帯のいくつかの世帯は移住したくはなかったが強制的に移住させられたと話している。大型トラックやブルドーザーが家屋や所有物を移動させるためにやってきて、軍隊がそばにいたという。こうした状況のもと、人々はフィリピン電力公社からの移住のためのお金を受け取らざるを得なかったという。

 以前は田畑を耕し家畜を飼い、果樹を育て雨季には砂金採りで生計を立てていた家族が、再移住地では家族を養っていくための長期的な生計手段や収入源を失ってしまっている。これまでに代替となる土地はなく、フィリピン電力公社によって行われている生計プロジェクトやその他の代替案は成功していない。近くに医療施設もない。

 移転住民は特に長期的な生計手段を失い、将来に大きな不安を抱いたままである。移住計画が住民に満足の行く形で行われていない以上、彼らに対して的確な生計プログラムや新しい土地の確保がなされないままに、輸銀はプロジェクトに追加的な支援を行うべきではない。

6.17の条件、ECCの追加条項

 ベンゲット州イトゴン市がプロジェクト承認の条件として提示した、17の条件、環境許可書の追加条項はまだ達成されていない。

7.先住民族権利法の適用

 このプロジェクトに関しては、先住民族権利法を適用すると聞いているが、今の時点で先住民族権利法の手続きに基づいて、先住民族の人々とのコンサルテーション、プロジェクトの承認は行われていない。

 上記のプロジェクトに関する問題を見ていくと、輸銀が今の時点でプロジェクトに対して追加の支援を行うべきでないことは明らかです。少なくとも上記の問題を解決するまで、輸銀はサンロケ多目的ダムプロジェクトへの融資を行うべきでないと考えます。このダムプロジェクトによって、アグノ川の上流・下流で何万もの人々が影響を受けることになります。貴行の慎重な判断によって地域の社会・環境配慮をより質の高いものにすることが可能です。貴行がより慎重な融資判断をされることを強く要望します。

→→要望書に賛同していただいた方へのお礼

→→輸銀のフィリピン融資再開の問題点について

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