甲状腺がんの多発

原発

いま、原発事故の多くは被害者は、経済的にも心理的にも追い詰められた状況におかれています。心理的な不安のひとつが、被ばくによる健康影響です。
2016年12月27日までの福島県県民健康調査委員会の資料によれば、甲状腺がん悪性または疑いと診断された子どもたちの数は、1巡目2巡目合わせて183人。2014年から始まった2巡目検査で甲状腺がんまたは疑いとされた子どもたちは68人。この中には、1巡目の検査で、問題なしとされた子どもたち62人が含まれています。(下図参照)
ここで、「疑い」としているのは、穿刺細胞診を経て「甲状腺がん」と診断されている子どもたちの数であり、手術後、摘出した組織を診断して、「甲状腺がん」を確定しています。
福島県県民健康調査委員会では、(チェルノブイリ原発事故時と比べて)被ばく量が少ない、小さな子どもたちにがんが見られないことなどをあげて、「事故の影響は考えづらい」としていますが、後述のように同委員会のもとにおかれた甲状腺評価部会は、「多発」については認めているのが現状です。
国も委員会も、被ばく量にのみとらわれ、事故の影響を否定することのみに注力しており、現在生じている事象、甲状腺がんの疫学的な分析や、症例について、きちんとした議論は行われていません。

★甲状腺がんファクトシートはこちら(PDF)

甲状腺がん疑い・確定の内訳(2016年12月27日現在)

「多発」を認めた甲状腺評価部会

国立がんセンターの統計によれば、日本全国の19歳以下の甲状腺がんの発生率は10万人中0.367人とされています。
現在、福島の子どもたちの甲状腺がんの率は、約30万人中100人以上で、この数十倍におよびます。
甲状腺エコー検査を行うことにより、通常よりも前倒しで発見される効果を「スクリーニング効果」といいますが、この「スクリーニング効果」を考慮しても、これは多発だと福島県県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会が認めています。
2015年5月18日の委員会において、同評価部会は「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数(注:実際に病気をもっている数)に比べて数十倍のオーダーで多い」とする中間取りまとめを発表しました。この文言は、福島県県民健康調査委員会のとりまとめ案にも採用されています。

多いリンパ節転移や甲状腺外浸潤

2015年8月31日、手術を受けた子どもたち96人の症例について、福島県立医大(当時)の鈴木眞一教授によるペーパーが公開され、リンパ節転移が72例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が92%にのぼることが明らかになりました1。県民健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べています。このことは甲状腺がんの多発が「過剰診断」であるという批判は実情にそぐわない批判であるといえるでしょう。事実、鈴木眞一教授は、ずっと甲状腺がん検査の責任者であり、以前より、「過剰診断」という批判に対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、「放置できるものではない」としてきました。

しかし、このあと県立医大からの手術症例に関する情報開示は途絶えており、2巡目の子どもたちの症例については不明なままです。

福島県外でも重症化の事例が

 福島県外でも甲状腺がんが重症化している子どもたちの存在が指摘されています。
「3・11甲状腺がん子ども基金」(代表:崎山比早子氏)は、2016年12月から、東日本の15の都県における25歳以下の甲状腺がんの患者たちへの療養費給付事業を始めました。2017年1月までに発表された給付対象は、福島県および近隣県・関東の患者53人(うち福島県内が41人、福島県外が12人)。福島県外では、検診体制が不十分なため発見が遅くなり、肺転移など重症化しているケースが目立っています。
 現在、子どもたちの甲状腺の一斉検査が行われているのは福島県だけです。県外では、個々の自治体や民間団体による自主検診が行われているにすぎません。

被ばくを最小化し、健康被害を食い止めるために

被ばくを最小化し、健康被害を食い止めるためには、現在生じていることに目を向け、多様な専門家や当事者、市民の参加のもとに、冷静な議論を行い、因果関係に関する意見の相違を乗り越えて、被害者のための対策をとっていくことが必要です。
また、20ミリシーベルト基準と、現在の帰還促進政策を撤回し、公衆の被ばく限度1ミリシーベルトの原則にたって、当事者、市民の参加のもとに、冷静な議論を行っていくことが求められています。そして、当事者参加のもとに、被ばく影響も考慮に入れた上で、避難・帰還政策を決定し、避難継続・帰還のどちらを選んだ場合でも、経済的にも、健康面でも支援を行っていくことが不可欠です。

注1: 第20回福島県県民健康調査委員会(2015年8月31日)資料「手術の適応症例について」

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