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四川大地震、ダムと関連の可能性 (ニューヨーク・タイムス 2009年2月5日)


原文>https://www.nytimes.com/2009/02/06/world/asia/06quake.html?_r=1&ref=world


四川大地震、ダムと関連の可能性

By SHARON LaFRANIERE

北京-8万人の死者・行方不明者を出した中国・四川省の大地震から9ヶ月近くが経った現在、4年前、断層近くに建設されたダムの貯水池が地震を誘発したのではないかと示唆する米中の科学者が増えている。

地震の研究を行ったコロンビア大学の科学者によると、有名な主要断層から1マイル(約1.6キロメートル)も離れていない紫坪鋪ダムの貯水池の、重さにして3億2千万トンもの水が地震の引き金となったかもしれないということだ。同科学者が12月にアメリカ地球物理学連合(the American Geophysical Union)に出した結論は、地震以前にダムによって大きな地殻変動が起きていたという中国人地球物理学者の新しい研究結果と同じものである。

科学者らは、ダムと断層のずれとの関連は完全に証明されたわけではなく、ダムが引き金であったとしても、いずれは起こるはずだった地震の時期を早めただけである、と強調している。

とはいえ、政府プロジェクトが中国で近年稀にみる大規模な自然災害の一因だったという考えは、どんなものであれ政治的に一発触発の状態を生む可能性がある。

政府の説明責任と対応の問題は、中国国内でこの1年、収拾のつかない状態になっている。マグニチュード7.9の四川大地震も、すでに政治問題となっている。地震の犠牲となった数千人の子どもの親が、怠慢で腐敗した官僚が安全性の低い校舎の建設を認可したために、子どもたちが不必要に犠牲になったと非難したのだ。

昨年、中国政府が汚染粉ミルクの流通を防げずに30万人近くの乳幼児が健康被害を受け、6人が死亡した事件が起こり、国民の怒りはさらに噴出した。

「政府が関係している災害は、現在どれも非常に大きな損害を与えており、政治的にも極めてデリケートな問題です」と話すのは、ブルッキングス研究所の中国研究長のCheng Li氏だ。

もし四川大地震が「単なる自然災害ではなく人為的状況と関連していたと証明されれば、中国政府は全面的な説明責任を問われかねないため、その手の報告に強い不快感を示すだろう。」とLi氏は述べた。

中国は、水資源は豊富だが地震が起きやすいといわれる南西部に主要な水力発電ダムを多数建設中のため、紫坪鋪ダムの問題は特にデリケートだ。

環境保護団体であるProbe Internationalの記事によると、環境活動家や学者らのグループは7月に要請書を政府に提出し、政府の科学者らが5月の地震の危険性を過小評価していた事実は、他の5つの主要河川に沿って同じ渓谷に建設されている多数の他のダムについての問題を提起していると伝えた。中国当局は、四川省のダムの貯水池建設が市民をさらなる危険に晒すという意見を断固として退けた。そして、危険が見過ごされていると提言する環境団体のホームページをいくつか閉鎖させている。

中国の『サイエンス・タイムズ』誌の12月の記事で、中国科学院の2人の科学者は、ダムが地震にいかなる影響をも与えることを強く否定した。Probe Internationalが出した翻訳によると、「中国国内外の地震研究のコミュニティでは、貯水池が原因であるマグニチュード8の地震は有史以来これまで起こったことがないため、5月12日のブンセン地震は大規模な地殻変動が引き起こした巨大な自然災害であるという意見が広く受け入れられている」と、水工学を専門とするPan Jiacheng氏は語っている。

いかなる規模のダムでもそれ自体だけで地震を起こすことはできないというのが科学者の一般的な意見である。しかし、コロンビア大学Lamont-Doherty地球観測所の上級研究員であるLeonardo Seeber氏は、もし地震の地質的条件がすでに整っていれば、それほどの大量の水の圧力が地震発生の時間を早めることはありうると語っている。彼は一番よく知られている例として、インドの辺地にあるKoynaダムが原因となった1967年の地震を挙げた。それは、マグニチュード約6.5で、死亡者数は約180人であった。

Seeber氏は、四川の地震と紫坪鋪ダムの関連性は未だ証明されていないが、地球物理学上の災害を専門とするコロンビア大学研究員のChristian Klose氏の研究では、水の重さによる圧力が地震発生の時期を200〜300年早めた可能性のあることが示唆されていると、述べている。

「どっちみち起こっていただろう」とSeeber氏は言う。「しかし、もちろん、被害を受けた人々はその時期の違いが重要だと思うだろう。」

Klose氏は、紫坪鋪ダムの貯水池の水の重さは、年間を通じて地殻運動によって及ぼされる自然発生的な圧力の25倍に相当すると概算している。未発表の論文の要旨で彼は、水によってさらに加わった圧力が、Beichaun断層の破壊を引き起こしかねない結果を生んでいる、と記した。

50階建の建物と同じ深さ、そして10億立方メートル以上の貯水が可能なほど大きい紫坪鋪ダムは、岷江を股にかけ、中国最大の水資源開発事業の一つとして建設された。

当局は、中国南西部地域・大開発計画の一つである7億5千万ドルのこのプロジェクトは、76万kwを発電し、より多くの農地を灌漑し、洪水抑制に役立ち、そして1千万人以上の人が暮らす成都近辺により多くの工業用水と生活用水を供給できるだろう、としている。

環境問題をメインに取り扱うChina DialogueというWebサイトに昨年掲載された記事によれば、2001年にダム建設が開始されたのとほぼ同時に、Li Youcaiという専門家が、当局はその地域の大規模な地震の危険性を控えめに見ている恐れがある、と提言したが、政府当局は彼の議論をはねつけたという。

当局は2004年後半にダム貯水池への入水を許可した。四川地質鉱物局の主任技師であるFan Xiao氏によれば、2004年後半から2005年後半にかけて、マグニチュード3あるいはそれ以下の小規模の地震が、730回記録されたということだ。

昨年5月に発生した大地震は、ダム貯水池から3.4マイル(約5.5キロ)の地点が震源であった。地殻のずれは185マイル(約300キロ)にも及び、当初は、Klose氏が述べたように、ダム貯水池の水の重さによる圧力と同方向に動いた。

同地域の地質調査チームの主任技師であるFan氏は、地震後すぐに、ダム貯水池が地震の発生のタイミングと、マグニチュード、そして発生地に影響を及ぼしていると考える、と報道記者らに告げた。

「大事な教訓は、この種類のダムを建設する際に、私たちは科学的な計画立案をより考慮しなければならないということなのです。単に電力や水の供給量、経済的な効果だけではなくてね。」とFan氏は述べた。

論争に再度火がついたのは、12月。中国地震局の2人の科学者と3人の研究者が、中国の専門誌、『地質と地震学』にとある論文を発表した時だった。彼らは、ダム貯水池の水の重さと、ダムから地層表面下への水の拡散が、断層が破壊される前のおよそ4年間にわたり、「明らかにその地域の地震活動に影響を与えた」とのみ結論づけたのである。

中国の研究者らは、ダム貯水池が地震を誘発する一因であるかどうかを見定めるには、更なる研究が必要であるとしている。四川地震局のDu Fang氏はそんな研究者らの1人である。彼女は木曜日、より研究を進めていかなければ、ダム貯水池が地震に影響を及ぼしたか否かを知ることは出来ない、としながらも、その可能性はある、と語った。

Du氏は、彼女や、その他の研究者達はこの問題を十分かつ自由に調査することができる、と述べた。「我々科学者は、提起した問題を自由に調査することができます。それが研究するに値することである限りね。」「政府のデータへのアクセスに、これといった制限を感じることはありません。」と彼女は言った。

(翻訳:FoE Japan翻訳ボランティアの方々)


>関連情報 国際NGOブログ「中国の地震はダムが誘発した災害か?」(2009年2月4日)

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