インドネシア・チレボン石炭火力発電事業とは?

化石燃料

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1.事業の概要

2.日本との関わり

国際協力銀行の役割:
   1号機=融資調達額5.95億ドルのうち2.15億ドル融資
   2号機=2016年5月頃から融資検討。2017年4月に融資契約締結。
   
日本貿易保険の役割:
   1号機=CEPへ付保(丸紅の出資株式および劣後ローンに対する保険、
        PPA上のPLNの義務不履行に伴う契約違反リスクのてん補)
   2号機=2016年6月から付保の検討開始。2017年4月に付保決定。
   
日本企業の関わり:
 ・丸紅=CEPおよびCEPRへの出資
 ・JERA=CEPRへの出資
 ・民間銀行団=三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行

3.主な経緯

4.主な問題点

(1)さまざまな生計手段への影響と適切な補償・生計回復措置の欠如

住民の主な生計手段は小規模漁業、貝類の採取・栽培、テラシ(発酵小エビのペースト)作り、塩づくり、農業など多岐にわたり、幾つかの収入源を組合わせて生活を送っていた家族も多かったが、これら生活の糧は1号機の建設で甚大な影響を受け、多くの住民が事業前より厳しい生活を強いられている。

石炭火力発電所1号機と埠頭が建設されたアスタナジャプラ郡カンチ・クロン村の沿岸地域は、さまざまな種の貝類や小エビ類、魚類のとれる非常に生産性の高い場所だったが、多くの小規模漁業者、貝類栽培者、貝類採取者らが、漁獲量の減少や漁場・貝採取場の減少による影響を受けた。

1号機の事業地近くの塩田の生産性も、同事業後に影響を受けた。地域住民は乾季に塩づくりに従事しており、かつて同地域産の塩は質がよいことで知られていたが、現在は塩田が黒ずみ、塩の製品の質が落ちたり、製品の洗浄に時間がかかるようになったため、大きな損失を受けている。塩田の雇われ労働者の多くも解雇されてしまった。

また、1号機の建設で土地が収用されたため、多くの小作・地権者が失業した。1号機の事業地に隣接する農地約7ヘクタールを所有する40名以上の地権者も、作物へのさまざまな影響を報告している。農民らは雨季(12月~3月)には雨水に依存した水田耕作を、また、乾季(4月~6月)には、緑豆、キャッサバ、トウモロコシなどの栽培を続けてきたが、コメもその他の作物も事業後に収穫が激減した。

事業者は土地の補償金やCSRプログラムの提供等を行なっているものの、実害を受けている多くの地域住民に対しては適切な補償・生計回復措置がとられぬままである。住民が事業者に苦情を訴えても、真摯な対応がなされぬまま終わっているケースも報告されている。

環境アセスメント報告書(2016年3月)によれば、2号機の建設でも同事業予定地で塩田づくりに携わってきた601名などが影響を受けるとされている。事業者は、補償金や同事業(建設および操業中)における優先雇用、CSRプログラムを提供する予定とのことだが、地域住民の技能や学歴、職歴の壁などから、実効性のある生計回復計画となるかは注視が必要である。

(2)粉塵等による健康影響に対する懸念と最良の公害対策技術の欠如

1号機の事業地周辺の住民は、風向によって粉塵(フライ・アッシュ)が事業地の方向から個々人の家や小学校など公共施設にまで飛来してくると報告している。風向は通常3月から11月にかけて北、もしくは、北東、12月から2月にかけて西風が吹く。事業地の周辺地域で急性上気道感染症(ISPA)等の呼吸器疾患が増加するのではないかと懸念する住民もいる。

FoE Japanの調査データ(下表参照)によれば、日本の石炭火力発電所で利用されている最良の公害対策技術は、チレボン石炭火力発電所1号機には装備されておらず、同様に2号機でも利用されない予定であることがわかっている。日本企業は、地元政府機関の基準が緩く、また、ガバナンスがうまく機能しないなか、『ダブル・スタンダード』に甘んじて公害輸出を進めるのではなく、地域住民の健康等に対し日本国内と同等の配慮を行ない、日本国内と同等の基準を遵守すべきである。

(3)環境アセスメント(EIA)における不備と適切な住民参加の欠如

同事業では、発電所1号機の建設作業が2007年7月頃に始まった一方で、EIA報告書が地元の環境局に提出されたのは2008年4月であり、同事業の開始前に、環境影響に関する分析や代替案に関する分析が行われなかったことは明らかであった。また、地域住民は同事業の環境社会影響だけではなく、同事業自体について知る適切な機会を与えられず、建設が開始される前にも後にも、懸念や意見を適切に議論する機会を与えられなかった。結果として、生計手段への影響に対する適切な回避策や軽減策、補償策も用意されていない。

2号機のEIAも、小作や漁民だけでなく、地権者のなかにも協議会に招待されない者がいるなど、選抜された人のみが招待された。招待されなかった漁民等が参加し発言をしても、適切な協議はなされなかった。また、環境アセスメントおよび環境許認可の情報公開について、住民への周知がなされておらず、多くの地域住民が意思決定プロセスへの参加機会を与えられていない。この結果、2号機の建設開始にあたり、事業予定地前で数多くの住民グループ がさまざまな懸念を訴え、抗議活動を行なってきた。

(4)2号機建設事業に伴う土地収用手続きの不備と人権侵害

2号機の建設事業予定地は204.3ヘクタールであり、インドネシア環境林業省によれば、ほぼすべてが1986年に収用済み の公有地とされている。しかし、1986年の土地収用時に補償金を受領しておらず、依然として9.12ヘクタールに相当する土地の権利を有する地権者が少なくとも7名おり、事業者は当該地への適切な土地収用手続きを踏まずに事業を進めようとしている。

また、同7名のグループが関連政府機関や事業者に対し、適切な対応を求めている一方で、2016年3月には同グループの住民リーダーの家を複数のチンピラ(プレマン)が訪問し、「殺害する」などと脅迫しており、こうした土地収用に絡む人権侵害の発生が懸念される。

(5)現行の2号機建設事業計画の違法性

チレボン県の空間計画(2011~2031年)に係る自治体条例(2011年第17号)では、石炭火力発電所の事業地はアスタナジャプラ郡のみとされているが、現行の事業計画地はアスタナジヤプラ、ムンドゥ、パングナンの3つの郡にまたがるため、同空間計画の修正が必要である。しかし、同空間計画の修正は依然なされていない状況が続いていた。(※2018年6月に同空間計画の修正は承認済み。)

事業者側は、国家空間計画調整庁による書簡等を根拠に事業の実施手続きは問題ないとの認識を示しているが、2009 年第 4 号大統領令「国家空間計画の調整機関」に基づけば、同調整相の書簡を根拠に空間計画法を反古にできないため、事業者は計画地の変更、もしくは、空間計画の修正なしでは同事業を進めることはできない状況にある。一方、2017年4月に制定された「空間計画に関する2008年政令第26号の改定に関する2017年政令第13号」において、「国家戦略上価値ある活動は、既存の空間計画に規定されていない場合でも可」とされているが、この点の有効性については疑義があげられている。

5.現在の状況

・ 2号機の建設工事は約61%の進捗(2019年9月時点)。2022年の運転開始予定。
・ JBICはJBIC環境社会ガイドライに則り、環境レビューを実施し、4月18日に融資契約を締結。
・ バンドゥン地裁が4月19日、2号機建設事業の環境許認可の取消判決を出したものの、西ジャワ州政府は4月21日に控訴。その後、訴訟が控訴中の状況にもかかわらず、事業者は環境許認可の改訂を申請し、7月17日に新たな環境許認可が西ジャワ州政府により発行された。
・ JBICは、現地国法の遵守や環境許認可の提出を規定するJBICガイドラインの遵守状況を精査するため、融資契約後も貸付実行を控えていたが、住民・NGOが新しい許認可の有効性を問う訴訟を再び起こすことを知りながら、新しい許認可を基に貸付を実行した。

 

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