ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
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ケニアのソンドゥ・ミリウ水力発電事業への融資を日本が延期

ジェニファー・ワンジル

【ケニア】 ナイロビ 2001年6月4日

日本は、現在論議の的となっているケニア西部での水力発電事業に対し、融資を延期すると発表した。現在まだこの工事は始まったばかり。

「環境破壊と汚職」を指摘したケニア政府への書簡でのなかで、日本の田中真紀子外相は、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業に対する融資の延期は「環境保護運動からの批判と、追加融資に対する両国の見解の相違に答えたものだ。」との意向を示した。

書簡のコピーは、120億シリング(約187億円)にのぼる発電所建設を行っているケニア電力開発有限会社(KenGen)に対しても送られた。ソンドゥ・ミリウ事業は、ケニアの電力危機を乗り越えるため、60メガワットの電力を国内に送電することを目的として計画された。

評論家は、すでに半分まで終わったダム事業を途中で放棄すれば、深刻な社会・経済上の混乱が巻き起こり、西ケニアが激しい天災に見舞われる可能性もある、と指摘している。

仮に融資がストップし事業が放棄されれば、ケニアは3.5kmのトンネルと深刻な土砂災害を起こしかねない放ったらかしの排水溝、そして半分しかできていない道路と掘り出されたままの石切り場、という無用の長物を抱え込むことになる。

中でも問題なのはトンネル工事だ。ケープタウンで行われた「世界ダム委員会」の会議の中でも、このトンネル工事は環境災害の原因として批判を受けた。いちどカサイェ山を突き抜けてトンネルが開かれれば、山腹の渓流が干上がってしまう。委員会によると、河床の形を変えてしまうようなダム事業は、「環境保護基準」に適合しないという。

日本はこうした点でケニア政府を批判している。この事業に融資を行っている国際協力銀行総務課長、荒井泉氏は次のように語っている。「これはケニアの国内事業であり日本のものではない。ケニア政府は自国の問題は自国で解決するべきだ。問題はあなたがたにあり、私たちとは何も関係がない。」

日本による融資延期は、いわば2つのケニアNGO、アフリカ・ウォーター・ネットワークとアフリカ気候ネットワークによる勝利だ。事業の環境への影響に対する関心を高めるための彼らの絶え間ないキャンペーンが、日本政府による真相究明のための6回もの調査団の派遣に結びついた。

「私たちは事業そのものに反対しているのではなく、ケニア電力開発有限会社が事業を行う際の対応に反発しているのです。」NGO連合のデニス・アクム氏はこのように語る。警察の取り締まりにより重傷を負い、さらに数日間拘置所に放置されたまま釈放されたメンバーもいる中で、ネットワークはひるまずロビー活動および抗議活動を続けてきた。

しかし一部の住民も、またダムを必要としているのも事実だ。議員の一人は、融資延期に対する抗議行動としてニャンザ地区においてデモが予定されていると話している。地元ニャンザ地区議会のピーター・オドヨ議員は木曜日、1万人以上の村人が参加するデモが工事現場近くのコルウェニーで行われる、と語った。

1985年に行われた事前調査の報告書は、工期を3段階に分けて実行することを定めている。まず、公営の電力会社であるケニア電力が国際協力銀行からの融資を獲得した。そして1997年に工事と技術開発のための最初の融資が行われ、19993月に工事が開始された。第1期工事は、2004年までに終了する予定となっている。

だがその後、NGOの側から健康被害の問題が提起された。前出したアクム氏は、工事開始後まもなく現場付近で気管支炎などの呼吸器系の疾患が相次いで報告されるようになった、と指摘している。

アフリカ・ウォーター・ネットワーク始めNGO側は、事業を一旦中止し再度環境アセスメントを行うよう要求してきた。アクム氏は、工事着工後に多くの失明者が出たばかりか、2人の死者も報告されている、と述べている。

「私たちは、これが氷山の一角に過ぎず、より多くの住民や動植物が空気や水質の汚染によって被害を受けているのではないか、と憂慮しているのです。」とアクム氏は語る。「事業自体には反対しないが、住民の健康を蝕んでいる事実だけは看過できない。」

しかし、エネルギー省のフランシス・マサカリア大臣は、事業は中止しないと発表した。「政府はこの事業に全力をかけている。出てきた問題については対処するが、何もかも事業を中断し投げ出すことはできない。」

マサカリア大臣は次のようにも語った。「すべての条件は満たされており何ら問題はないはずだ。影響調査もすで行われており、粗探しを受けるような点は見当たらない。排煙による大気汚染を招いたこれまでの電力事業に比べ、この事業ははるかに優れている。」

しかし、日本政府により指摘された汚職の問題については、大臣からはコメントされていない。例えば立ち退き住民の数は誇張されている一方で、補償金はまだ住民の手に渡っておらず、世論の抗議にさらされている。

また、18千万シリング(約28千万円)かけて改築されたツルディブオラ小学校には、まだ電力も水道も供給されていない。学校で使われる鈴が、一つ8千シリング(約12千円)で輸入されていたという。

「これが主なスキャンダルです。」アクム氏は語る。日本政府は、融資再開の条件として追加調査の実施を求めている。田中外相は「追加調査をぜひ行うべきだと考えます。もし指摘されているような問題点を抱えたまま事業が進められているとすれば、それは見直しの対象となります。」と発言している。

事業を当初より推進してきたオドヨ議員によると、ケニアは融資再開を求める代表団を日本に派遣する予定だという。

 
 

 

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