ケニア、ソンドゥ・ミリウ水力発電プロジェクト
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2000年3月発信:共同ニュース速報より


#0001 ◎:「地球ウオッチャー」地元住民の声に耳傾けよ、開発優先のODA再考を                         

 日本の政府開発援助(ODA)で進められているケニア西部のダム建設をめぐり、地元住民らが補償交渉のあり方や環境汚染などに不満を表明している。日本もケニア側も「手続きは適正に行い、補償費も相場より高くした」と住民の訴えは心外と言わんばかりだ。
 だが、現場を歩けば問題の多いことがよく分かる。私は二月末、住民を取材中「違 法集会を開いた」として住民十数人とともに逮捕され一時拘束された。私たちを警察署まで搬送したのは日本のゼネコンの車両だった。ケニア当局が住民の声を力で押しつぶそうとしていることのあかしだ。なのに日本の関係者は「問題がない」と言い切っている。その根拠は何なのだろうか。      
 ODA絡みの大型プロジェクトは、日本が現地住民の意見に直接耳を傾け、問題があれば独自に調査、改善を当局に勧告することを制度化すべきだ。開発の名のもと、その国の権力と一体となって"住民いじめ"をしている限り、いつまでも日本のODAは嫌われる 。  
                             問題になっているのは、ビクトリア湖に注ぐソンドゥ・ミリウ川に建設されている水力発電用ダム。日本の国際協力銀行(JBIC)による円借款で、日本のゼネコンが受注、建設している。総工費は約二百億円。昨年三月に工事が始まり、二○○三年に完成予定だ 。影響を受けるのは約六百世帯、百九十ヘクタール。土地の収用や補償はケニア発電公社(KENGEN)が担当している。
 地域は一夫多妻の文化で、妻は夫に与えられた土地でそれぞれの家族を養っている。へズボン・ランゴさん(50)は三人の妻を持つ。昨年五月、関係者が突然測量に訪れ、ランゴさんに二十日後に 立ち退くよう命じた。                

       その後、あるじのランゴさんには何の説明もなく、当人が不在中に関係者が再訪し、第二夫人に売買契約書にサインさせた。ランゴさんは補償費約五十万ケニアシリング(約八十万円)を受け取ったが、「契約書の写しをもらえないのでどれだけの土地を売ったのかわからない」と話す。ランゴさんは現在も以前と同じ場所に住んでいるが、自分の土地を半分削られた。      
 現場は電気も水道も通ってない地域だ。英語が広く使われているケニアだが、同地域には英語を話す住民は少なく、まして英語の契約内容を十分理解できる者は皆無に近いだろう。「契約書にサインしないと土地も取り上げられ、補償もされないと脅されたのでサインした」という住民は少なくないのだ。地元住民に対する説明会などもすべて英語で行われた。
 また、工事によって近くの川に近づけず、水を得るために一時間近くも歩かなければならなくなった住民もいる。そうした人たちに対する配慮もほとんどなされていない。
 ある日本人関係者は「まとまったお金が入ったのでもっとほしくなったのでしょう」と事もなげに言う。だが、農民にとっては生活の糧だった土地を強制的に収用されたのだ。現金はいつかはなくなる。その土地の文化を無視した無神経な発言ではないだろうか。
 当局は、住民の結束を恐れ、支援を始めた非政府組織(NGO)に脅しをかけ始めている。日本側はこうした状況にいつまでも目をつぶっていていいのだろうか。(ナイロビ共同=大野圭一郎)