ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
国際協力銀行との会合 メモ(2001.2.28)

参加者:
国際協力銀行開発第4部長 新井 泉氏
国際協力銀行総務部報道課 副主任 村田 佳代 氏
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 石田 恭子 氏
金井 令 氏
地球の友ジャパン 本山 央子、松本 郁子

1、プロジェクトの概要とその位置づけ

土木工事の進捗状況

本事業は60MWの水力発電所の建設であり、工事は2期に分かれている。第1期では取水設備、導水路、アクセス道路等の整備などサージタンクのすぐ手前まで導水する設備を建設し、第2期では発電所建設、発電機備え付け、放水路、送電線、変電所の整備等、サージタンク以降発電所につながる設備を建設することになっている。

現在土木工事は、取水設備周辺、アクセス道路周辺、トンネル工事周辺、発電所周辺で行なわれており、これまでにほぼ半分の工事が終わっている。取水設備周辺の工事はほぼ完成しており、現在、半分ぐらいまでトンネルを掘り進めている。1日に数十メートルのペースで掘り進んでおり、第1期工事は予定通り今年の6月から7月ごろに完了する予定。工事は994月に始まり20036月にはすべて完了予定。トンネルの周りの土を掘り起こしているがこれはいずれ埋めていくことになる。また、トンネルの機械入れる導水路の真ん中あたりでも土木工事による影響が一部出ている。

プロジェクトの経緯

本事業には85JICAがマスタープランを策定し、89年に円借款によるエンジニアリングサービス(6.68億円)が行われている。97年には第一期分の円借款(69.33億円)が出されている。さらに、第二期分の円借款として106億円の供与が検討されている。2期分が106億円と金額が大きくなっているが、これは発電機の購入などが入っているためである。

事業の目的

ケニアではこれまでも積極的に水力発電が進められてきたが、特にタナ川での水力発電事業が中心であった。再生可能エネルギーとしての水力発電事業を干ばつの影響なども考慮すると、地域的に分散させるほうが良いということでソンドゥ・ミリウ川での発電事業が考案された。本事業のサイトは、落差を利用した発電所ができる数少ない場所であり、流れ込み式の発電事業であるため、大規模水力発電事業よりも影響が少ないものと考えている。

本事業は現在策定中のケニアの「貧困削減戦略書」(中央政府、地方政府の代表、受益者代表らと参加型で進められている)の中でも触れられている事業で、電化率が10%以下のケニアにとって重要な事業として位置づけられている。現在動いている発電設備はケニア全体で956MWであり、本事業による60MWの発電は非常に大きな意味を持つ。特に水力発電事業はタナ川に集中しており、干ばつなどが起こると水力発電は非常に脆弱である。このため水力発電事業を分散させる必要がある。また、昨年末まで計画停電が続いており、ケニア全体で電力需要が高まっている。

これまでにケニア電力公社はモンバケでディーゼル発電を行ったこともあるが、ディーゼル発電をするために年間約2000万ドルの石油を購入しなければならない。本事業の総額はこの試算から考えると6-7年で採算が取れることになる。

2、本事業における社会・環境影響について

事業における環境配慮

ケニアでは昨年1月から環境法のもとで環境アセスメントが義務づけられることとなった。本事業に関しては環境法の制定前であったが、ケニア電力公社の独自の判断で環境アセスメントを行っている。91年にEIA(環境アセスメント報告書)が策定され、94年にはResettlement Planが策定されている。この間、おそらく92年にSocio Economic Studyが策定されておりこれは世界銀行にも提出され、問題ないという結論が出ている。EIAは要請に応じて公開することになっている。Resettlement PlanSocio Economic Studyも公開できるかどうか確認してみる。

事業の社会・環境影響については、97年の円借款の交換公文締結前に、当時のOECFの環境配慮ガイドラインに沿って第1期工事、第2期工事を含む事業全体の環境審査が行われ、政府に報告されている。

3、地元住民への補償や生活再建プログラムについて

地元住民への土地の補償の枠組み

土地の収用は、第1期工事においては発電所周辺、トンネル周辺、貯水池周辺で行われている。第2期工事においては送電線の付近で行なわれることになるが、これは第1期工事に比べてわずかな土地にとどまるだろう。985月から6月にかけて4ヶ所で住民集会が行われ、事業についての説明がされている。また、個別に土地所有者への訪問も行われた。学校や教会の移転などについては現地集会で住民と話し合いながら進められた。

地元住民への補償は大半が所有地への補償で、家屋の移動はほとんどなかったと理解している。土地の補償に関しては、土地対土地か、土地対金銭のオプションが選べるようになっていたが、ほぼ100%の人が土地対金銭の補償を選んだ。住民にはこのオプションについて説明が行われている。

昨年からは3ヶ月に1度、住民集会が行われている。JIBCとしては一人一人の土地のことまでは聞いていないが、補償金額の何パーセントがいついつまでに支払われているという形で報告を受けている。現在、2ヶ所ほど支払いが済んでいないところがあるようだが、それ以外の土地の補償はすべて終了している。これまでに579人の地権者に補償が支払われている。土地の権利を持たない土地利用者はほとんどおらず、土地を利用している人が土地の権利を持っている。

補償について大きな問題があれば方策を考えなければならないが、これまでのところ大きな問題はないと考えている。土地収用はほとんどが発電所付近とベースキャンプの付近である。後は、工事用の道路、取水口の側の水辺、導水路トンネルの周辺で一部土地収用があった。

4、その後のモニタリング活動など

事業による環境影響については定期的に水質チェックを行い、そのレポートでは水質に問題はないとの結果が出ている。昨年には、事業がどこまで進んでいるのかなどを含めたモニタリングレポートが出されている。

生活再建プログラム

補償金をすぐに使ってしまわないために、お金をどう受け取ったらいいのか、どう生産的に使うのかなどについてのワークショップが開かれたと聞いている。補償を受け取った人たちのその後の状況については、ケニア電力公社のリエゾン・オフィサーが把握している。その人たちが今も村で生活を続けているのか町に出ていっているかなどについても、リエゾン・オフィサーが把握していると思う。昨年12月にはモニタリングのための会合も行われている。リエゾン・オフィサーが常に現場にいないということは現在の課題の一つであり、今後より頻繁に現場に滞在できるようにすることも検討している。

どのように土地を失った後生活を確保していくかは重要な問題なので、その問題意識は現地のミッションにも伝えたい。人々がどのような状況にあるのるかを見極めることは重要であるが、個別の事情もありそもそも何が原因で問題が起こっているのかを突き止めることは難しい。人々の生活再建に関しては、ケニアの行政の仕事に頼らなければならないところが大きい。土地の補償以上に社会的配慮をどこまで行うのかは難しい問題である。

問題解決のための枠組み

昨年2月にも事業の問題を指摘する住民集会が行われるなど、これまで住民の意見を聞くしくみが十分でなかったかもしれない。そのため問題解決が進んでこなかったかもしれないが、今後問題解決の枠組みを作っていく必要がある。

126日の住民集会以降、問題解決の枠組みとしてのTechnical Committeeができたことは一つの成果ということができるだろう。委員会にはAfrica Water Network, Sondu Miriu Monitoring Committee, Climate Network Africa, Eco news, Nyakach Community Development Associationから5名のNGOのメンバーも参加している。

委員会がうまく機能するかどうかはこれからだが、これまでに22日と216日の二回会合が開かれている。216日には4つのSubCommittee(@Employment Economical Opportunity、ACompensationResettlement、BEnvironmentPollution)、CSafety Health)が設置された。個別の問題は今後委員会の中で議論されることになるだろう。

JBICとしての取り組み

JBICとしてはオブザーバーとして委員会に参加し、委員会の中で問題解決が進んでいくように見守っているところである。今後、情報を公開していく中でかなりの問題解決につながるのではないかと考えている。

1月下旬の住民集会を受けて、現在環境社会開発室のミッションが行われている。EIAの内容やモニタリング体制に併せて、Africa Water Networkから出された19項目についても調査を行っている。ミッションのTOR(事業指示書)は現在どのような問題があるのか、それに対してどのような対策が取られているのか、あるいはどのような対策が取られる必要があるのかなどである。

今後、ミッションの報告を受けて対応する予定。

5、川の流量変化による影響について

EIAによると川の流量変化による生態系への影響はほとんどないということになっている。特にこの地域に絶滅危惧種がいるという報告もない。また、水量が減る川の流域で水を利用している人はほとんどいない。川が谷を流れているため、人々は天水によって灌漑用水などを賄っている。また、NGOなどの支援で屋根につけた雨樋からも水を確保しているようだ。

6、その他

本事業は発電事業のみであって、灌漑事業が行われると期待されている人も要るのであれば誤解である。126日の会合で出された問題の8割は雇用とそれに伴う汚職の問題であって、後の2割が土地補償の問題であった。ダム建設は地域の人々にとって数少ない現金収入の機会である。ダム建設による雇用は千数百人ほどだが、これによる経済効果を期待している人は多い。汚職はコミュニティで雇用者を選ぶときに起こっているようだ。

地元に電気がこないという問題が出されているようだが、これは送電設備の問題で発電事業とは別事業になっている。

7、NGOからの要望書などについて

29日に日本大使館宛てに出されたレターはAfrica Water Networkのレターヘッドで出されているが、サインはないし、名前を連ねている人のうちレターのことを知らない人もいるようだ。こうした事実についてきちんと現地で確認してきてほしい。また、南アフリカで行なわれた世界ダム委員会でも本事業の問題を指摘しているようだが、Argwings Odera氏はいつも内容を知らない人たちの前で大袈裟な話をする傾向があるようだ。124日の会合でも、どの地域のどの人々が影響を受けているのか、細かい話になると逃げてしまう傾向にあった。

8NGOからの要望

・第2期工事の融資が行われる前に、土地を失った人々への生活再建プログラムの整備が十分に行われるようにJBICとして配慮を行ってほしい

・発電事業にともなって灌漑整備が行われると期待している人々も多いのではないか。十分な説明が行われる必要がある。

Technical Committeeで問題解決が進まないときに、JBICとしてどのように対応するのか、何らかの独自のモニタリングシステムが必要なのではないか。

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