貿易保険における環境配慮のための
ガイドライン一部改正案
に対するコメント(02.17.2002)

 

貿易保険における環境配慮のためのガイドライン一部改正案に対するコメント

2002年2月17日
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はじめに

 今回のガイドライン一部改定は、OECD輸出信用作業部会でとりまとめが行なわれている環境配慮に関する共通アプローチを受けて行われるものであるが、OECDの現在の共通のアプローチ案(Rev6)は実質的な規定に乏しく、きわめて不満足な内容であるとわれわれは評価している。またこの過程で、貿易保険を所轄する経済産業省が、よりよい環境配慮のために議論をリードするのでなく、むしろヨーロッパ諸国と歩調をあわせて消極的な態度をとったことに非常に失望している。

世界の中でも日本貿易保険(NEXI)は最大規模の輸出信用機関であり、また中長期保険に占める電力開発や資源開発、インフラ整備の割合も高く、世界の環境に与える影響は極めて大きい。この意味で、ヨーロッパの小規模機関と同程度の環境配慮にとどまるのではなく、むしろ積極的に環境に配慮した海外投資のために民間企業をサポートし国際的な議論をリードすることが、NEXIならびに経済産業省に求められている。

NEXIは、同じようにOECDの議論を受けて環境ガイドラインの改定を行っている国際協力銀行(JBIC)のガイドラインとダブルスタンダードにはしないと言明しているが、公開された改正案を見る限り、実際に同じ水準で環境配慮が行われるとは到底考えられない。実質的な環境配慮の内容や実行確保の手段が完全に欠落しているためである。JBICの支援しないような環境上悪影響のあるプロジェクトをNEXIが支援するようなことになれば、これまでの民間投資の環境配慮強化に向けた国内での努力はもちろん、国際的な取り組みをも大きく損なうことになろう。

JBICガイドラインの場合、NGOや専門家も参加する透明で独立したプロセスによって詳細な議論をもとに原案をまとめ、従来のガイドラインよりも相当程度の規定の強化をはかっている。ダブルスタンダードを防ぐには、その策定プロセスも含め、JBICガイドラインの議論を十分に参考にし、少なくとも下記の問題点について大幅な改善を講じることが必要である。

1.事業に要求する環境配慮水準が不明

 NEXIとJBICのガイドラインの最大の違いの一つは、NEXIにはJBICガイドラインの第2部にあたる部分が欠けているということである。このため、事業者にどの程度の環境配慮が要求されるのかが全く不明である。開発事業の環境配慮は事前準備段階における調査や意思決定がもっとも重要であるが、NEXIに申請がくる段階ではすでに環境影響評価など事前準備は終了していることが多いのであるから、どのような環境配慮が必要かをガイドラインで前もって明らかに示しておかなければならない。とりわけ住民等との事前協議や情報公開、非自発的移住における住民の権利保障などの重要な規定を欠いたものは環境ガイドラインと呼ぶに値しない。そこで、JBICガイドラインの第2部「事業者に要求される環境配慮」をNEXIガイドラインにも適用し、あらかじめこのような水準を満たした事業準備が行われていることを申請者が保証するように求めるべきである。また、カテゴリA案件に環境アセスメント報告書の提出も義務付けられていないようでは、社会環境影響の大きなプロジェクトにおいて適切な社会環境配慮の実施をどのように確認することができるのかはなはだ疑問である。カテゴリA案件については少なくとも環境アセスメント報告書の義務付けが行なわれなければならない。

2.環境配慮確認の基準が不明

 NEXIは、事業者に環境に関する情報の提出を求め、環境配慮を確認するとしているが、実際には事業者の申告する「環境配慮」を追認するだけになる恐れがきわめて高い。カテゴリーAプロジェクトでさえEIAの提出は義務付けられておらず、また提出された情報を判断する基準がまったく欠けているためである。JBICの場合はJBICの社会環境専門部署がチェックリストを用いてプロジェクトの性質に応じた環境配慮がなされていることを確認するのに対して、NEXIの場合は環境配慮確認票自体も事業者が記入することになっている。その内容の妥当性をNEXIがどのように判断するのか、方法も基準も明らかにされていない。

 開発支援機関の環境審査が事業者の情報だけに頼ってはならないことはもはや常識であり、事業者の環境配慮は国際基準に照らして批判的に検討されなければならない。したがって、事業に求める環境配慮の基準を明確に示すとともに、確認に用いる国際基準(世界銀行の政策等)やグッドプラクティスを明らかにし、これらが実質的に確保されていることをNEXI自身の責任において確認すべきである。

3.事業者による適切な環境配慮を確保する手段が不明

 事業者に何らかの環境改善策の実施が求められる場合、またNEXIが「プロジェクト実施者に対して環境改善を図るための方策をとることを働きかけ」ることがもしあったとして、その確実な実施をどのように確保するのか不明である。住民等が事業者の環境管理に不満をもって訴えている場合、NEXIはどのように問題を確認し事業者に改善を働きかけるのか。とりわけ「海外事業貸付保険」のように保険申請者がプロジェクトに直接的に関わっていない場合にどのような手段で改善を働きかけることができるのか疑問である。保険契約における「環境特約」は一つの方法ではあるが、現状ではほとんど意味のある形でつけられていない。場合によっては経済産業省も関与し、実効性のある環境管理の実施確保の方法を検討すべきである。また、ガイドラインの遵守を確保するためにJBICで検討されている、ガイドラインの遵守状況に関して調査し勧告を行なう専門性、独立性、公平性、透明性を確保した外部組織の設置についても、早急に検討を進めるべきである。

4.情報公開の規定が曖昧

 情報公開の規定はあまりに曖昧で受け入れられない。「プロジェクト概要に関する情報」の内容やNEXIが「適当とする方法で」の公開とは何を指すのか。特に環境影響に関する情報の公開は単に「促」されるだけで確保されていない。情報公開の意味そのものが不明である。NEXI業務の透明性およびアカウンタビリティの確保のためには、第三者からのコメントや情報を得て審査に生かすことのできる情報公開制度が必要である。より幅広い層から意見を徴収することは、環境のリスクを回避することにも繋がる。また、公開された情報に関して第三者からコメントがあった場合にどのような判断がなされるのかも不明である。環境情報を含むプロジェクト情報は、十分な期間の公開を確保(たとえばアメリカのOPIC等のように60日間など明確に規定すべき)し、これに対するコメントを環境審査に生かすことを明記すべきである。特に、カテゴリA案件の環境アセスメント報告書の公開は、有識者やNGOなどの第三者も含めた幅広い層から、より多くの情報を入手しリスクを事前に回避する上で不可欠である。また公開方法に関しては、ホームページなどを通じて、多くの人が容易に情報を入手できる方法を検討すべきである。

5.独立評価およびガイドラインの見直しおよび独立評価

 ガイドラインの施行および見直しに関する規定を明記されたい。施行後は、運用状況や支援プロジェクトの環境パフォーマンスに関して独立した評価を行い、NGOとも協議のうえガイドラインの見直しを行うよう求める。

6.体制の強化

 上記に述べたように、NEXIの改正案にはあまりに根本的な欠陥があり、責任ある環境配慮を期待することができない。このままではJBICとのダブルスタンダードが生じることは必至である。上記のコメントを真剣に考慮して規定の改善を検討するとともに、環境審査およびモニタリングの実施体制を強化されるよう求める。

以上

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