【声明】モーリシャス沿岸での日本船舶の座礁事故
日本政府は、国際社会とともに緊急かつ中長期的な対応を

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流出した油の広がり 写真:Pierre Dalais

商船三井が運航する貨物船「WAKASHIO」がモーリシャス沿岸で座礁し、燃料の重油が1,000トン以上流出しています。周辺には絶滅危惧種や固有種の生息する保護区域や国際的に重要な湿地としてラムサール条約で指定された区域もあり、燃料流出に伴う周辺の生態系への影響が懸念されています(*1)。モーリシャス政府は7日、環境緊急事態宣言を出しました。

モーリシャス周辺の海域は、世界的にも貴重な生物多様性のホットスポットで、サンゴ礁や海草、マングローブなど多種多様な生態系が形成されています(*2)。人々は豊かな自然環境の中で漁業や観光業を営みながら生活していました。生態系や人々の生活にこの事故が与える影響ははかり知れず、また長期にわたることが懸念されます。

ボランティアが必死になって油の広がりを止めようとしたり、バケツで海岸に漂着した真っ黒な重油を集めたりと奮闘している様子が連日のように報道されています。一方で、現地のボランティアの方々の、過労や流出油からの揮発性成分などによる健康被害も懸念されます。また、新型コロナウイルス感染拡大も危惧されるなかの作業であり、国際的な人的支援も困難な状況です。多くの人たちが何かをしたいと願いつつ、事故のゆくえを固唾をのんで見守っている状況です。

事故原因や事故被害の状況については今後、徹底した検証が必要です。7月25日に「WAKASHIO」が座礁してから、8月6日に燃料タンクが破損し、燃料が漏れだすまで、13日間あったにもかかわらず、オイルフェンスなど必要な油防除資機材が十分に現地に配備されていませんでした。事故対応の初動が遅れた感は否めず、そのことについての検証も行われるべきです。

日本政府は、8月10日、専門家などからなる6名の国際緊急援助隊・専門家チームを派遣しました。しかし、日本としての支援体制の構築や政府の正式な発信は十分とは言えない状況です(*3) 。

WAKASHIOは、商船三井が運航していた船ですが、所有者は長鋪汽船であり、船籍はパナマに置かれています。これは、船主の国ではない国に船籍を置く「便宜置籍船」と呼ばれるもので、法律・税制的に優遇される国が登録先に選ばれます。それにより、安全性が十分に確保されないといった問題が長年指摘されています。本来、日本に船籍を置く船であれば、日本政府には、船舶の安全性を審査し、違反を取り締まる権限と責任が生じたでしょう。

「重油流出により、モーリシャスの特に沿岸にすむ人々に大きな心理的影響ももたらしています。日本政府およびモーリシャス政府は、沿岸地域で影響を受けたコミュニティの健康的な環境を享受する権利を救済するため責任を果たす必要があります」とFoEアフリカの環境人権プロジェクトのクワミ・クポンゾさんは指摘しています。

私たちは、事故当事者である企業、および日本政府に対して、現地の状況を踏まえ、海運事故の対応に知見を有する企業や専門家の力を結集して、事故対応への協力を行うことを求めます。また、中長期的には、国際社会と協力しつつ、賠償を含むあらゆる措置を講じて、現地の生態系や人々の生活の原状回復を行うことを求めます。そのためには、被害状況を適切に把握した上で、現地の人々、現場の生態系に精通した専門家、市民社会などとの丁寧な協議など、透明性の高い開かれたプロセスが不可欠です。

最後に、私たちは、事故で被害を受けつつも、過酷な状況の中で必死の対応を続けているモーリシャスの方々、そして国際的な支援にあたっている方々に対して、心からの感謝と連帯の意を示したいと思います。

問い合わせ先:国際環境NGO FoE Japan
E-mail: info@foejapan.org
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
TEL: 03-6909-5983  / FAX: 03-6909-5986

注) 1) CNN, モーリシャス座礁、貨物船の船体が折れる可能性も, 2020.08.12
2) BBC, Why the Mauritius oil spill is so serious, August 13, 2020
3) 赤羽国交相が8月11日の会見で、「関係者に対して、多大な心配、ご迷惑をおかけしているところであるが、状況の推移を踏まえながらしっかりと適切に対 応していきたい」と述べているのにとどまります。

 

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