何が問題? H.I.S.のパーム油発電 Q&A

旅行大手エイチ・アイ・エス(H.I.S.)が、宮城県角田市でパーム油を燃料とする 41メガワットの発電所の建設を開始しました。原料として年間約7万トンのパーム油を輸入します。この事業が「熱帯林を破壊する」「石炭以上の二酸化炭素が発生する」として、20の環境団体が中止を求める署名を開始しました。よくある質問と回答をまとめました。

【事業概要】
場所:宮城県角田市梶賀
出力: 41MW  ディーゼル発電エンジン4基
年間発電量:およそ 350GWh ( 3億5000 万 kWh)
燃料:パーム油( RSPO 認証油) 年間7万トンを燃やす
事業主: H.I.S. スーパー電力株式会社
(株式 H.I.S. 66 %、ハウステンボス 34%)
施工:東芝プラントシステム株式会社
発電事業者:合同会社 G-Bio 角田梶賀
FIT 認定: 2017年 2月 16日取得 
※これにより 24円 /kWh で 20 年間の買取が保証される
2020年3月運転開始予定

写真:H.I.S.によるパーム油発電所建設風景
撮影:長谷川公一さん 2019年4月

Q:そもそもパーム油とは?

パーム油は世界でもっとも使用料の多い植物油です。アブラヤシの実から生産されます。その85%はインドネシア・マレーシアで生産されます。日本でも、マーガリン、チョコレート、カップ麺、化粧品、洗剤など、私たちの身近な場所で多く使われています。

Q:なぜ、パーム油発電が問題か?

①熱帯林の消失と生物多様性の減少

アブラヤシ・プランテーションの拡大(FAOSTATより作成)

パーム油の需要の増大に伴い、アブラヤシ・プランテーションが急速に拡大し、インドネシアやマレーシアにおける熱帯林の破壊の主要な要因のひとつになっています。インドネシアとマレーシアでは過去 20年間に約 350万haもの熱帯林がアブラヤシ・プランテーションに転換されました(注1)。多様な樹種から構成される熱帯林がいったん伐採され、単一のアブラヤシが植えられるプランテーションになると、もともと熱帯林に生息していたオランウータンやゾウなどの野生生物が生息できなくなり、生物多様性が失われます。

②膨大な量のCO2が発生

熱帯林や泥炭地の開発により、膨大な量のCO2が放出されます。それらの土地利用転換による排出を加味すれば、パーム油発電は、石炭火力発電よりはるかに多くののCO2が発生することとなります(注2)。

また、たとえ土地利用転換を考慮しなくても、栽培、加工、輸送、燃焼のLCAで、パーム油発電はLNG火力と同等か、それ以上の温室効果ガスを排出します。

③パーム油発電が需要を急増させる

発電によりパーム油を燃やすことにより、パーム油の需要が急拡大することとなります。 2018年 12月現在、 FITの認定を受けたパーム油発電所計画は178万kW(注3)。このすべてが稼働すると、年間 340万トンものパーム油が燃やされることとなります(注4)。日本のパーム油の輸入量 75万トンであることを考えると、これが5倍になり、大きなインパクトとなります。

Q:RSPO 認証のパーム油を使えば大丈夫?

① RSPOも万能ではない

RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)は、パーム油をめぐるさまざまな問題を解決するために2004年設立され、パーム油の持続可能性に関する原則と基準を策定しました。この中で「2005年 11月以降、アブラヤシの新規作付けは、原生林又は保護価値の高い (HCV) 森林を含む地域で行っていない」ことを原則にかかげました(原則7.3)。

しかし、「これでは不十分」というNGOなどの批判を受け、 2018年 11月、“No Deforestation, No Peat, No Exploitation (NDPE)"コミットメントを行い、「土地造成によって森林減少を引き起こさず、保護価値の高い森林( HCV )、高炭素貯留森林( HCS )の保護・促進に悪影響を及ぼさない」という原則を採用しました(注5)。 しかし、これらは新規農園開発にしか適用されません。つまり、2018年10月以前の森林伐採は許容してしまうわけです。 また、以前の基準で認証を受けている場合は、2018年11月以降の森林伐採も許してしまうなど、抜け道があるという批判があります(注6)。

②間接影響

RSPO認証油の供給量に限界がある中、発電用の燃料に RSPO認証油が使われれば、従来のユーザーが非RSPO認証油に向かわざるをえないでしょう。

また、土地が有限である以上、新規プランテーション開発が農地で行われる場合、もともと栽培されていた作物のためがどこかに移動することになり、森林開発の圧力となりえます。

③RSPO認証油の供給量の限界

バイオマス発電協会は、「RSPO 認証油のうち、燃料として使える RBDステアリンは(世界全体でも)48 万トンしかない計算となる」としています(注7)。 FITのガイドラインでは、RSPOなどの持続可能性認証に加え、非認証油と混合することなく分別管理されている(IP/SG)ことを要件としていますが()、このようなパーム油の供給量には限界があります。

Q:諸外国の対応は?

アメリカでは、パーム油を輸送用のバイオ燃料として使うことについて、温室効果ガスの削減効果が基準に達しないとして認められていません(注9)。 これまでパーム油をバイオ燃料として使用してきたEUも、今後使用を止める方向です(注10)。

Q:なぜ、 H.I.S. のパーム油発電所に反対?

H.I.S. に関しては、計画段階で、上記のパーム油をめぐる問題について環境団体などがたびたび指摘をし、申し入れを行ったのにも関わらず、これらの疑問に答えずに建設がはじまってしまいました。

もちろん、パーム油発電をめぐる問題は、 H.I.S. だけの問題ではありません。

たとえば、エナリスによる茨城県北茨城発電所(15MW)、茨城県ひたちなか市の常陸那珂発電所(23MW)、神栖パワープラント合同会社による茨城県神栖市における発電所(38.85MW)、三恵エナジーによる「三恵福知山バイオマス発電所」(2MW )などがあります。これらは、FIT ガイドラインが強化されて RSPOなどが要件になる前に認定された事業で、現在、経過措置中となっています。

舞鶴市でも大規模なパーム油発電が計画されています(66MW )。

そもそも、FITは、温室効果ガスの削減や地域資源を活用した再生可能エネルギーを促進するための制度のはずです。海外から大量のパーム油を輸入し、燃やすことは、FITの目的に反しているのではないでしょうか?

もちろん、国内であっても、森林破壊を引き起こすような再生可能エネルギーはあってはなりません。

私たちは、引き続き、この問題を政府、企業、消費者に伝えていく活動を行っていく予定です。

※関連記事> 再生可能エネルギーの持続可能性に関するFoE Japanの見解
———-

注1)3.5 million ha of Indonesian and Malaysian forest converted for palm oil in 20 years
https://news.mongabay.com/2013/11/3-5-million-ha-of-indonesian-and-malaysian-forest-converted-for-palm-oil-in-20-years/

注2)ECOFYS Netherlands B.V., “The land use change impact of biofuels consumed in the EU -Quantification of area and greenhouse gas impacts", 27 August 2015, p.40 によれば、土地利用転換の際のパーム油生産のCO2排出量は 231gCO2-eq/MJ。
一方、環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/ )などから産出される石炭火力の CO2 排出量は約97CO2-eq/MJ。

注3)資源エネルギー庁「バイオマス発電燃料の持続可能性の確認方法を検討するに当たっての論点」( 2019 年 4 月)によれば、「一般木材等・バイオマス液体燃料」の 2012年 7月~ 2018 年 12 月末の FIT 認定量は 775万 kW で、うち燃料にパーム油等を含むものは 23%。

注4)平成 30 年 10 月 24 日「バイオマス液体燃料発電事業(パーム油発電)における課題と要望について」(一般社団法人バイオマス発電協会)では、パーム油発電 121 万 kW に対して、必要燃料を 240 万トン/年としている。

注5)RSPO Principles & Criteria Certification
https://rspo.org/resources/certification/rspo-principles-criteria-certification

注6)Sustainable palm oil and deforestation: Double Standards
https://eia-international.org/report/double-standards/

注7)平成30年10月24日「バイオマス液体燃料発電事業(パーム油発電)における課題と要望について」(一般社団法人バイオマス発電協会)。ただし、パームステアリンもマーガリン、ショートニングなどの食用用途もあるため、一概に「非可食部」とは言えない。

注8)資源エネルギー庁「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/guideline_biomass.pdf p.10

注9)The U.S. Renewable Fuels Standards Program and Palm Oil
https://id.usembassy.gov/our-relationship/policy-history/embassy-fact-sheets/the-u-s-renewable-fuels-standards-program-and-palm-oil/

注10) https://www.transportenvironment.org/news/palm-oil-not-green-fuel-says-eu

 

関連するトピック

関連するプロジェクト