【声明】G7サミット閉幕 日本は脱石炭に向け真に実効性のある取り組みの提示と実行を

気候変動2023.7.10

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6月11日〜13日に英国・コーンウォールにて開催されたG7サミットが閉幕した。首脳会談コミュニケでは、気候変動対策としてパリ協定の1.5℃目標の達成を目指すことが明記された。生物多様性の危機についても、気候危機とともに切り離せない重要課題として、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させること、陸地及び海洋の少なくとも30%を保全又は保護することなどが盛り込まれた。

気候危機回避と1.5℃目標に向けて、一刻も早く政策の舵を切らなければならないことがG7においても改めて示された。特に石炭火力を最大の温室効果ガス排出源として認め、国内電力システムの大幅な脱炭素化や、石炭火力輸出への公的支援の停止にコミットした。それにも関わらず、日本は、脱石炭火力をいまだに明示せず、原子力や不確実な技術に頼ったカーボンニュートラルを掲げ、G7の中でも足を引っ張り、先進国としての責任を果たすには遠い状況である。COP26 に向けて、そしてエネルギー基本計画の見直しに向けて、国内外の市民社会の声を聞き、真に実効性のある脱炭素政策の策定と実施を政府に強く求める。

G7は1.5℃目標達成に向けリードを

地球の平均気温は産業革命前と比べてすでに1.2℃上昇しており[注1]、特にこれまでほとんど温室効果ガスを排出してこなかった途上国の貧困層が最も影響を受けている。さらに近年では、日本国内においても異常気象による災害、米国や豪州での森林火災、欧州での熱波など、その影響は世界各地で顕著になっている。 

1.5℃目標達成のために残された時間は少ない。日本をはじめとした先進国は、気候変動への歴史的責任の大きな国として、Climate Justice(気候正義)の考え方に基づいた行動を直ちにとらなくてはならない。そのためには、化石燃料の中でも最も多くの温室効果ガスを排出する石炭火力を2030年までにフェーズアウト(全廃)すること、そして、その他の化石燃料による発電も早急にフェーズアウトすることなど、温室効果ガスの絶対量の大幅削減につながる行動が必要である。また気候変動対策として、更なる環境破壊や人権侵害を引き起こす可能性のあるアプローチや確立されていない技術に頼るのでは真の解決策にならないことを踏まえた行動が求められている。

日本は2030年までに石炭火力から脱却を

首脳会談コミュニケでは、環境エネルギー大臣会合コミュニケに同じく、石炭火力発電を「最大の温室効果ガス排出源(“the single biggest cause of greenhouse gas emissions”)」と認め、CCS(炭素回収貯留)導入などの「排出削減対策が講じられていない(”unabated”)石炭火力発電からの移行」を加速させることを表明した。また、政府開発援助や輸出金融などを通じて行う排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への直接支援を2021年末までに終了することに即時コミットすると表明した(パラグラフ39)。

CCSの導入など排出削減対策が講じられている石炭火力発電であっても、新規に建設することはパリ協定の1.5℃目標と整合しないだけでなく、既存の発電所も順次閉鎖していく必要がある[注2]。日本政府は、国内外で新規石炭火力発電所の建設を進めてきたことから、これまでも国際的な批判を受けていた。このサミットに先立ちフィナンシャル・タイムズ(アジア版)に脱石炭を求める意見広告が掲載され、サミット期間中も現地で日本政府に対し脱石炭を求めるアクションが行われた。

現在も日本は、インドネシア・インドラマユ石炭火力発電所事業およびバングラデシュ・マタバリ石炭火力発電所事業(フェーズ2)に対し、国際協力機構(JICA)を通じて事業準備段階の公的支援を行なっている。しかし、両案件は依然として建設工事が始まっていない。これらの事業への支援は停止すべきだ。新規の石炭火力発電所事業への公的支援は年内に終了するとG7としてコミットしたからには、日本政府はこの2案件についても支援の即時中止を明確にすべきである。

国内についても、コミュニケは2030年代に電力システムを大幅に(”overwhelmingly”)脱炭素化することにコミットすると明記している(パラグラフ39)。このために、国内の石炭火力発電のフェーズアウトも急速に進めていく必要があるが、日本政府は国内での石炭火力フェーズアウトを明言しておらず、むしろ石炭火力延命のための抜け道が残された状況にある[注3]。この点についても、早急に脱石炭のロードマップを示し、横須賀石炭火力など、現在建設中の石炭火力発電所については建設を中止すべきである。

生物多様性の保全を大前提に

首相会談コミュニケでは、生物多様性の損失は「気候変動と並んで、地球と人類にとって等しく重大な脅威」という認識を示した。また2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させることをコミットし、さらに2030年までにG7各国の陸地及び海洋の少なくとも30%を保全又は保護することなどを盛り込んだことは評価できる。一方で、その方法は各国に一任されており、数字合わせに終わらない、生物多様性保全に真に有効な方法が求められる。

生物多様性の最大の脅威は、森林伐採や採掘、埋め立てを伴う大規模な開発行為や資源の過剰な採取である。日本においても、リニア中央新幹線や辺野古米軍基地の建設など、大規模な生態系破壊を伴い、必要性も不明確な事業が進行している。こうした事業は中止すべきである。

また、日本は、木材、パーム油、鉱物資源、牛肉など、多くの資源や食料を輸入しているが、サプライ・チェーンや投融資を通じて海外の生態系破壊に加担することを回避するため、企業や金融機関のデューデリジェンスが問われている。

さらに、気候変動対策の名を借りて、大規模な森林伐採を伴うメガソーラー開発や、燃料生産のために海外の森林生態系を破壊するおそれのある大規模なバイオマス発電事業も進められてきている。国内においては、土地利用のゾーニング、環境影響評価制度の実効性の強化とともに、森林伐採を伴うなど環境負荷が高い事業をFITなどの優遇策の対象から除外する措置が必要である。

COP26に向けて

まだNDCs(国別貢献)の見直しと提出ができていない国は、COP26までに提出をすることも確認された。日本は、2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」という方針を示し、4月22日には、「2030年までに2013年度比で46%~50%削減(1990年度比で40~45%)」という新たな目標を発表した。しかしこの目標は、2030年までに世界の温室効果ガスを半減させるためにも不十分である。民間シンクタンクClimate Action Trackerが指摘する62%削減が、科学に基づく最低ラインである。気候変動に対する歴史的責任を加味した分担(フェアシェア)に基づけばさらに大幅な削減が必要である[注4]。COP26までのNDCsの再提出までに、さらなる目標の引き上げが必要である。またそのための取り組みは2020年代前半、つまり一刻も早く、いま開始しなければならない。

エネルギー基本計画見直しに向けて

6月10日には、「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンが、G7サミットに向けて脱石炭と脱原発を訴える「G7直前全国アクション」を呼びかけた。国会議事堂前や各地の自治体庁舎前など全国122か所でスタンディングが行われ、10代20代の参加者も含めて気候正義に基づく取り組みを求める声が上げられた。

エネルギー基本計画の見直しは、今まさに大詰めを迎えている。「2030年代までの電力システムの脱炭素化」は当然だが、その手段として、解決不可能な核のごみを生み出し、事故や放射能汚染のリスクの高い原子力に頼ることは許されない。現在のエネルギー基本計画見直し議論では、審議会委員や産業界が「原発の新増設やリプレース」の書き込みを強く求めている。しかし、日本は原発事故を経験した国として、事故時の計り知れない損害と、平時も含めた被ばくの恐ろしさを体験している。

原子力ではなく、省エネルギーと持続可能な再生可能エネルギーで脱炭素化を進めなければならない。脱原子力を早急に決めるべきであり、現状よりさらに原子力を活用する方向への転換はあってはならない。

以上

<脚注>

[注1] WMO, “2020 on track to be one of three warmest years on record”,
 https://public.wmo.int/en/media/press-release/2020-track-be-one-of-three-warmest-years-record

[注2] Climate Analyticsによると、OECD諸国は2030年、それ以外の国も2040年までに石炭火力をフェーズアウトしなければ、1.5℃目標は達成できない。https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/

[注3] 経済産業省「石炭火力ワーキンググループ 中間取りまとめ」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/sekitan_karyoku_wg/pdf/20210423_2.pdf

[注4] フェアシェア(公正な分担)とは、FoEインターナショナル含む気候正義を求める市民団体がストックホルム環境研究所の協力で開発した、気候正義に重点をおいた国別の排出削減目標を図る指標。産業革命以降の歴史的責任(累積排出量)と対策能力(経済力)を基に各国責任の公正なレベルを算出しています。
https://climateequityreference.org/