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トピック
Vol.14(11 April 2003)
 
 
国際石油利権とイラク戦争、地球温暖化対策の行方
●プレステージ

  昨年11月19日、スペイン沖で一隻のタンカーが座礁、沈没しました。 80万トン前後の重油がこのプレステージ号から流出、スペイン北部沿岸を3千キロにわたって汚染し、野鳥を初めとする動植物や漁業に深刻な被害をもたらしました。 この流出は、89年のアラスカでのエクソン・バルディーズ号事故の約二倍の規模と見積もられています。 同船の背後をたどると、複雑な国際石油シンジケートの姿を垣間見ることが出来ます。

  バハマ船籍の同船の所有者はリベリア船籍の小さな船で、ギリシャ系富豪の所有ですが、運航は積み荷会社に任せ、手段を提供しているだけだったようです(1)。 当時プレステージはシンガポールへ向け航行中だったと見られています。 積み荷の重油はジブラルタルの石油商社クラウン社所有で(2)、その親会社が、石油、穀物貿易から国際金融取引まで扱う、ベールに包まれたロシア最大の企業グループ・アルファです。 モンゴルからシリア、イラクまで手広い事業展開を行っています。 フォーチュン誌によれば、会長のフリードマン氏は40歳未満では世界で9番目の富豪、その資産は20億ドルに上るとしています(3)。 アルファ傘下のテューメン石油社は現在マフィアとの癒着疑惑で捜査されていると言われ(4)、4年前米国輸出入銀行に融資申請した際、CIAが難色を示したと言われます。 この4億ドルの取引の購入先、米ハリバートン社社長が強い働きかけを行い、輸銀内規を曲げた強引な融資決定を得たと伝えられてもいますが、この世界最大の石油サービス・コンサル会社の当時の社長が、チェイニー現米副大統領です(5)。 昨年、同社は元米輸銀総裁と英系国際石油資本BP社の前会長を理事に迎え入れ、欧米資本との繋がりを深めました。 同じ年、アルファグループは国連管理下の石油食糧交換プログラムで、年二千バレルのイラク原油輸出取引の受注を発表しました(6)。 実際、プレステージ号積載の重油がテューメン社のイラクからの積み荷だったのかどうか、定かではありません。 ロシアは、国連安保理決議案の交渉で米政権にロシア企業の権益保護を担保するよう求めたと言われます(7)。

  ロンドンのFoEは最近、独銀行の内部資料(8)を入手、また先に触れた昨年11月スペイン沖で沈没したタンカーの背後関係から、ロシア最大の企業グループとチェイニー米副大統領の前身ハリバートン社との関係、イラク原油の複雑な輸出利権の姿を明らかにし、英オブザーバー紙にその記事が掲載されました(9)。

●イラク石油の行方

  世界の十分の一以上の確認埋蔵量のイラクの石油生産量は、湾岸戦争後の国連禁輸下でも、比較的早く以前の水準に近い240万バレル/日に戻っており、大半は食糧輸入の交換計画に向けられています。 世界最大の国際石油資本エクソン・モービル社を上回る生産量で、潜在的には最大600万バレル/日以上の能力を有すると見られ、国際取引価格を大きく左右する力を持っています。 政府は近年、ロシア、フランス、中国系企業に総額380億ドル相当、470万バレル/日分の新規油田開発を発注しましたが、米英系資本はほぼ例外なくこれらの取引から閉め出されました。 これが経済よりも安保理対策のための政治的な契約とも言われる所以です。

  もしフセイン政権が続けば、将来を潤うこれら石油の開発・運用は露・仏・中の企業が中核となっただろう一方、米英主導で戦争による政権交代が図られれば、米エクソン、英BPといった企業が復興の中で浮上することでしょう。 2年前9月11日の米国でのテロには、サウジ出身者が数多く関わっていました。 石油に於ける世界の中央銀行と豪語する同国の影響力は絶大で、それを下げる意味でも、米政権はイラク石油が潜在的に持つ生産量に強い関心を寄せています。

  また、2月の米議会で戦費予想は軍事行動分だけで950億ドルに上ることが証言されましたが、その一方、初期だけで15億ドル程と見積もられるその戦後復興事業の最有力受注候補が、先に触れた世界最大の石油サービス・コンサルタント企業・米ハリバートン社とその系列企業です。 米軍侵攻で被害が出て、米企業がその復興を受注するという明ら様な還流の構図を懸念する声が米議会で出ているほどです。 米国テロ直後から最も強硬にイラク攻撃を主張したのも、副大統領と国防省次官だったと米紙は伝えています(10)。

  数日前、米政府はこのハリバートンを含む米企業のみ数社に10億ドル弱の戦後復興初期の一連の発注を行う旨を発表しました(11)。 米議会に報告された見積もりでは、復興は250億から1000億ドルに上ると述べています。 大戦後の欧州復興マーシャルプラン以来の最大の事業に、米企業は熱い視線を注いでいます。 米国は異例の国防省主導により米退役軍人のもとでのイラク暫定政権の編成を進めており、すでに英蘭系石油資本シェル社元社長を当面のイラク石油関連施策の長に内定しているとも言われます(12)。

  フセイン政権の瓦解に伴い、米政権は、イラクの石油施設の完全掌握と早急な輸出再開を最優先の一つに数えています。 2400万のイラク国民は、経済制裁の下でほぼ国連の石油と食糧の交換計画で養われてきました。 国連がイラク原油輸出管理を当面継続できるか、米政権の望む禁輸解除と自由輸出再開か、その行方が注視されています。

●米政権のエネルギー戦略と地球環境

  これらの背景には、急増する米国の石油輸入と、価格を下げ石油消費拡大を図る現政権のエネルギー政策があります。 増え続けるガソリン消費と原油輸入の見通しの下で、同政権はエネルギー安全保障を外交の中心とする旨を発足早々に発表しました。 エネルギー安全保障を唱える一方で、供給拡大政策が石油価格を下げ、それが消費拡大・輸入増へつながるという現政権の矛盾する構図があります。

  91年の第一次湾岸戦争前、国際石油価格は20ドル/バレル以下でした(13)。 イラクとクウェート原油輸出再開後一旦下がりましたが、2001年の米国でのテロ事件前からじわじわと上がり、米国の備蓄強化や産油国の輸出調整に、昨年からの産油国ベネズエラでのストライキが拍車をかけ、今年は一時40ドル近くまで上昇しました。 一方、この間米国の原油輸入は800万バレルから2002年には1100万バレル/日に増加、輸入への依存が更に増しています(14)。 国際価格を下げるためのイラク原油の役割が、今回のイラク侵攻の決定に関わりないとは言い切れないでしょう。

  実質的な温室効果ガス排出削減につながる規制に反対する米政権は(15)、まだ独自の京都議定書への対抗案を発表してはいません。 その一方で、国連を離れた世界貿易の交渉で、エネルギー市場の急速な自由化を追求しています。 国連下での管理を嫌い早急なイラク輸出自由化を求める米政府の方針もその流れの中にあります。 エネルギー安全保障の名の下に米政権が追求する中長期的に安い石油価格は、日欧での温暖化問題の取り組みに、政治経済両面からボディブローのようにじわじわとしかし深刻な影響を与えることになるでしょう。


(1)https://www.independent.co.uk/story.jsp?story=353909
(2)https://www.crownresourcesag.com/homepage.shtml
(3)https://www.fortune.com/lists/40under40/global40
(4)https://www.observer.co.uk/bush/story/0,8224,759141,00.html
(5)https://www.tnr.com/080700/kaplan080700.html
(6)https://www.alfagroup.org/presscentre/news/issue.html?id=370
(7)https://www.cacianalyst.org/2002-11-06/20021106_RUSSIA_AQCUIESCENCE_IRAQ.htm
(8)https://www.foe.co.uk/pubsinfo/infoteam/pressrel/2003/20030126184336.html
(9)https://www.observer.co.uk/comment/story/0,6903,846684,00.html
(10)https://www.nytimes.com/2003/03/14/international/middleeast/14POWE.html?th
(11)https://www.nytimes.com/2003/03/23/business/23REBU.html?th
(12)https://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A15368-2003Apr2.html?referrer=email
(13)https://www.nytimes.com/2003/03/09/business/09ECON.html?th
(14)https://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn?pagename=article&node=&contentId=A54986-2002Nov29¬Found=true
(15)米政府発表の対策では温室効果ガスの国内排出量は2012年までに90年と比べ3割以上増えると見積もられています。

お問い合せ:気候変動プログラム・小野寺ゆうり
Email:energy@foejapan.org
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