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Vol.13(2 Nobember 2002)
 
 
デリー宣言を採択しCOP閉幕
 インド・ニューデリーで開かれていた国連気候変動枠組条約第8回締約国会合(COP8)が11月1日閉幕した。10月30日からの3日間は閣僚級会合に充てられ、31日には日本から参加していた環境4団体が鈴木環境大臣と面談、インド政府が交渉を進めるデリー宣言での京都議定書の言及と今後の地球的な取り組みの強化のためのプロセスづくり、南北間の不審回復のための日本の役割の重要性について申し入れを行った。

 昨年COP7で実質作業を終えた京都議定書の運用ルール(マラケシ合意)を受け各国が批准を進める中、今回の会合の焦点は条約2条に期された「危険な気候変動を防止する」という究極の目標に向け、今後の交渉の方向を見いだすことができるかが焦点であった。京都議定書は先進国のみの温室効果ガスの排出量削減義務であり、その削減量も科学者達が地球の気候システムに不可逆な影響を与えないために必要な90年レベルで6割という削減にはとうてい及ばない。先進国のさらなる努力が必要であると同時に、途上国も含めた地球的な排出量抑制なしには達成できないのである。

 一方、京都議定書が採択されて以来の5年間の運用ルールの交渉のなかで、先進国側の削減目標を弱める取引をつぶさに見つつ、途上国のニーズである技術移転や能力育成、資金の問題は時間切れで先送りにされる状況が続き、途上国側は先進国への不審を募らせてきた。また、途上国の先進国への強い
不信感を理解するには、この気候変動条約を取り巻く状況も考えに入れなければならない。過去約20年にわたる途上国が抱える対外債務の交渉、先進国機関が彼らに課している構造調整政策の失敗、自国の市場を閉ざしたまま途上国に対し強引に進める市場開放・貿易自由化などが、定着してしまった
間のある根深い不信の背景にある。気候変動問題は先進国の言うような排出量削減に限定せず、あくまでも持続可能な開発の枠組みの一部として進めること、より被害を被る途上国の適応への援助、先進的な化石燃料ベースのエネルギーも含めた技術移転、そして一人当たり排出量が平等であるべきであ
るとする30日のインド首相の演説は、事実上、気候変動問題解決より経済発展の優先を打ち出し、議長国インドのもとでの途上国も含めた将来の義務拡大へのプロセス設置の難しさを内外に印象づけた。

 交渉の焦点は、インド政府が非公開交渉で進めるデリー宣言の内容である。欧州連合(EU)は先進国のさらなる削減が必要とした上で、「地球的で公平な排出量の分配」、条約目標達成のため2012年より後の行動の可能性を探るプロセス設置」という表現で、明確に途上国も含めた地球規模での温室効果ガス管理体制構築への言及を求めた。日米加豪他EU以外の先進国よりなるアンブレラグループは目標達成には「全ての」国の参加が必要と言う表現で、次の交渉を提案している。どちらもIPCC第3次評価報告を引用し、科学的知見から地球全体での削減が必要としているのに対し、EUははっきりと途上国に交渉プロセス開始を迫っている。一方、アンブレラ提案は京都議定書や再生可能エネルギーへの言及を落としており、途上国の求める資金面で議長提案から後退している。途上国ブロックは途上国の排出量につ
ながる表現は一切なく京都議定書にも触れないなか、気候変動対策を持続可能な開発の枠組みで考え、適応ニーズや先進国の削減政策がもたらす経済的損失の補償を求める産油国の要求が柱になっている。次の削減ステップへ向けた話し合いを求める欧州と日加にリードされたアンブレラグループが手を
組み、米と産油国、中印が主導する途上国ブロックに分かれた。米と他のメンバー間で合意できなかったため京都議定書や削減拡大で協調できないアンブレラグループと別途に、日本は全ての国の参加、議定書、2012年後のプロセスで個別申し入れを議長に行っている。

 米国は途上国参加、今後削減のためのプロセスに反対し、中印、産油国とともに途上国をリード、日欧の要求が将来の経済的損失につながると途上国を説く一方で、資金面の交渉ではマラケシで合意された三基金の進展や地球環境ファシリティ(GEF)の供与対象拡大を遅らせるなど、終始南北間の亀裂拡大に務めた点が、宣言内容を後退させることにつながった。

 最終日夜に合意された宣言では、プロセスが言及されない一方、これまで気候変動の礎となっていきた国連科学者機関IPCCの第三次評価報告の提言を次回の政府間交渉から議題として取り上げてゆくという表現で、より進んだ排出削減への糸口を含むことになった。科学的知見をベースにした公平な地球的気候ガバナンスへの移行のためのプロセスとなるかどうか、来年6月の次回交渉は注目に値する。このほかには、途上国先進国双方で拡大する異常気象の被害などの現状を受け、適応への対応強化、現在の排出削減措置の評価や京都議定書批准の呼びかけ、先進国が採る対策の経済的影響への言及や、化石燃料を含む先進エネルギー技術とエネルギー供給の多様化、再生可能エネルギーの地球的なシェア拡大などが、今後の交渉の重点項目として盛り込まれた。議長国インドの意向を強く反映した、途上国からの視点を基点とした内容である。

 南北対立、途上国の先進国への強い不信感は、デリー宣言内容の交渉と平行して最終日夜まで続いた事務レベル交渉に、はっきりと現れている。途上国の国別報告のガイドラインの強化の交渉では、これが将来の途上国の排出抑制義務につながると見る途上国側が義務とするかどうか、その頻度、目録の詳細で譲らず、資金メカニズムでは既に1年経っても動いていない特別気候変動基金(SCCF)のCOP9での運用開始、8月のGEFの第3次資金充当の成果の評価で、本会議の最後までもつれた。マラケシで約束された途上国国別報告能力育成への全額支援など、この1年間GEFを通じた手続きが速やかに成されたとは言い難く、今後地球全体での排出管理を含めた気候ガバナンスへと進もうとすれば、今早急に必要なのは南北の間の信頼再構築の戦略であろう。


COP8での主な合意内容
●非付属書I締約国の国別報告書作成ガイドライン
 専門的な分野では資金メカニズムと非付属書I国の国別報告書作成ガイドライン改定案に関する交渉が現在のところ積み残しとなっていた。多くの途上国は温室効果ガス排出目録や気候変動に関する政策などについての報告義務は資金の不足などの理由から難しいものと見ており、中国、インドなどは将来の排出削減義務につながると懸念した。しかし、特に小島嶼国などの気候変動の影響に対して脆弱な途上国は報告書ガイドラインを改定し、それに伴う資金支援によって適応策ニーズを特定することを望んだ。一方のEUは途上国が包括的で義務的な報告を行うことに合意するまで資金支援を行わないと伝えられ(実際は1メンバー国の発言)、これも資金問題の合意の遅れにつながったとみられる。報告は義務として途上国が行ってゆく一方、その頻度やガイドライン改定内容については来年の会合に先送りとなった。
●資金メカニズム
 後半議題にあがった項目の多くは資金問題に関する交渉が成功するかどうかにかかっていた。月曜日の資金メカニズムに関するコンタクトグループでは南北の対立が顕著に表れ、交渉は難航した。今回の資金メカニズム交渉で争点のひとつとなっていたのは「特別気候変動基金(SCCF)」。先進国はSCCFの運用に関するGEFへのガイダンスを決定することをCOP9に先送りにし、途上国はこれに譲歩した。
●条約第6条
 条約第6条に関する交渉では、市民参加や政策決定に関与していくために必要な市民啓発や教育のためのプログラムに関して合意に至った。条約下での教育・意識啓蒙に関する「ニューデリー・ワークプログラム」が合意され
たことは、今回のCOPの前向きな成果の一つである。
●適切性のレビュー
 気候変動枠組み条約は、締約国が条約4条の約束に関する適切性のレビュー定期的に行うことを規定しており、これまでこの交渉は棚上げにされてきた。そして、今回のCOP8でもこの交渉は先送りされた。
●科学と政策の整合性
 最新のIPCCによる科学的知見と政策決定過程の整合性に関する交渉は、締約国が気候変動を回避するためには大幅な排出削減が必要とする事実を受け入れることができず、大きな結果を生むことはなかった。SBSTA本会議では、中国が科学の関連性という文言を消すことを要求し、ロシア、EU、ノルウェーはこれに反対した。しかし、最終決定案ではIPCC報告書の情報を考慮する必要性に言及するにとどまっており、将来の交渉においてIPCCの科学的知見の持つ関連性には触れられていない。

 科学との関連性における交渉の結果は、国際的な研究の基本的な評価を行っているに過ぎず、今後の科学研究の適切で新しい方向性を示唆することはなかった。この交渉は、中国、インドなど将来の削減義務を遅らせようとする発展途上締約国や、気候変動抑制のための行動を行うことを拒否してきた米国やサウジアラビアにとって焦点となっていた。

●クリーン開発メカニズム(CDM)
 CDMとしての吸収源プロジェクトの定義についての交渉は、来年2月のワークショップの結果を受けて行われる補助機関会合まで先送りになった。締約国は大規模な単一樹種産業用植林やその他の持続可能でないプロジェクトをCDM事業として行いたい意向である。
●化石賞
 気候変動政府間交渉会期中いつも、その日最も環境に悪い言動をとった国を表彰する環境NGOの化石賞であるが、今回、久々に(京都会議以降初めて?)日本の受賞はゼロであった(トップは米でサウジが僅差で続く)。
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