【署名】日本の官民はベトナム・ブンアン2石炭火力事業から撤退を

化石燃料

2020年12月28日に日本の公的金融機関であるJBICが、ブンアン2に対し6億3,600万米ドル(約600億円)の融資契約を締結しました。協調融資に参加した民間金融機関には、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行が含まれるとみられます。また出資には三菱商事、中国電力、韓国電力公社が含まれるとみられます(2020/12/29に発出した抗議声明はこちら)。
私たちは改めてJBICや事業に関わる銀行・企業に対し事業からの撤退を求めます。
> 署名提出しました


2021年1月XX日

内閣総理大臣 菅義偉様
財務大臣 麻生太郎様
経済産業大臣 梶山弘志様
国際協力銀行 代表取締役総裁 前田匡史様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田篤郎様
三菱商事株式会社 代表取締役社長 垣内威彦様
中国電力株式会社 代表取締役社長 清水希茂様
三菱UFJ銀行 取締役頭取執行役員 三毛兼承様
みずほ銀行 取締役頭取 藤原弘治様
三井住友銀行 頭取CEO(代表取締役) 高島誠様
三井住友信託銀行 取締役社長 橋本勝様

日本の官民はベトナム・ブンアン2石炭火力事業から撤退を

私たち以下に署名するXカ国XX団体は、国際協力銀行(JBIC)に対し、ベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業(以下、ブンアン2)への融資決定の撤回を求めます。また事業に関わる全ての企業に対し事業からの撤退を求めます。

2020年12月28日に日本の公的金融機関であるJBICが、ブンアン2に対し6億3,600万米ドル(約600億円)の融資契約を締結しました(1)。協調融資に参加した民間金融機関には、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行が含まれるとみられます。また出資には三菱商事、中国電力、韓国電力公社が含まれるとみられます(2)。

ブンアン2はこれまでも国際的な批判を受けていた事業で、多くの問題が指摘されていました。気候変動対策との矛盾や環境影響評価の不備など、様々な指摘への説明責任を果たさぬまま、JBICが同事業への支援を決定したことに強く抗議の意を示します。

気候変動を加速させる

日本も署名したパリ協定では、世界全体の平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5℃までに抑える努力をすることになっています。石炭火力発電所を新たに建設してしまえば、この目標の達成はできません。また、既存の石炭火力発電所の閉鎖も含め、世界で2040年までに「脱石炭」を実現しないとパリ協定の1.5℃目標を達成できないと言われている中(3)、ブンアン2を継続することは許されません。

ベトナムは気候変動影響に最も脆弱な国の一つです。世界の平均気温はすでに約1℃上昇しており、2020年10月にはブンアン2予定地のあるベトナム中部に1ヶ月の間に台風が4つも上陸し甚大な被害を及ぼしました。世界中で気候危機が加速する中、新たな石炭火力発電所を建設するということはベトナムの人々だけでなく、世界中の人々、とくに脆弱な途上国の貧困層を更なる危険に晒すことになります。 

折りしも、同10月には日本の菅首相が2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を宣言しました。気候変動対策をすると言いながら、海外に石炭火力発電所を輸出するというのは深刻なダブルスタンダードであり、真剣さを疑います。

さらにJBICとともに協調融資を決定したとみられる三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行は「原則、新規石炭火力発電所向け投融資を禁止」するという方針を持っているだけでなく、それぞれの銀行グループはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)や国連責任銀行原則(Principles for Responsible Banking)にも賛同しています。また、出資者の三菱商事も2019年10月に「原則、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針」を示しています。気候危機対策とその情報開示を行うことで、株主や投資家、顧客から評価される潮流ができつつある中で、このままブンアン2を推進するのであれば、各企業の方針はまったく実体を伴っていないということが露呈するだけです。また、海外の機関投資家がブンアン2に関する懸念を示してきたことに鑑みれば、各企業の評判リスクの増大は避けられないでしょう。

世界では、コロナ禍からの回復策が気候変動対策と矛盾しないよう「グリーンリカバリー」が求められており、諸外国では温室効果ガスを大量排出する産業には、無条件では救済を行わないなどの例もみられます。このような状況の中、気候変動を加速させる事業に公的資金を投入することは、グリーンリカバリーの観点からも世界の潮流と逆行しています。

さらなる公害をもたらす

ブンアン2は日本で建設されている発電所に比べ大気汚染物質の排出濃度が数倍高いこともわかっています。エネルギー・クリーンエア・リサーチセンター(Centre for Research on Energy and Clean Air)の分析によれば、事業による大気汚染物質の予測排出値が日本の水準に比べ5~10倍高いことが判明しています (4)。

さらにブンアン2の予定地域では、過去に大規模な環境汚染事故が発生しています。2016年のフォルモサ社の製鉄工場からの汚染物質流出は、ベトナムの歴史上最も深刻な環境災害と言われており、 沿岸部200㎞にも及ぶ広範囲を汚染し、漁業に深刻な影響を与えました。また、ブンアン2予定地の隣接地ではすでにブンアン1石炭火力発電所が稼働していますが、それは2011年にJBICおよび三井住友銀行が融資を行なった発電所で、粉塵の被害や健康被害等が報告されています(5)。

事業者が作成した環境影響評価(ESIA)報告書(6)には、上記の大気汚染物質の点を含め、様々な問題点があることがEnvironmental Law Alliance Worldwide (世界環境法律家連盟、ELAW)による分析調査で指摘されていますが、これらの懸念は依然解決されていません。

事業のつけを支払うのは市民

ベトナムでは電化率はすでに99%を超え、再生可能エネルギーの価格が、石炭より安くなってきています。2020年9⽉に⽶国のエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が発表した分析では、売電先のベトナム電⼒公社(EVN)の財政リスクが指摘されています(7)。その要因の⼀つとして、⽯炭⽕⼒IPP(独⽴系電気事業者)に対する⼀定額の⽀払いを保証する電⼒購買契約が挙げられています。EVNが債務リスクを抑制するための⽅法として電⼒料⾦の値上げが考えられますが、この⽅法は負担を強いられる国⺠からの反対を避けられず、現在のベトナムの社会政治状況やコロナ禍による影響からの経済回復といった視点からも⾒直す必要性が指摘されています。韓国政府系機関による予備妥当性評価の結果では、本事業が1億5,800万ドル(約170億円)の損失になると評価されており(8)、事業で損失が出た場合、あるいは電⼒料⾦の値上げが実施された場合、それによって最終的な負担を課せられるのはベトナムの市⺠です。

日本政府は、気候危機や脱石炭を求める市民の声に本気で向き合い、ブンアン2への公的支援を撤回すべきです。また、現在国際協力機構(JICA)が新規建設を支援しようとしているバングラデシュ・マタバリ石炭火力発電事業フェーズ2、インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業に関しても、公的支援は行わないと明確にしてください。

国際協力銀行にはブンアン2への融資の撤回を、また関連する事業者・銀行には事業からの撤退を求めます。

以上

CC:
官房長官 加藤勝信様
外務大臣 茂木敏充様
環境大臣 小泉進次郎様
財務副大臣 伊藤渉様
財務副大臣 中西健治様
経済産業副大臣 長坂康正様
経済産業副大臣 江島潔様
外務副大臣 鷲尾英一郎様
外務副大臣 宇都隆史様
環境副大臣 笹川博義様
環境副大臣 堀内詔子様
国際協力機構 理事長 北岡伸一様

署名呼びかけ団体:
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
メコン・ウォッチ
国際環境NGO 350.org Japan

賛同団体:(賛同募集中)

注釈:
1. JBIC, 「ベトナム社会主義共和国ブンアン2石炭火力発電事業に対するプロジェクトファイナンス 成長投資ファシリティにより、電源開発プロジェクトを支援」 https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/1229-014147.html
2. IJGlobal, “UPDATE: JBIC signs debt for Vietnam coal-fired”, 05 Jan 2021
3. Climate Analytics, “Coal phase out”, https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/
4. Market Forces, “Vung Ang 2”, https://www.marketforces.org.au/research/vietnam/vung-ang-2/
5. Los Angeles Times, “GE says it’s going green. Overseas, it’s still pushing coal”, 02 Mar 2020, https://www.latimes.com/world-nation/story/2020-03-02/ge-green-overseas-pushing-coal
6. The Environmental Law Alliance Worldwide (ELAW), “Evaluation of the 2018 Environmental Impact Assessment (EIA) Report For the Vung Ang II Thermal Power Plant Project”, 28 Apr 2020, https://elaw.org/VN_VungAngII_2018EIAReview
7. Institute for Energy Economics and Financial Analysis (IEEFA), Vietnamʼs EVN Faces the Future: Time to Get Renewables Right” September 2020, https://ieefa.org/wp-content/uploads/2020/09/Vietnams-EVN-Faces-the-Future_September-2020.pdf
8. 京郷新聞, 「KDI韓電のベトナムの⽯炭⽕⼒事業、マイナスの収益予想」 (韓国語)2020年6⽉11⽇

 

 

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