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プロジェクトの概要
国会の動き
Far Eastern Economic Review

 2002年5月23日

世界遺産を壊すダム
David Murphy


 別のダムをさらに建設すれば、中国の重要文化遺産である四川省の200年以上の歴史がある水利施設を脅かすことになるかもしれない。だが、プロジェクトは進行しつつあり、中国当局はそれが及ぼす影響についての公開論争を葬り去ろうとしている。

四川省都江堰
 ある春の午後、中国四川省西部の切り立った渓谷に爆破音が響きわたり、ほこりがもくもくと立ち昇り、土を積んだトラックが谷底の片側を行き交っている。これこそ、大規模な三峡ダムが1994年に着工されて以来、中国で最も異論の多い電力プロジェクトの一部で、岷江上流の紫坪鋪に建設され、760メガワットを発電予定のダムである。

 紫坪鋪ダムをめぐる論争は、古代中国の工学技術の傑作である都江堰の水利灌漑システムが2,200年の寿命を終えてしまうかもしれないという懸念に起因する。都江堰の入り口は紫坪鋪プロジェクトの主要ダムの用地から9キロ、第二ダムの予定地からはわずかに700メートルしか離れていない。

 反対派によると、政府当局は、都江堰が長年に渡り岷江の治水に成功しているのにもかかわらず、ダムが必要であるかどうか、さらには紫坪鋪ダムが都江堰に及ぼすだろう影響に関する公開論争を一切認めなかったという。

 都江堰は200年以上にわたって、揚子江の支流である岷江の洪水で流出した水を転用して成都平野を灌漑し、それによって四川省の中央に豊かな農業社会を繁栄させることができた。国連の文化機関であるユネスコは2000年、都江堰を世界遺産の候補に挙げた。ただし、一部に都江堰の未来について疑問が生じたためにその称号はまだ贈られていない。

 古代の給水設備を廃物と化すかもしれない7億4,600万ドルのダムは、四川省で最も有名なインフラ計画であり、中国の西部地域を開発する中央政府の3ヶ年キャンペーンにおける10大プロジェクトの一つである。四川省の張注偉省長を始めとする支持者は、プロジェクトの「すばらしい価値は農業用灌漑、都市への給水、水防、環境保護、観光事業にある」と売り込んだ。

 ところが、当局は近隣の古代水系に与えるダムの影響についての疑問を解決するだろう200ページに及ぶ政府要求の環境影響評価の詳細を明らかにすることを拒んだ。「それは内部利用のためのものであり、部外者には提供できない」と、問題のダムを建設している国営の四川省紫坪鋪開発有限責任公司の役員は語る。

 ダムに融資している唯一の外国銀行である日本の国際協力銀行(JBIC)のスポークスマン、ヤマダマサアキ氏は、その報告書のコピーをJBICは入手したが、中国当局は「第三者への内容開示に反対する」と伝えてきたと述べている。

 ダムが都江堰に与える影響だけが論争になっているわけではない。2006年までに紫坪鋪ダムを完成するには、少なくとも40,000人を強制的に再定住させ、ダムの貯水池用に18平方キロメートルの土地を明け渡す必要がある。

 開発予定地域の一部はアバ・チベット族チャン族自治県内にあり、少数民族のチベット人が強制移住の対象に入るかもしれないことを示している。その他の貯水池用地の低地に住む漢民族は高地のチベットの土地に再定住を終えることができた。

 少数民族地域の再定住は微妙な問題である。世界銀行が四川省の北部、青海省のチベット地域に住む漢民族の定住のために融資すると提案したとき、国際的な抗議の叫び声が上がり、世界銀行に2000年の同プロジェクトへの支援を断念させた。

 紫坪鋪ダムの賛否両論をめぐる公開論争はタブーである。ただし、学者やその他の専門家が招待され、環境へのダムの影響を議論した2000年9月の国内会議の議事録は、非公開ながら、中国の官僚社会と学会双方でダムに対する厳しい意見の対立が存在する証拠を示している。

 カリフォルニア州バークレーに本拠を置く非政府組織アドボカシ−団体の国際河川ネットワークに届けられたいくつかのメモには、多くの反論が記録されている。その会議で提起された最大の懸念は、都江堰に最も近い第二ダムがその古代の水利施設の美しさも、有効な灌漑・水防システムとしての機能も害する恐れがあるということだった。

 他の批判者は、ダムが地震の起きやすい断層線に近いこと、生物多様性への影響、ダムの背後に泥が沈殿しないようにする技術的な難題に関する懸念に触れている。

 会議の議事録にはまた、批判者が中国の遺跡局(National Relics Bureau)、建設部、地震局(Earthquake Bureau)、環境保護総局、地質科学院、環境科学院の専門家たちであり、支持者には水利部、水文学院、農業学院が含まれることを明らかにしている。

 支持者は巨大エンジニアリング・プロジェクトに対する政府の愛着を強調する。中国共産党上層部のほとんどは、工学分野あるいは技術分野で教育を受けてきた。共産党のナンバー2である李鵬氏は、モスクワ動力大学水力発電学科を卒業した。同氏は今年の終わりに共産党の最高位に就くものと予想される。胡錦濤氏も水力工学者である。

ほとんど口封じされる批判者
 ダム建設による環境管理は中国共産党のエリートにとって政治的信条にかかわる事柄である。ケープタウンに本拠を置く世界ダム委員会によれば、中国共産党が1949年に政権を握ったとき、中国にはちょうど22の大型ダムが存在した。ところが今やその数は22,000に上り、世界のダム総数のほぼ半分に相当する。昇進の会談を登っている政府や省レベルの役人にとって、大規模なインフラ計画と関係を結ぶことは自分の将来にプラスとなる。現在、中国のアプローチは大型ダムが嫌われて減少してしまった多くの国とは対照的である。米国では新しいダムが建設されるよりも短期間のうちに大型ダムが使用を中止されている。

 2000年9月に提起された疑問にもかかわらず、紫坪鋪ダム・プロジェクトは昨年7月、正式に着工された。最も重大な修正点は、第二ダムが都江堰の入り口から300メートルではなく、700メートルになっていることである。

 今もダムに反対している最後の中国人の1人は、10年前に三峡プロジェクトの反対勢力を率いたベテラン・ジャーナリスト、戴晴氏である。彼女は、「工事は既に始まり、実際に資金も使われているので、公に批判するのはむずかしくなっている」と指摘する。「いずれはささいなことで訴えられることになる。」

 中国国外では、中国語の報道機関が闘い続けてきた。ボストンと香港の新聞は中国の重要な遺産の一部が失われるのではないかということについて、海外の中国人の懸念を示す記事を掲載した。「どうか都江堰を救ってください―無意味な紫坪鋪プロジェクトが進めば、都江堰は消えてしまう」とは、2001年6月の香港誌『Cheng Ming』の記事の見出しであった。今年、ボストンの『エポック・タイムズ』の記事は都江堰への被害の可能性を「伝統的な中国文化の真髄の終焉を告げる鐘」と表現した。

 現場では農家が再定住について不満を訴えているが、ほとんど何もできない。「私の家族は何世代もここで暮らしてきたが、役人は土地1平方メートルに付いて200元(25ドル)の補償しかくれない。」と、建設用地近くに暮らす老人は訴える。

 前述の国際協力銀行のヤマダ氏は、転居しなければならない住民に提示された補償は「中国の国内標準に基づいて」適切であると語る。同行は費用のおよそ3分の1に相当する322億円(2億5300万ドル)を融資しているが、この論争には「距離を置いた」姿勢を見せている。同行は独自の環境指針に従ったまでであり、プロジェクトの反対勢力に対応する必要はないと語る。

 一方でユネスコは今なお、ダムが都江堰に及ぼす影響を含め、2年前に中国政府に対して行った照会についての完全な説明を待っている。国連機関であるユネスコは、都江堰を世界遺産として推薦したときに、それが、「治水と治水技術の発展の重要な歴史的建造物であり、今もその役割を完璧に果たしている」と述べた。ところが、この歴史的建造物を見られなくなる日が来るかもしれないのである。

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