フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業とは?

開発と人権2022.7.6

フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業とは?

場所: フィリピン パラワン州バタラサ町リオツバ

目的: HPAL法(High Pressure Acid Leach:高圧酸浸出法)によるニッケル製錬の中間品の生産および、住友金属鉱山ニッケル工場(愛媛県新居浜市)への輸出(20年)

  ニッケル製錬の中間品 = ニッケル・コバルト混合硫化物
   第1製錬所では、年間ニッケル量約10,000トン、コバルト量約700トン
   第2製錬所も同規模で、年間ニッケル量合計は20,000トンを予定

- ニッケル製錬所の建設・操業
- 硫化水素の生産施設
- 石灰石の採石
- 水供給および排水システムの設置
- 鉱尾ダム2つの建設
- 発電所(9.9MW:石炭火力)の建設
- 港湾設備(380m)

総事業費: 第1製錬所 約1.8億米ドル  第2製錬所 総額3.07億米ドル

事業実施者:コーラル・ベイ・ニッケル株式会社(Coral Bay Nickel Corporation: CBNC)
      出資者・・・住友金属鉱山90%、リオツバ・ニッケル鉱山10%
     ※2022年1月までは、住友金属鉱山54%、三井物産18%、双日18%、リオツバ・ニッケル鉱山10%出資

融資・付保機関: 第1製錬所 JBICが融資。日本貿易保険(NEXI)が付保決定
            第2製錬所 JBICが融資検討(2008年1月に断念)。NEXIは付保決定。

被影響住民の数: 事業者はバタラサ町の11村を影響を受けるコミュニティーと認定(半径10km)
   直接影響(1村) リオツバ
   間接影響(10村)タラタック、スンビリン、サパ、オカヤン、イワヒッグ、イガン・イガン、サロン、
              サンドバル、クランダノム、タルサン

日本との関わり

国際協力銀行の役割:第1製錬所で投資金融の融資決定(2002年10月)

日本貿易保険の役割:第1製錬所で三井物産、双日に付保決定(2002年11月)
               第2製錬所で双日に付保決定(2008年9月)

日本企業の関わり:住友金属鉱山が参画(2022年1月まで三井物産、双日も参画)

問題点

先住民族パラワンのFree and Prior Informed Consent(FPIC)の欠如
・ 環境影響報告書(EIS、2002年)に添付された地域社会の事業合意書の偽造(出席表への署名を合意書に流用)
・ 先住民族パラワンのコミュニティーにおける伝統的な意思決定方法(民族長であるPanglimaを中心とした話し合い)を経ず、フィリピン先住民族委員会(NCIP)が任命したTribal Chieftainが事業開始後に署名した2003年12月付けの覚書で、2004年1月1日から2008年12月31日までの5年間、FPICを確保していることになっている。

先住民族パラワンが神聖な場所と考えている場所(バタラサ町イワヒッグ村ゴトック集落の丘)での、石灰石の採石による先住民族の生活・文化への影響(採石場13ヘクタール)

・ 先住民族パラワンの30家族以上がその神聖な場所で、彼らの生活手段、水、薬草などを享受してきた。また、その場所で毎月、祈祷の儀式を行なっており、病人などが出たときにもそこで儀式を行なってきた。
・ 年間190,000DMT(Dry Metric tones)をニッケル製錬所での利用のため生産することになっており、EISによれば発破を一ヵ月半毎に実施。すでに、同地は跡形もなくなってしまっている。

埠頭施設の建設によるサンゴ礁への影響
・ 380mのCausewayがサンゴ礁の上に建設された。
・ Causewayの場所は77%が依然として良好の状態を保った(生きている)サンゴ礁の地域を含んでいた。
・ Causewayの当初の計画では、6m幅のものを建設する予定だったが、9m幅に拡大された。これはECCに違反している。(事業者は、罰金50,000ペソを支払ったのみ)この計画変更により、より広範のサンゴ礁や海生生物が影響を受けている。

Tailing Damからの有毒廃棄物の漏出
・EISに基づけば、硫酸や地下水源を汚染する物質など、有毒物質の漏出を回避するために、強力なライナーを使うとされているが、事業者は廃水の浸出を回避するために細かい「ラテライト物質やギプス」といった、工場の化学プロセスで生じる副産物を使用しているのみ。

社会基本サービスへのアクセス
・雇用申請、通院、奨学金制度などについて、村長やNCIPの任命したChieftainの許可が必要。そうした町の有力者に近くない人は、そうしたサービスから排除されやすい。

サイト周辺のハイ・セキュリティー
・ 事業者が雇用するガードの監視なども厳しく、反対の声などは挙げにくい。

様々な環境影響・健康被害の報告
・ 石炭の杜撰な貯蔵方法(ストックヤードに近いTagdalongon集落において、特に雨季における異臭など。子供や年配者見られる咳の症状が増加するなど、肺への健康被害の可能性を懸念。ストックヤードの移転の話が事業者からされていたが、依然未措置のまま。)
・ 埠頭から工場までの主要路Macadam roadはコンクリート化されたが、依然として粉塵がある。Macadam road以外の道路(石灰石の採石場から工場までなど)も粉塵がひどい。より高い頻度での散水が必要。
・ 2005年5月ごろから、海沿いのTagdalongon集落において、皮膚病の子供のケースが報告される。衛生上の問題で、水質汚染と言われているが、集落の年配者らは、この集落でこうした皮膚病のケースが初めて起こったと言っている。
・ 2005年11、12月の大雨・洪水後から子供の下痢や吐き気のケースが増加(バランガイIwahigとIgang-igang)。2006年1月には死亡のケースも出た。衛生上の問題で、水質汚染と言われているが、村の年配者らは、この村でこうした下痢のケースが初めて起こったと言っている。
・ 製錬所周辺の村で、工場の操業後、農産物(米、ココナッツなど)の生産量が低下したとの報告がある。
・ 風向きにより、異臭がするようになり、住民に咳・頭痛などの症状が多くなっている。

環境保護指定地域(ブランジャオ山)での新たな原材料調達(鉱山開発)の動き
・ 製錬所での生産を20年間、継続するために十分な原材料を調達するため、リオツバ・ニッケル社が新たな鉱山開発を進めようとしている動きがある。
・ 一つのターゲットであるブランジャオ山は、その一部区域が、フィリピン共和国法7611号(パラワンのための戦 略的環境計画法:SEP Law、1992年制定)9条1項で定められている「コア・ゾー ン」、つまり、「最大限の保護を受ける地域」として、徹底かつ厳重な保護が要求されている地域。鉄樹(地元名:Mancono)という伐採禁止種の古樹が生長 している地域であり、持続可能な開発パラワン評議会(PCSD)の用意している ECAN(環境上重要な地域ネットワーク)マップでも、コア・ゾーンとして分類されてきた。CBNCは、リオツバ・ニッケル社を後押しして、この環境保護指定地域の解除を地元政治家に働きかけている。
・ ブランジャオ山周辺で暮らす地元バタラサ町の先住民族パラワンや農民の中は、自分たちの生活への影響を懸念する声があげている。

 

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