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緊急報告:危機に立つ生物多様性 「天国に一番近い島」で今何が? (09/6/3セミナー報告)
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【特別報告】生物多様性の危機:ニューカレドニアからの報告 (谷口正次/資源環境ジャーナリスト)
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●ニューカレドニアの環境・生態系の特異性  
ニューカレドニアは、地質学的に特異な場所である。2億年位前にゴンドワナ大陸が大陸移動した時にオーストラリアの一部が離れ一度水没して隆起して新しく生物が生まれて進化してきた。そのためこの島にしかない固有種が80~90%と非常に多く、世界自然遺産に指定されたラグーン(礁湖)や海洋生態系特別保護区もある

●ゴロ・ニッケル鉱山の特性と日本との関連
日本は近年までニッケル鉱石の50%をニューカレドニアから輸入していたが、独立問題で政情が不安定化し10%までシェアが減少した。しかし最近の世界のメタル資源争奪戦で価格が高騰し、新たに日本企業がゴロ鉱山の開発権を取得している。29年間採掘予定だが、含有量は少なく毎年500万トン採掘しても生産量はニッケル6万トン、コバルト4200トンと少ない。しかも鉱床が地表10-20メートルに広く浅く分布するラテライト型ニッケルで、広範囲にわたる自然破壊を余儀なくされる。

●大きな環境影響
鉱山開発は探査段階、採掘・操業段階で環境・生物多様性に多面的に大きな影響がある。

この現場では、
1)森林破壊:採掘現場や工場予定地では固有種が90%という貴重な森林を広範囲にわたって破壊する
2)精錬関連の影響:硫酸を大量に使用し、操業開始直後に硫酸流出事故が起きている
3)廃棄物問題:廃硫酸含む廃棄物が年500万t以上。それを堆積させたテーリングダムの上澄み水を海に流す
4)赤土問題:雨が降ると採掘場から海まで流出し、川や湿地、サンゴ礁を汚染する
など多くの問題がある。  

採掘後は表土を戻し植林する予定だが元の生態系が戻るとは考えられない。ニューカレドニアの研究機関の植物学者が工場予定地の固有種について調査したが、07年3月にレポートが完成した時には既に工事が進んでいた。

●先住民族の抗議
ニューカレドニア人口の44%を占める先住民カナックの人々は、「大地の目」というNGOを作って大切な自然を破壊されることへの抵抗運動をしている。パリの地方裁判所に工事の差し止めを求め、差し止めの仮処分決定が出たにも関わらず、工事は1日も止まらなかった。この処分の罰金は1年間払い続けても10数億円/年にしかならない。で、32億ドルの予算に比すと極めて軽いものだ。なお、仮処分決定は、4ヵ月後に、会社側の不服申し立てで撤回された。

1998年の「ヌメア合意」で、2012年に国民投票で独立を検討することになっており、先住民族の独立派は、テーリングダムと精錬所の操業を止め、鉱石を輸出または国内の別の場所で精錬したいという意向がある。2008年9月協定締結は苦汁の決断で、「手を縛られて死刑台でサインさせられたようなもの」と話していた。

強大な資本力と行政府、フランス本国の力で抑え込まれ、先住民族やNGOが分断された。若者には仕事を与える、電気製品や車を買って豊かになれると言って協力させ、世代間でも分断させる。しかし鉱山は何十年かして資源がなくなれば撤退する。後に残るのは荒廃した土地と貧困のみとなる。

●事業のリスク
これまで抵抗運動で延期が続き、今も正式な操業が出来ていない。予算は倍増し、南部州知事の汚職も取り沙汰されたなどこの事業は大変リスクが高い。また2006年から2008年に国際的にニッケル鉱山会社の買収合戦があり価格が高騰したが、この間操業できなかったため莫大な機会損失を出している。そして2009年3月に試運転を開始したとたんに硫酸流出事故が起き、即操業中止の事態になった。

自然環境に関しても植物学者たちが、固有種がこれほど多い生物多様性の豊かな場所での鉱山開発が認められていいのかという公開質問状を倫理委員会に提出しているなど、事業として疑問な点が多い。

●生物多様性と鉱山開発
サブサハラを除くアフリカ、東南アジア、南太平洋、中南米などの熱帯地域は、生物多様性が最も豊かで、先住民が自然と共生しながら文化と伝統を守ってきた地域だが、人類は今後これらの地域に鉱物・メタル資源を40%以上依存しなくてはならず、どうしても資源開発と先住民・豊かな生態系が競合する。

今、中国・ロシア・ブラジルなど新興国の急激な経済成長で資源重要が高まり、資源と環境という制約が強まった結果、世界中で資源の奪い合いが起き、多様性の破壊も進んでいる。生物多様性の中には先住民の文化と伝統も含まれる。生物多様性というのは、人間も含んだ生きとし生けるものすべての多様性を尊重することで、先住民の文化・伝統・言語といったものは尊重する必要がある。

来年COP10の議長国として日本が取り組むべき課題は、里山とか、工場周辺の植物を守るとか、外来種を抑えるとか、そういう次元の問題ではなく、議長国として必要な対応とは何かを考える必要があるだろう。

●質疑
Q1:
採掘後に植林というが植林によって生態系回復という成果が出るのか。一度破壊されたところを回復させるのは大変難しいと思う。産業植林の可能性もある。
谷口:
昔の鉱山周辺の植林地はすべて単一樹種だった。可能な限り現場に合った多様な樹種を植えるので大丈夫と言っている企業側の科学者もいるが、工場周辺と植物特別保護区に381種89.9%の固有種があり、これだけのものを元に戻せる訳がないと、素人ながら思う。

Q2:
JBICが検討し始めたのは、地元と協定ができて障害が無くなったということだろう。ライセンスも再取得し法的問題はもう無いのか、硫酸事故で見直しができるのか。今後の動きは。
谷口:
法的には開発側が圧倒的に強く遺漏はない。住民側はもう矢折れ刀つきて、弁護士を雇う金もない。パリの裁判所、統治裁判所で闘い、それで精いっぱいだった。これだけ先住民やNGOが抵抗すれば行政・本国ももう少し肩を持つのではないかと思うが、徹底的に弾圧して来た。国益がかかっているから、敵わない。 鉱山開発には国益と地球益のジレンマがつきまとう。日本には資源戦略がなく、オーストラリアから安定的に買っていたニッケルを中国の資源外交で持っていかれた。そこを死守していれば、ニューカレドニアの高リスクな資源に手を出さずに済んだかもしれない。資源やエネルギー資源は大量生産できないので商社任せにせず国家として長期戦略の下に確保すべきものである。

Q3:
ニッケルを使う側として心が痛む話。どうしてもニッケル開発が必要として、もし谷口さんが任されたらどうするか、やはりここは手をつけるべきではないのか。
谷口:
三回現地に行きつぶさに現地を見て文献も調べて、やはりこれはやるべきではないところだと思った。それでもやるなら、私なら徹底的に先住民と目線を同じくして話し合いをする。開発事業者は説明をするが協議はせずどんどん既成事実を作り、裁判で差し止め判決が出ても無視して進めている。

Q4:
これからはメーカーもサプライチェーンの先まで配慮した取り組みを求められる。ニッケルだけでなく多様な金属を使っているが、それぞれの金属によって自然破壊度がどう違うか、影響が大きいものは代替材・技術を探すなど、そういう情報が欲しい。
谷口:
非常に大きなテーマで簡単には答えられない。同じニッケルでも硫化鉱とラテライト系ではインパクトが全く違い、先住民の存在、植生など諸条件がある。他の金属でも、砂金やダイアモンドのように砂地にあるもの、金・銅・鉛・亜鉛など露天掘りで鉱脈を追いかけるもの、トンネルを掘って坑内堀を行うものなど、鉱床の形態・生産規模・植生・ロケーションなどによって異なる。鉱物の採掘は自然破壊そのものだ。ただしCOP10に向けて考えるべきなのは、それだけの破壊行為に対してプライシングが不適切だということだ。採掘・運搬・精錬の費用は価格に反映されているが、生態系、生物多様性、固有種、先住民の文化伝統は市場メカニズムに入っていないのが根本的な問題だ。


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