カナダ・LNGカナダプロジェクトとは?

化石燃料2022.12.20

>脚注を含んだ概要と問題点PDF版はこちら

INVATION(Unist’ot’en制作/2019年)


 LNGカナダプロジェクト現場(2019年/Wilderness Committee)

1.事業の概要

LNGカナダプロジェクトは、ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)モントニーで採掘されたシェールガスを670キロメートルに及ぶパイプラインでキティマットまで運んで液化し、主にアジア市場に向け輸出する事業。カナダはこれまで主に米国向けにガスを輸出してきた。LNGカナダがカナダにとって初めての大型LNG(液化天然ガス)輸出基地となる。

LNGカナダプロジェクトには日本を含む各国の企業が参画しており、各出資者が原料ガスを独自に調達した上で、パイプラインを通じLNG液化設備へ輸送する。LNGは持分比率に応じて引き取る。なおLNGカナダプロジェクトはキティマットにおける液化ターミナルの開発事業をさす。


LNGカナダプロジェクトコースタル・ガスリンク・パイプライン事業(CGL事業)モントニー・シェールガス開発事業(カットバンク・リッジ)
目的年間1,400万トン(700万トン×2系列)の生産能力を持つ天然ガス液化設備の建設。事業には液化プラント・貯蔵施設・輸出用ターミナル建設等が含まれる。ドーソンクリーク(モントニー)とキティマットを結ぶパイプライン建設(LNGカナダプロジェクト専用)50年にわたり日量約30億立方フィート(約2,250万トン/年)のシェールガス生産を行うことを目指す。
サイト位置BC州キティマット港周辺(バンクーバー北西650km)の約430haBC州ドーソンクリークからキティマットの間670kmBC州北東部モントニー地域カットバンク・リッジ
総事業費400億カナダドル66億カナダドル(2018年時点)→112億カナダドル(2022年時点)
事業実施者LNGカナダディベロプメント社= Shell Canada Energy (40%)、Petronas Canada (25%)、PetroChina Canada Ltd. (15%)、Kogas Canada LNG Ltd (韓国ガス公社の子会社)(5%)、Diamond LNG Canada Ltd. (三菱商事の子会社、東邦ガスが3.3%出資)(15%)
EPC:日揮とフルア(米)による合弁会社
Coastal Gaslink Pipeline Limited (CGL社)( TC Energy Corporation(旧TransCanada Corporation)の子会社)
KKR(TC Energyから65%分取得、韓国国民年金公団を通じ出資)
Cutbank Ridge Partnership(CRP)=Ovintiv Inc. (旧Encana)(60%)、 Cutbank Dawson Gas Resources Ltd.(CDGR、SGIC社の 100%子会社)(40%)
SGIC社:三菱商事と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資。
融資機関・国際協力銀行(JBIC)が融資
・日本の民間銀行一行がJBICと協調融資
日本:みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行
オーストラリア:ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)
カナダ:モントリオール銀行 、CIBC、カナダロイヤル銀行(RBC)、 ノヴァ・スコシア銀行(Scotiabank), トロント・ドミニオン銀行(TD)
中国:中国銀行、中国建設銀行、 中国工商銀行(ICBC)
米:バンク・オブ・アメリカ、シティバンク、 JPモルガン・チェース銀行、トゥルイスト
Encanaからの権益取得にJBICが融資
保証期間JOGMECが債務保証
LNGカナダプロジェクトのEPC契約が発効する。
運転開始2025(2024年度)に生産開始→2026年第三四半期に延期。40年間の運転を予定。2023年に運転開始予定。2017年時点で7億5,000万立方フィートの天然ガスと、2万1,000B/Dの液体燃料を生産。
その他・JERAがFY2024年から15年間の購買に基本合意(最大約120万トン/年)。
・東京ガスがFY2026年から13年間のLNG購入に基本合意(最大約60万トン/年)
・東邦ガスが2024年度から15年間のLNG購入に基本合意(30万トン/年)
・カナダ政府が2億7500万ドルの補助金拠出を決定。

*ブリティッシュ・コロンビア州のLNG開発について
BC州では、主にアジア市場向けの輸出用LNGターミナルの計画が進められている。これまでに18の計画が持ち上がったが、実際に進んでいたのはLNGカナダ、Woodfibre LNG、そしてPacific Northwest LNGの3つの計画のみ。Pacific Northwest LNGは、マレーシアのPetronas、日本の石油資源開発株式会社(JAPEX)が関与していた事業であるが、2017年、ガス価格の下落等を理由に事実上中止された。

2.日本との関わり

事業実施者:三菱商事が出資
公的金融機関:国際協力銀行(JBIC)が融資

なお、モントニー・シェールガス開発事業では
事業実施者:三菱商事、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資
公的金融機関:JBICが融資

3.主な経緯

*出典はPDFを参照のこと。

年        動き
2007年先住民族Wet’suwet’enが全てのパイプライン事業に反対し、抗議活動を始める。
2012年LNGカナダディベロプメント社とCGL社との間でパイプライン建設の運営に関し、契約が締結される。
2014年10月23日CGL事業への環境許認可が発行される。
2015年6月17日LNGカナダプロジェクトへの環境許認可が発行される。
2018年10月1日LNGカナダプロジェクトの最終投資判断が下される。
2018年10月2日CGL事業の最終投資判断が下される。
LNGカナダプロジェクトのEPC契約が発効する。
2018年11月23日CGL社が、抗議活動により会社に財政上の損害が発生したとして先住民族のメンバー個人を訴える。
2018年12月14日BC州最高裁判所がCGL社の訴えを認める。事業の続行を認め、先住民族の抗議行為に対する差止め中間判決を下す。
2019年1月7日CGL事業における差止め中間判決を理由に、武装したカナダの連邦警察RCMP(王立カナダ騎馬警察)がWet’suwet’enの土地に暴力的に立ち入り、14名を逮捕する。
2019年10月15日CGL事業への環境許認可の5年延長が認められる。
2019年12月13日国連人種差別撤廃委員会は連邦政府に対し「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent:FPIC)」が得られるまで、CGL事業、トランス・マウンテン・パイプライン事業、サイトCダムの建設を即時中止するよう求める決議を発表。
2019年12月31日BC州最高裁判所が先住民族側の訴えを認めず、CGL事業における差止め判決を下す。
2020年1月4日Wet’suwet’enの世襲制酋長がCGL社に対し立退通告を発出。
2020年2月3日Wet’suwet’enがカナダ最高裁判所にCGL事業における環境許認可延長の司法審査を請求する。
2020年2月6日武装したRCMPが、CGL事業への抗議活動を続けるWet’suwet’enの活動家を強制退去させようとし28人を逮捕する。また、先住民族に対する警察の暴力的な介入に対し、カナダ全土で先住民族に対して連帯を示すデモが起きる。
2020年2月29日連邦政府・BC州・Wet’suwet’enの間で、連邦政府とBC州はWet’suwet’enの土地に対する権利を認めるとする覚書が合意される。
2020年5月14日覚書が正式に署名される。
2020年10月1日Wet’suwet’enが提出したCGL事業における環境許認可延長の司法審査請求がカナダ最高裁判所で審問される。
22020年11月24日国連人種差別撤廃委員会が連邦政府に対し第21-23号統合定期報告書にて現状を報告するよう要請。
2021年2月5日JBICがLNGカナダプロジェクトへの融資検討開始。
2021年9月22日CGL社とRCMPがWet’suwet’enの遺跡を破壊し土地造成を開始。抗議の声が上がる。
2021年9月25日モーリス川(現地語:Wedzin Kwa)下でのパイプライン工事を阻止しようとWet’suwet’enとその支援者が抗議活動を始める。
2021年10月19日Wet’suwet’enが事業に投融資する37企業にCGL事業から撤退するよう要請書を送付する。
2021年10月29日JBICがLNGカナダプロジェクトへの融資を決定。
2021年11月9日現地環境当局(EAO)がCGLに対し講じるべき環境保全対策がなされていないなど、不遵守を指摘。これまでにも複数の不遵守が指摘されている。
2021年11月14日Wet’suwet’enの世襲制酋長がCGL社に対し2020年1月につづき退去通告を再発出。8時間の執行猶予を与えるも、CGL社は現地従業員に伝えず立ち退きを拒否する。結果、一時的にCGL社従業員がWet’suwet’enの領土に取り残される。
2021年11月18-20日武装したRCMPが2つのキャンプ(再占拠地)で計32名を逮捕する。
2021年12月19日2020年1月の退去通告に基づき、CGL社従業員をWet’suwet’en領土から立ち退かせる。
2022年2月7日Wet’suwet’enの世襲制酋長や支持者が国連人権理事会の先住民族の権利に関する専門家機構に対し、「Wet’suwet’enの土地の軍事化とカナダによる継続的な権利侵害」に関する書簡を提出する。
2022年2月16日パイプラインを建設するGCL社が環境対策不備などの法令不遵守で罰金
2022年4月29日国連の人種差別撤廃委員会がカナダ政府に対し2019年に引き続き、先住民族に対する警察権力を使った抑圧に対し懸念を示すレターを発出
2022年5月9日パイプラインを建設するGCL社が法令不遵守で2度目の罰金

4.主な問題点

●化石燃料ガスと気候変動
気候変動に関する国際条約であるパリ協定は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力目標を掲げており、これを達成するためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。つまり新たなガス田の開発や採掘、ガス関連施設を建設することは、新たな温室効果ガスの排出を長期にわたり固定(「ロックイン」)することに繋がり、パリ協定の目標とも合致しない。LNGカナダプロジェクトは2024年度中から40年稼働が計画されており、計画通り進めば2050年を超えて運転することになる。

ガスは石炭に比べて温室効果ガスの排出が少ないことから、再生可能エネルギーが普及するまでの「つなぎ」(transition fuel)とされてきた。しかし、ガス開発による温室効果ガスの排出は過小評価されているとの指摘もある。ガス燃焼時だけでなく、開発の段階からメタンが井戸等から漏れる(メタンリーク)ことで温室効果ガスが大気中に放出される。

図は、パリ協定の1.5℃目標および2℃目標に基づいたカーボンバジェットと化石燃料セクター等からの排出をグラフにしたものである。これによると、1.5℃目標を達成するためには既存及び開発中の石炭・ガス関連事業のすべてをフェーズアウトしていく必要がある。

●シェールガス開発による環境・気候への影響
天然ガスの多くは地下にある砂岩に貯留しているが、シェールガス(shale gas)は地下深く(数百から数千メートル)の頁岩(けつがん)層に含まれ、「非在来型天然ガス」と呼ばれる。近年、採掘技術が進歩し生産コストが下がり、「シェールガス革命」と呼ばれ注目された。

シェールガスは、その採掘のために頁岩層まで掘削を行い、岩に割れ目(フラック)を作り高圧で水を注入し破砕する必要がある。その工法は水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれ、高い環境負荷が生じる。指摘されているリスクや影響として、地震誘発リスク、フラッキングのために注入する水による水質汚染、大気汚染リスク、メタン排出による地球温暖化などがあげられる。2011年にフランスで水圧破砕法(フラッキング)が禁止され、2012年にはブルガリアも禁止した。その後ドイツやアイルランドでも禁止され、欧州の他地域でもモラトリアムが設けられた。欧州以外でもオーストラリア・ビクトリア州、アルゼンチンやコスタリカなどでフラッキング禁止やモラトリアムが導入されている。

モントニーでもフラッキングによる採掘が行われており、過去にフラッキングが誘発したと見られる地震を理由にモントニーの一部で操業の一時的停止措置がとられた。

●先住民族の合意の欠如と土地の権利
コースタル・ガスリンク・パイプライン事業は、先住民族Wet’suwet’enの土地を通過する計画になっているが、Wet’suwet’enの伝統的酋長らは合意しておらず、同パイプライン事業は「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得られていない。

カナダの先住民族については、連邦政府によってつくられたインディアン法(Indian Act)の下で投票により選出された選挙制酋長(Elected band council)と、植民地時代以前から存在する伝統的なシステムに基づく世襲制酋長(hereditary chiefs)が存在する形となっている。

植民地時代からこれまで、Wet’suwet’enは一度も土地の権利を手放したことはなく、「Unceded Land(譲渡契約が未承認の土地)」であると主張している。実際、土地の権利に関しては1997年に、カナダ最高裁判所が土地の所有権及び利用権は先住民族に属すると判決を下している例があり、これにはWet’suwet’enの土地も含まれる(Delgamuukwケース)。

CGL社が2018年に起こした裁判の中間判決では、BC州の最高裁は先住民族等の抗議行為により企業側に損失が生じると認めCGL事業の続行を認めた。しかし前述のように、過去の判例ではWet’suwet’enがこれまで一度も土地の権利を手放しておらず、土地に係る権利は伝統的にWet’suwet’enにあることが認められている。CGL社との裁判では、CGL社が事業に対し選挙制酋長らの合意を得たことだけが記されており、Wet’suwet’enに土地に係る権利があることが十分に議論されなかった。その後も、州政府、連邦政府、Wet’suwet’enの伝統的酋長の間で、先住民族の土地に係る権利が再確認されているにもかかわらず、先住民族の反対の声を無視して事業が進められている。

<先住民族の権利に関する国連機関での動き> 
カナダ連邦政府は「先住民族の権利に関する国際連合宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)」を2016年に採択しており、BC州も同宣言を実施する決議を行っている。2019年4月24日、Wet’suwet’enのUnist’ot’enハウスグループのスポークスパーソンであるフレダ・ヒューソン氏は、ニューヨークで開かれた国連の先住民族問題に関する常設フォーラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)に出席し、一連の事業により自分たちの権利が脅かされている現状を報告した。その後、 国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)は2019年12月13日付けで、FPICが得られるまで、CGL事業、トランス・マウンテン・パイプライン事業、サイトCダムの建設を即時中止するよう連邦政府に求める決議を発表した。同委員会は、CGL事業に反対するWet’suwet’enとトランス・マウンテン・パイプラインに反対する先住民族Secwepemcの強制立ち退きを直ちに中止し、特にRCMPによる先住民族に対する殺傷能力のある武器の使用を禁止、そして先住民族に対するいかなる武力も行使しないことを保証するよう連邦政府に要請した。また、RCMPとそれに関連する警備を先住民族の土地から撤退させるよう求めた。

Wet’suwet’enは2020年7月7日、書簡にて人種差別撤廃委員会へ追加の情報提供を行った。同委員会は2020年11月24日、Wet’suwet’enからの同追加情報に基づき、また委員会による問題指摘に対する取り組みについて連邦政府から情報提供がないことを理由に、第21-23号統合定期報告書で、
a) 先住民族の権利に関する国連宣言を実施するための法律の可決状況および先住民族がその起草にどの程度関与しているか
b) サイトCダムの開発、またトランス・マウンテン・パイプライン事業及びCGL事業の承認に係るものを含むBC州が可決した法令の実施
c) 影響を受けたSecwepemc及びWet’suwet’enとの交渉及び協議に従事するために行われた取り組みと結果
の3点を報告することを要請した。期限は2021年11月15日だったが、カナダ連邦政府は回答しなかった。報道によると2022年中に報告するとしている。

●先住民族の生活への影響
事業地周辺の河川にはさまざまな種類のサーモンが生息しており、サーモン漁業は先住民族の重要な生計手段の一つである。しかし、気候変動や地域の開発により影響を受けてきており、同パイプラインの建設でさらなる影響が懸念されている。

ブリティッシュ・コロンビア州の環境評価局(Environmental Assessment Office)は2019年にコースタル・ガスリンク・パイプラインの建設工事が着工されて以降、土砂輸送、土壌浸食、廃棄物の保管、生態系の保全・復元等に関する10以上の環境評価証明書の不遵守に関して、複数の命令(以下、不遵守命令)をCGL社に対し出している。

また、新型コロナウイルスの感染が広がった中、建設工事のためにやってきた労働者が自らの感染に気づかず、結果的に先住民族にうつしてしまい、先住民族内の感染に繋がったとの報告もなされている。

●先住民族に対する人権侵害~弾圧・暴行・殺害など
以下に示すとおり、土地・水・生活・文化を守ろうとしている先住民族らに対し、当局が暴力的な手段による弾圧を繰り返しており、表現の自由や報道の自由など、基本的人権が著しく侵害されてきた。

・2019年1月7日、BC州最高裁判所が下した差止め中間判決を理由に、RCMPの数十名の武装した警官がWet’suwet’enの土地を訪れ、反対運動を続ける先住民族に弾圧行為を加えた。差止め中間判決では、抗議活動により会社に財政上の損害が発生したというCGL社の訴えを認め、Wet’suwet’enが道路に設置した障害物の撤去を命令していた。しかし、Wet’suwet’enの人々は、土地の権利はWet’suwet’enにあると主張し続けた。この行動に対し、RCMPはチェーンソーで障害物を破壊し強制的に侵入。また、世襲制酋長を含む14名を逮捕した。この時、この情報を聞きつけ後から訪れたメディアは立ち入りを許されず、自由な報道が許されなかった点も問題とされた。

・2020年2月6日朝3時過ぎ、BC州最高裁判所の差止め命令を理由に、再びRCMPの数十名の武装した警官が先住民族の土地を訪れ、平和的な抗議活動を続けるWet’suwet’enの活動家を強制退去させようとし28人を逮捕した。この時も、RCMPは立ち入り禁止区域をつくり、通行人やメディアの立ち入りを禁止した。この事件はカナダ全土で大きく報じられ、カナダ国内外70都市以上でWet’suwet’enの人々への連帯を示すアクションが行われた。これをうけ、連邦政府、BC州、Wet’suwet’enの間で、Wet’ensuwet’enの土地に係る権利を認めるとする覚書が結ばれた。しかし、この覚書には一連のガス事業についての言及はなく、その後も、パイプライン建設は継続されてしまっている。

・2021年9月22日、CGL社がWet’suwet’enの土地での工事を強行的に再開し、Wet’suwet’enにとって文化的に重要な遺跡を破壊した。同月25日には、先住民族やその地域に生息する動植物にとって重要な水源であるモーリス川(現地語:Wedzin Kwa)の下を掘削しパイプラインを敷設するための準備が開始された。これに対し、Wet’suwet’enの世襲制酋長や支持者たちは水源を守るため、キャンプを張り、反対運動を開始。平和的な抗議を行っていたが、先住民族やその支持者ら数名が逮捕された。

・2021年11月14日、Wet’suwet’enの世襲制酋長は彼ら自身の伝統的な法に基づき、CGL社に対し2020年1月4日に出した土地からの立退通告を改めて発出。8時間の執行猶予を与え、Wet’suwet’enの土地から立ち去るよう通告するも、CGL社はその通告を無視し、さらにはそのような通告が先住民族から出ていることさえも現地従業員に伝えていなかった。2021年11月18日、重武装したRCMPが、2019年のBC州裁判所の差し止め命令を理由に、平和的に抗議する人々17名を逮捕。翌19日には15名を逮捕した。逮捕者の中にはジャーナリストや法的オブザーバーも含まれていた。

・地域一帯で、複数の先住民族の女性が行方不明、もしくは殺害されており、ガス開発事業との関連が疑われている。連邦政府が実施した「行方不明および殺害された先住民族の女性と少女に対する全国調査(National Inquiry into Missing and Murdered Indigenous Women and Girls – MMIWG)」の最終報告書では、資源開発により先住民族の女性への暴行が増えているという結果が報告されており、女性たちは不安の声をあげている。この点は環境許認可延長決定の司法審査請求の中でも言及されている。

●環境社会負荷の高い水力発電ダムとLNGプラントの関係性
LNGカナダプロジェクトの環境アセスメント報告書(EIA)によると、天然ガスによる自家発電を行い、補助的にBC Hydro社から電力の供給を受けるオプションが望ましいとしている。また事業者のウェブサイトには、BC Hydro社が供給する再生可能エネルギーを使用して生産・加工された天然ガスを発電に利用すると明記している。

BC Hydro社は、BC州北西部のピース川で、1,100メガワット(MW)の発電容量を持つサイトCダム開発を進めている。事業者のウェブサイトによると2014年12月に建設を開始し、2024年に完成予定。BC州担当者はLNGプラントとダム開発の関係性を否定しているが、ダムが完成すれば、サイトCダムから供給される電力がLNGカナダプロジェクトでも使用される蓋然性は高い。

サイトCダムに関しては、多くの課題や懸念があげられている。サイトCダムの計画は30年以上前から持ち上がっており、コスト面や環境影響などからこれまで2度も事業が拒否されている。一度目はBC州の公共事業委員会(Utilities Committee)が、また二度目はBC Hydro社の理事会そのものが計画を拒否した。

サイトCダムの建設が進めば、先住民族の土地が水没し、生物多様性豊かな土地や湿地(tufa seeps)が失われる。そのため、環境保護団体や先住民族らから強い反対の声が上げられてきた。

サイトCダムは建設中であるが、当初88億カナダドルと見積もられていた建設費は倍の160億カナダドルに膨れ上がっている。

5.現在の状況

・LNGカナダプロジェクトの建設は2022年1月時点で約50%進んでいる。CGL事業は、2021年12月31日の時点でパイプラインの建設が48.8%、事業全体で59.2%の進捗率となっている。

・新型コロナウイルス感染症の影響で多少の遅れは生じているとみられるものの、建設作業は続けられている。

・JBICは環境レビュー結果のモニタリング項目の中で、「本不可分一体事業については、ESIA承認付帯条件の遵守状況及び先住民族との対話状況等につきモニタリングを実施する予定。」としている。しかし、JBICが貸付契約を締結した後、①2021年11月9日に新たに3つの不遵守命令がBC州環境評価局から出されており、「ESIA承認付帯条件の遵守状況」に問題が生じていること、②2021年11月18、19日に平和的に抗議を行っていた先住民族らが逮捕されており、「先住民族との対話状況」に重大な問題が生じていることが明らかとなっている。

 

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