チレボン及びインドラマユ石炭火力 住民らがインドネシア汚職撲滅委員会に「徹底捜査」を要請

化石燃料

1月28日、西ジャワ州のチレボン県とインドラマユ県から首都ジャカルタを訪れた住民や学生グループが、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)の建物前で、それぞれの地元で進められている石炭火力発電事業に関連し、汚職の捜査を徹底的に行なうよう同委員会に求めました。

(写真)ジャカルタのインドネシア汚職撲滅委員会(KPK)前で徹底捜査を求め、声をあげるチレボン県・インドラマユ県の住民・学生グループ(2020年1月28日。WALHI提供)

丸紅とJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が出資し、国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)と三菱UFJ、三井住友、みずほ銀行等が融資して建設が進められているチレボン石炭火力発電事業・拡張計画(2号機。100万kW)では、許認可をめぐる贈収賄事件が持ち上がっています。建設を請負う韓国・現代建設の元ゼネラル・マネージャーから前チレボン県知事(Sunjaya)に不正資金が流れたとして、すでにKPKが両者を容疑者として認定している他、丸紅・JERAが出資する現地事業会社の元取締役社長などが海外渡航禁止措置を受けています。

チレボン県の住民や学生らは、前県知事だけではなく、同不正に関与したチレボン県の他の役人や政治家についても、KPKが徹底的に捜査することを望んでいます。

国際協力機構(JICA)の支援で建設が進む可能性のあるインドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(100万kW)では、直接・間接的な贈収賄疑惑は依然あがっていないものの、2019年10月に前インドラマユ県知事(Supendi)、公共事業・空間計画局の関係者2名、民間業者1名の計4名が県内の道路事業に係る贈収賄事件で容疑者認定を受け、KPKが捜査中です。同事件に絡んでは、この1月23日、元インドラマユ県知事(通称Yance)に対しても、KPKの査問が行なわれたばかりです。この元県知事については、すでに稼働している中国支援のインドラマユ石炭火力発電事業(33万kW × 3基)で用地取得に絡み不正資金を受け取ったとして、2016年に実刑判決が言い渡されています。

インドラマユ拡張計画の影響を受ける農民らは、同拡張計画の事業実施主体であるインドネシア国有電力会社(PLN)が行なった道路舗装や生計支援等のCSR(企業の社会的責任)プログラムでも、こうした不正資金の動きがあった可能性を懸念。KPKが今回の前・元県知事らが絡む贈収賄の捜査を綿密かつ幅広く行なうことを望んでいます。

チレボン及びインドラマユ両案件に関わる日本政府、JBIC、JICA、民間銀行・企業は、気候危機への早急な対策の必要性が叫ばれているなか、国際社会の批難の的となっていますが、住民が懸念しているように、インドネシアの石炭火力発電事業で贈収賄が頻発してきていることも重く受け止め、事業推進の是非を判断すべきです。

以下、現地グループのプレスリリースの和訳です。


(原文はインドネシア語。以下は、FoE Japanによる和訳)

プレスリリース
2020年1月28日

チレボン及びインドラマユの住民
石炭火力発電所に関連する贈収賄の捜査をインドネシア汚職撲滅委員会に要請

ジャカルタ発 ― 石炭火力発電所の建設における暗澹たる軌跡の一つは、インドラマユ県スクラ郡におけるインドラマユ石炭火力発電事業(33万kW × 3基)の建設の用地取得に係る贈収賄事件で、2016年に元インドラマユ県知事が実刑判決を受けたことである。また、2019年に国会議員が実刑判決を受けたリアウ1石炭火力発電事業の建設合意に係る贈収賄事件も記憶に新しい。さらに、同年10月4日、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)は、(すでに別の贈収賄事件で)5年間の実刑判決を受けている前チレボン県知事スンジャヤをチレボン石炭火力発電事業2号機(100万kW)に係る贈収賄事件の容疑者として発表した。汚染をもたらす(石炭火力)発電所の建設における一連の汚職問題は、インドネシアの至るところで起きている。

前チレボン県知事の容疑者認定の後、KPKは(EPC契約者である)現代建設の元ゼネラルマネージャーを容疑者認定し、事業者チレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の元取締役社長ヘル・デワントやブブル郡長リタ・スサナ等に対し海外渡航禁止措置をとっている。しかし、今日まで、このマネーロンダリング事件は依然として落ち着いたようには思えない。むしろ、住民は、同石炭火力発電所の贈収賄事件について前チレボン県知事に止まるのではなく、その真相までKPKが徹底的に捜査することを期待している。

チレボン県の住民らのなかには、現代建設から前県知事に流れた資金がただ彼自身によって使われたのではないと疑う見方がある。許認可を供与する政府機関の役人や文書発行に携わる者、あらゆる形態の許認可発行に関わる(議員や村長など選挙で選出された)住民代表らにも資金が流れたのではないかと疑問を抱いているのである。

同様に、インドラマユ県パトロール郡においてインドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(100万kW × 2基)の問題に直面している住民らも、KPK前で抗議活動を行なった。彼らは、インドラマユ拡張計画(におけるCSRプログラム)に関連した贈収賄疑惑を追究するよう求めた。住民ネットワーク JATAYU(Jaringan Tanpa Asap Batubara Indramayu:インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)に参加するムカルサリ村の住民らはKPK前で、インドネシア国有電力会社(PLN)が今日までCSR(企業の社会的責任)プログラム)を集中的に供与してきていると話した。

PLNが供与しているCSRプログラムは、コミュニティーのニーズに応えるものではないと住民らは考えている。各プログラムが役に立っていない状況もみられる。例としては、ナマズ養殖プログラムやキノコ栽培プログラム等が挙げられる。住民らは、そうした支援プログラムが住民の生活のニーズに応えるものになっておらず、インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画の建設地近くで暮らすコミュニティーの経済損失を克服するものにはなっていないと話した。

以上の考えから、チレボン県とインドラマユ県の地元グループは、KPKに以下の要望を伝えた。

  1. KPKは、チレボン石炭火力発電事業2号機の贈収賄事件を徹底的に捜査すること。
  2. KPKは、同贈収賄事件に関与したとされる現代建設元ゼネラルマネージャー及び他のアクターについて、さらなる捜査を続けること。
  3. KPKは、インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(のCSRプログラム)に関連した汚職疑惑の可能性を追究すること。
  4. KPKは、チレボン石炭火力発電事業2号機の贈収賄事件に係る進展について、公表すること。

連絡先:
WALHI(インドネシア環境フォーラム)西ジャワ 等

※ インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、JERA(10%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、IMECO(18.75%)、Indika Energy(6.25%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約22億米ドルにのぼり、うち8割程度について、JBIC、韓国輸銀、日本・オランダの民間銀行団(三菱UFJ、三井住友、みずほ、ING)が融資を供与する(JBICはうち7.31億ドル)。現場では、アクセス道路の整備や土地造成作業などが終わり、本格的な工事が始まっている。2022年に運転開始見込み。

※ インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画
200万kW(100万kW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(100万kW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、基本設計等のためにエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を締結(2013年3月)。現在もE/S借款の支払いを続けている。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。

●関連WEBサイト
「JBICの石炭発電融資にNo!」プログラムについて → https://sekitan.jp/jbic/