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WTOに環境を取引させるな〜FoE Internationalのポジション・ペーパー
他国間環境協定(MEAs)に関するWTO交渉を国連へ移せ

2003年7月
要旨

FoE Internationalは、WTOルールと多国間環境協定(MEAs)との関係について現在WTOで行われている交渉の継続に反対する。WTOは、国際環境ガバナンス全般、とりわけMEAsに関するルール策定の権限を持つべきではない。従ってカンクンでは、WTOにおける環境条約関連の交渉停止に各国政府が合意しなければならない。その代わりWTOルールとMEAsの関係についての交渉は国連へ移管すべきであり、それに伴って国連環境計画(UNEP)やその他国連組織が既に持っている主導権を発展・強化すべきである。
 
国連は、社会・経済開発と環境との整合性を確かなものにするという任務を与えられている。従って、国際貿易が持続可能な開発に悪影響を与えないこと、そして多国間貿易ルールが多国間環境協定で定められているルールに反しないことを保証するのは、国連の仕事でなくてならない。

多国間環境協定(MEAs)とWTO −ドーハ・マンデート−

WTOのドーハ閣僚宣言パラグラフ31 (@)は、既存のWTOルールと、MEAsに関わる特定の貿易義務との関係について交渉するよう定めている。この交渉は、2002年2月の貿易交渉委員会での会合で決められた通り、WTOの貿易と環境に関する委員会(CTE)の特別会合で行い、2005年1月1日までに結論づけることになっている。

現在までに設定されているMEAsの数は約200であり、その多くが貿易と貿易ルールに関連する条項を含んでいる。加えて、貿易措置は各国でMEAsを効果的に実施するための最も重要なツールの一つになる。CTEの任務は、こういった貿易上の義務とWTOルールとの関係を明白にすること、というわけである。

WTO加盟国のうち何カ国かは、その条約に関わる貿易義務が事実上「特定」かつ「必須」だと考えられるMEAs6つとWTOとの関係に絞るよう提案している。また別の国々は特定かつ必須の貿易義務だけに注目するのではなく、MEAsの実施に用いられる国内の貿易措置も考慮に加えることを提案している。結果として、現在WTOで行われている議論は、より幅広く取り組んでいくことを否定してしまったわけではないが、主として以下にあげるMEAsとそのMEAsに定められる「特定の貿易義務」に焦点があてられている。

  1. モントリオール議定書 −オゾン層を破壊する物質(フロンガス;CFCs)の生産・消費・輸出の規制
  2. バーゼル条約 −有害廃棄物の越境移動の管理
  3. 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)
  4. バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書 −遺伝子組み換え生物の取引の規制
  5. 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約
  6. 国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)

さらにパラグラフ31 (A)は、MEAs事務局とMEAsに関連するWTO委員会との定期的な情報交換の手続についてと、オブザーバー資格を与えるための規準についての交渉も義務付けている。

交渉の現状

MEAsと貿易ルールとの関係を交渉することがドーハで決定されて以来、政府間の議論の大半は、交渉をどのように組み立てるかに焦点があてられてきた。一番の問題は、特定の貿易義務(STO)をどう定義するかである。大半の国は、オーストラリアが最初に提案した、特定かつ必須の貿易条項だけを扱うという案を支持しているが、EUやスイスに代表されるいくつかの国は、より広範な定義を支持している。後者の定義には、国内での実施措置や、条約締結国会議(COP)における決定、また気候変動枠組条約や京都議定書のようなその他のMEAsなどが含まれる。

しかしこのように詳細を明確化すると、MEAsに対して極めて重大な結果を持たらすことになりかねない。例えば、MEA加盟国の裁量に委ねられた貿易措置は、WTOに合致しないものと判断されてしまう可能性がある。またMEAsのCOPでの決定のうち、付属文書や議定書に成文化されていないもの、あるいは全参加国の批准がされていないMEAsのCOPでなされた決定もしかり、である。

全体的に言って、非常に重大なリスクは、交渉の結果、WTOが次のようなことを行うようになりうることである。

  • 現在および将来のMEAsで、その貿易義務の履行に規則や基準を設けること。
  • WTOと整合性のとれた一連のMEAsや、特定の貿易義務をリスト化し限定することで、それ以外のMEAや貿易義務を、それぞれの利点にかかわらずWTOに不整合だとみなすこと。
  • WTOがMEAsの国内実施を監視する条項をつくり、環境に有利な規制をする政府の権利を結果的に制限してしまうこと。
  • MEAの定める貿易措置の導入・実施を、WTO加盟国やMEA締結国のうちどの国が行うことも事実上妨げ得るルールを設定してしまうこと。

もうひとつの概念的なアプローチでは、EUとスイスの提案でWTOとMEAsとの関係について政治声明を出すことを求めているが、これもMEAsのセーフガードになる可能性はあまりない。主な理由は、WTOが「相互補完性」という事実上の現状容認に他ならない文言以上の言葉を用いることは決してないからである。そしてWTOは、もちろん貿易ルールの上位に環境ルールを位置づけたりしないだろうから、もしMEAのいずれかとWTO協定のいずれかが衝突すれば、相互補完性についての声明はほとんど意味をなさなくなる。

要するに、結局どんなアプローチがとられようと、貿易と環境委員会(CTE)の交渉からMEAsの「セーフティーネット」はつくられそうにない。わずかなMEA事務局員にしか交渉を直接フォローすることが許されておらず、仮にできたとしても臨時的にでしかないという事実からも、この見解は裏付けられる。MEA事務局員は全ての会合に繰り返し招待される必要があるが、加盟国からの反対意見がたった一つ出るだけで、MEA事務局員全員を交渉現場から排除することができる。さらに、MEA事務局員は、話を振られた時や、会議の最後でのみ発言が許されるため、彼らは、プロセス全体に対して非常にフラストレーションを感じているという話しである。ある事務局員は、貿易と環境委員会(CTE)の会合のことを次のように語っている:「あれはひとつの実験だった。我々は会議を聞いて、最後に話す機会を与えられたが、最終的なWTOの決定を正当化するためだけにその場にいたくはない。」『Bridges, 2003年5月第16・7号vol.7』

MEAsとWTOのルールが持つ意味

多国間環境協定(MEAs)と貿易ルールとの関係に関する現在のWTO交渉は、全く満足できないものである。現在の交渉が、国際・国内環境政策の両領域(WTOが全く力量を持っていない領域)にWTOの侵略を許すとき、最も陥りそうな結末は、国際環境ガバナンスが経済や貿易への配慮に従属してしまうことだ。
WTOルールとそのルールが促進する市場志向の原則が、さまざまな環境・社会問題の原因となっているケースが多いのは、不公平な貿易条件を存続させながら、資源の利用増加や世界規模の輸送を促進してきたからである。そしてこの結果、先進国が発展途上国の人々に対して負うべき環境債務を増大している。これとは対照的に、MEAsが持っているはっきりとした目標は持続可能な社会の開発であり、これはWTOの目的よりかなり広範である。MEAsはしばしばビジネス界の意向を反映しながらも、MEAの「貿易措置と貿易義務」は、MEAsが持つ重要な特定目標の達成を確実にするために大きな役割を果たすことができるし、間違いなく国内でのMEAsの実施に最も効果的な手段の一つでもある。

こうした観点からみると、WTOとMEAsは正反対の方向に機能しているように見える。だからこそ、(しばしば問題の源となる)貿易ルールを(問題を正すよう意図されている)MEAsに対して優先させることは容認できないのである。

MEAsに関する交渉は取引の道具なのか?

ドーハ閣僚会議で定められた交渉は、全て「シングル・アンダーテイキング(一活受諾方式)」の一部になっている。つまり、これらの交渉が一つのパッケージとして行われて、ある交渉分野の獲得が他の交渉分野で譲歩することによってバランスをとられるかもれないことを意味する。WTO/MEA関係の交渉は、「やられたらやり返す」経済的取引の考えに則って行われる訳である。そのため、MEAsで定められている特定の貿易義務とWTOルールとの関係についての政府の立場は、他の交渉分野での経済的利益を守るための取引道具として、簡単に利用(誤用)されるかもしれないのである。

目下WTOにおけるほとんど全ての交渉が行き詰まっている。中でも、農業交渉は最も議論の激しい分野であろう。農業交渉では、様々な国の政府が自国の農作物輸出の市場アクセスを増大するよう要求したり(または要求しつつ)、特に妥協を知らないEUなどの政府が国内農業市場をもっと保護するよう要求したりしている。次に同点2位を占めるいまいましい問題は、アメリカが、安価なノーブランドの医薬品(コピー薬)に途上国をもっとアクセスできるようにするというドーハ合意を撤回することが許されるかどうかという問題、そして、投資などの新たな議論をWTOに導入しようというEUの提案が、いやいやながらも途上国に最終的に受け入れられるのかどうかという問題である。

明らかに、環境はどの国の欲しいものリストをとってもその上位にあるとは言えないし、カンクンでのどの政府代表団にとっても優先度の高い問題ではない。ということは、貿易の交渉担当者でさえ、MEA交渉よりも高い関心が寄せられているその他の領域、特に農業交渉や投資交渉などを優先させてしまう可能性が限りなくあるということである。

国際環境ガバナンスに影響を与える国際政策の策定は、WTOの「やられたらやり返す」式の経済的取引の手続きに則って行われるべきではない。持続可能な社会のために地球環境問題に取り組むMEAsに関する交渉や実施は、国際ガバナンスを支える重要な柱である。MEAsは決して貿易ルールに従属してはならないし、その自立性と権威が認識されなくてはならない。

提言

ドーハ閣僚宣言パラグラフ31(@)に基づいて行われるWTO交渉によって、国際環境ガバナンスに以上のようなリスクが生じることを考慮し、FoEは、第5回WTO閣僚会議に集まる各国政府に以下の行動を求める。各国政府は、このペーパーで挙げた様々なリスクを認識し、各国の主導権を用いてWTOルールとMEAsとの関係についてのWTO交渉を中止して、交渉の場を即刻国連に移すこと。そしてWTO加盟国は、国連環境計画(UNEP)が既存のイニシアティブを発展・強化しつつ、交渉にふさわしいプラットフォームとなって、WTOルールとMEAsとの関係についての交渉を開始するようUNEPに勧告すべきである。

さらに、各国政府が認識すべきは、WTOから独立した国際環境ガバナンスのメカニズムの確立が不可欠であるということであり、まただからこそ、

  • いかなる国も、MEA上の義務の遵守をWTOルールやその他の経済的利益によって妨げられない。
  • MEAの貿易条項に対して、そのMEAを締結していない国がとる措置については、関連するMEAの条項によってのみ決定する。
  • MEAsの遵守および紛争解決機能を強化する。
  • MEAsによって、効果的な環境の保護と社会正義の促進が確実にもたらされるよう、適切なMEAsの条項を再度組みなおす。
  • 貿易とMEAsという2つのガバナンスの体系間で起こりうる、または実際におこっている紛争を検討し、裁く権限は、国連のみが持つ。
  • 環境に関連する組織とWTOとの間の情報交換の手順を改善し、制度化する必要がある。

批判的にいえば、WTO加盟国は、MEAsを通じた国際環境ガバナンスが経済や貿易上の考慮対象になること自体許してはいけない。また、WTOが力量を持たない国際政策の分野に、WTOを侵略させるべきでもない。このことから考えて、各国政府がWTOに与えてはいけない任務は:

  • MEAs上合意された貿易措置の行使や国内での実施を、どんな形であれ定義づけをしたり制限したりするルールや基準を設定すること。
  • MEAsの国内実施に対するルールや基準を設定し、各国政府が環境を優先して規制をかける権利を制限すること。例えば「必要最小限の貿易制限のためのテスト」など。
  • WTOと整合性のとれたMEAsや貿易措置をリスト化し限定することで、それ以外のルールをその利点にかかわらずWTOに不整合だとしてしまうこと。
  • MEAsの優位性や権限が明確にわかる原則以外の、いかなる原則に合意すること。
以上の目標を達成するために、第5回WTO閣僚会議に参集する政府が行わなくてはならないことは:
  • UNEPとMEAs事務局に対し、貿易関連の規定や目的、またはWTO内の関連組織すべてにおける恒常的なオブザーバーの責務を与えること。
  • 独立・包括的且つ参加型の、社会・環境影響評価の実施を要求して、全てのWTO交渉が環境と開発に関する懸念を反映し、その懸念に対応していることを確実にすること。この評価は、UNEPとその他の適切な国連組織によって、ありとあらゆる貿易交渉の立ち上げの前に実行される必要がある。ドーハ閣僚宣言のパラグラフ51に概説されている通り、貿易と開発に関する委員会と、貿易と環境に関する委員会は、それぞれ「持続可能な開発を適切に行うという目的の達成に役立つべく、交渉における開発や環境の側面を特定し議論する」ための場として機能しなくてはならない。そうするためには、WTOの決定とルールについて独立した検証を行う必要がある。その検証により、その決定やルールが持続可能な社会の開発を助け促進しているのかどうかを判断し、環境と人権一般に関わる既存の国連条約との調和がとれることを保証するのである。また各国政府も、国内で独自に持続可能性への影響の独立評価を行うべきである。そして北側の政府は、南の政府に対し、キャパシティビルディングと技術支援を行わなくてはならない。
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