ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
衆議院外務委員会の調査議員団に対する要望書(2001.8.28.)

 

 8月28日、債務と貧困を考えるジュビリー九州(福岡)、地球の友ジャパン(東京)、メコン・ウォッチ(東京)の3団体は、他に10団体、97個人から賛同を得た要望書を衆議院外務委員会の視察調査議員団に提出した。要望書では、日本のODA円借款案件、ケニアソンドゥ・ミリウ水力発電事業について現地NGO及び国内のNGO・市民の間から、環境面・社会面・経済面での問題が数多く指摘されていることに対応し、同視察団が適切で公正な調査を行うよう求めている。 視察調査団は8月31日に日本を出発し、9月2日ごろケニア入りする運びとなっている。

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2001年8月28日

衆議院各国外交政治経済事情等調査議員団
団長 委員長 土肥 隆一殿
理事 安住 淳  殿
理事 桑原 豊  殿
理事 下村 博文 殿

理事 鈴木 宗男 殿
理事 土田 龍司 殿


ケニア、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業への

現地視察に関する要望書

 

 日本からの円借款案件である、ケニア、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業への、衆議院外務委員会ODA調査議員団訪問に関し、わたしたちはODA出資者として、また適切なODAの有り方を望む市民・NGOとして本事業について高い関心を持っております。

 8月8日付の毎日新聞の記事で、衆議院議員外務委員会がODA調査議員団として、ケニアの「ソンドゥ・ミリウ水力発電事業」を視察されるということを知りました。

 すでに国会や報道でも取り上げられておりますように、本事業に関しては多くの課題が残されたままです。現地訪問に際し、現地NGOや住民の声として、またODAについての調査・分析、政策提言活動を行っている国内外NGO・市民として、ぜひ以下の点について公正な調査をお願いしたく存じます。

 

1、事業計画自体の妥当性

  • 半乾燥地帯における電力供給のための方法として、貴重な水を大量に使う水力発電事業は本当に適しているかどうかの指摘がある。また、この案件について日本企業進出を優先させるため、日本企業にとって有利な事業計画がなされているのではないかという指摘もあるが、それに関して十分な調査がなされているか。
  • 2000年11月16日に発表された世界ダム委員会最終報告書でも報告されている通り、大規模ダム建設の必要性や経済性についての検討が不十分であるとの批判は益々顕著となってきている。昨今の国内の事例を見ても、大型ダムによるとり返しのつかない生態系の破壊は川の上流下流に及び、ダム自体も数年間のうちに土砂の堆積で埋まる可能性が高く、流域に暮らす人々の生活文化に大きな影響を与えていることが明らかである。そのような中で、過去の事業計画を見直すことなく、事業を実施することに対して問題はないのか。
  • 事業計画が立てられた時期と比べ、ソンドゥ川水源である上流の森林地帯の伐採による水量の変化が起きているという報告があるが、事業計画の中にその事実に関して十分な調査は行われているか。
  • 地域住民への電力供給方法としての小規模水力発電所の建設や、工事実施に伴う保健衛生面での影響を防ぐための保健所の設置など、当初のソンドゥ川開発事業計画では含まれながら、実際に行われている本事業計画には含まれていないものがある。このような工事に伴う詳細な事業こそ重要であると考えるが、これらの事業計画について実施の予定のないままダム建設工事を進めることに問題はないのか。

2、住民への説明が不充分ではないか

  • 事業実施に伴う川の流量変化について、現地住民へ正確な情報が知らされていないという指摘がある。
  • 現地住民から地元への電力を求める声に対し、適切な説明がなされていないという指摘がある。実際には、発電された電力のほとんどが大都市へ直接供給され、地元住民が発電された電力を使えるようになるためには、変電設備のコストなどを自分たちが負担しなければならないことなどについて、十分な説明されていない。
  • 特に、取水堰から放水口までのソンドゥ側流域に住む住民に対し、事業実施による川や、現地の宗教的・文化的遺産である「オディノの滝」の枯渇について、十分な説明がなされていない。
  • 川の流量変化について川に生息する魚の遡上など、河川生態系に及ぼす影響について、十分な調査、住民への情報提供が行われているか。

3、補償問題

  • 事業予定地域に住む地元住民に対し、十分な補償が行われておらず、強制立ち退きが行われているという指摘があるが、その調査は行われているか。代替地において、地域社会を破壊することなく生活が行われるよう補償をすべきではないか。

4、工事実施に伴う労働条件に関する問題

  • 工事現場での労働組合の結成の禁止、著しく低い賃金体制、雇用機会の不均等など、労働条件においての問題が指摘されているが、これに関して十分な調査は行われているか。

5、汚職の問題

  • 土地への補償金支払いの際に、土地所有者の一部を借り手の名義でケニア電力会社が騙し取るという汚職が告発されているが、これに関して十分な調査は行われているか。
  • 雇用紹介の際に、ケニア電力公社が不当な仲介料を徴収しているという指摘があるが、これに関して十分な調査は行われているか。 

6、地元住民、NGOへの人権侵害

  • 2000年12月26日、NGOメンバーの一人、アーウィング・オデラ氏が許可なくプロジェクトサイトへ立ち入った不当な容疑をかけられ、暴行を受けた上に銃で撃たれて逮捕され、拷問を受け、1週間の間医師の手当てや家族との連絡を許されなかったという事件が起きている。また、現地住民による本事業について是非を問う集会開催に対し、事前に欠席を強制する脅迫や、集会開催への妨害、集会後の参加者への脅迫などが度々行われているという指摘がある。
  • 日本政府関係者、ケニア政府から地元住民・NGOに対し、事業の問題点を指摘しないようにとの脅しが行われているという複数の指摘があるが、これに関して事実関係の調査が十分な行われているか。

7、事業計画内容と受注業者決定過程に関する不透明性

  • 半乾燥地帯での流れ込み式水力発電という本事業計画自体の内容について、その分野での技術を持つ日本企業が受注・施工を使うことを前提にして、計画策定が行われたのではという指摘がある。
  • 交換公文締結は行われていないにも関わらず、第二期追加円借款供与に関して、すでに日本の詳細な受注業者が決定しているが、それに関し日本政府は、現地のケニア電力公社が勝手に進めたものであり、日本政府は関係していないと発言している。ODAの入札については、度々不透明性が指摘されているにも関わらず、交換公文締結以前に入札が行われていることについて問題はないか。

8、環境特別案件という位置付けへの疑問

  • 本案件第二期円借款供与は、環境特別案件として位置付けられているが、半乾燥地帯での水力発電事業が環境に良い影響を与えるということを証明する十分な調査が行われていないという指摘があり、その策定条件が不明瞭である。
  • また、環境特別案件の場合、すべて事業実施業者、備品を日本企業から調達するタイド援助となっているが、「ひも付き援助」を保証する抜け道となっているとの指摘がある。これらの指摘に十分答えられるだけの環境案件としての定義付けは行われているのか。
9、重債務貧困国への円借款供与について、十分な協議が行われているか
  • ケニアの延滞債権務は2000年11月のパリクラブでリスケジュール(債務繰り延べ)が決まったばかりであり、干ばつの影響により経済状況は悪化していると考えられる。また、ケニアは拡大HIPCイニシアティブ適用可能国であり、このプロジェクトのための新規円借款も帳消しされる可能性があるにも関わらず、その是非について日本政府の協議が不十分であると思われる。さらに、5年、10年後に削減リスケが実行される可能性も大きい。日本政府の方針として、円借款削減を検討している中で、国民の税金や財政投融資をこのような新規円借款に使うことは大きな問題ではないか。
  • ケニア国会は8月15日、汚職禁止法案を否決し、これによってIMFは融資を見合わせることとなった。そのような国にこのまま巨額の円借款を続けることは不正の温床とならないか。過去、インドネシアのスハルト政権やフィリピンのマルコス政権に対し、その使途が不明瞭でありながら日本政府が多額の援助を続けたことの二の舞となるのではないか。

 

 国会議員による質問趣意書への総理大臣の回答や、国会審議での政府回答では、特に上記4から7の問題に関しては、ケニアの国内問題であり、適切に処理がなされていると信用しているとの内容であるが、国民・納税者としてはそのような透明性のないプロジェクトへの巨額の出資はとうてい納得できるものではありません。

 以上9点に関し、本事業計画の見直し、修正も考慮に入れ、計画が進められるべきものと考えます。外務委員会調査議員団の皆様が誠意を持って現地調査を行い、本事業計画がケニアの自然環境、経済事情、社会状況に本当に適切であるのかどうかについて国民にその結果を広く公表され、追加円借款供与にあたっての慎重な協議が行われるよう望みます。

 

以上

 

債務と貧困を考えるジュビリー九州
807-0052福岡県遠賀郡水巻町下二西3-7-16
TEL/FAX 093-244-0284

地球の友ジャパン
〒171-0031東京都豊島区目白3−17−24−2F
TEL 03-3951-1081 FAX03-3951-1084

メコン・ウォッチ
110-8605 東京都台東区東上野1-20-6 丸幸ビル5F
TEL
 03-3832-5034 FAX:03-5818-0520 


【賛同団体】

アジア開発銀行(ADB)福岡NGOフォーラム(FNA
アイヌとシサムのウコチャランケを実現させる会
国際民衆保健協議会(IPHC)日本連絡事務所
ODA改革ネットワーク

A SEED JAPAN
水資源開発問題全国連絡会
相模川キャンプインシンポジウム
APECモニターNGOネットワーク(AMネット)
NGO地球風
リバーズ!ジャパン

【賛同個人】

浜本 啓一(写真の会パトローネ)
竹田 登
柴田 一裕(写真の会パトローネ)
山口 勲
吉村 敬二
豊田 幸治(アジア共同行動)
中本 健一
緒方 貴穂
佐藤 厚子
豊福 正人
豊福 宏子
青柳 行信(カトリック福岡正義と平和協議会)
三浦 哲史(アジア共同行動)
小田 隆夫(写真の会パトローネ)
山崎 民江
安部 妙子
真崎 良幸
柳井 統一朗(高校生)
船田 洋(写真の会パトローネ)
池田 益美(カメラマン)
川井 章司
岩下 均(自由業)
ペ 東録(会社員)
姜 金順
山口 哲夫
伊藤 莞爾(写真の会パトローネ)
吉田 和夫
矢野 隆志
見口 要
岩崎 裕次
竹本 啓太
木下 智昭
吉村 孝
藤波 元康
岡村 盛人
岡村 良嬉
鄭寄 鎔
神戸 俊平(神戸俊平とアフリカ友の会)
吾郷 健二(西南学院大学経済学部教授、アジア開発銀行福岡
NGOフォーラム)
細川 弘明(京都精華大学環境社会学科教授)
小林 聡(ジュビリー関西ネットワーク)
尾関 葉子(ジンバブウェ在)
藤井 大輔(
e-fukuoka network、九州大学)
柴山 恭子
西井 和裕(フィリピン情報センター・ナゴヤ(NCPC))
葛葉 むつみ(フェアトレードくらぶ金沢)
斉藤 龍一郎(アフリカ日本協議会)
藤本 佳奈子
藤本 隆夫
藤本 健
藤本 百代
小澤 陽祐(NGOナマケモノ倶楽部)

大塚 照代(債務と貧困ネットワーク)
星川 淳(作家、屋久島環境政策研究所)
有園 正俊(日本環境学会会員、地球の友ジャパン会員)
北 博(百人町教会)
白岩 佳子(ウぺポ耶馬渓)
山口 敏治
宇治野 誠(熊本学園大学学生)
神田 浩史(ODA改革ネットワーク/APECモニター
NGOネットワーク)
横川 芳江(特定非営利活動団体 地球の木)
栗田 英幸
関 良基(早稲田大学アジア太平洋研究センター助手)
安東 尚美(京都府、流域調整室主宰)
川村 暁雄(神戸女学院大学文学部教員)
荻野 洋子(日本国際ボランティアセンター(JVC)職員)
寺尾 光身(名古屋工業大学元教員)
安田 節子(食政策センター”ビジョン21”主宰 )
橋本 久雄(市民自治こだいら)
兼崎 暉
廣田 裕之
上田 佳央(持続・未来資料室)
山本 源一
安部 竜一郎
Hideyuki Kurita
尾形 修一
真野 京子
戸田 清(長崎大学環境科学部助教授)
南 恵(自然エネルギー推進市民フォーラム)
田村 ゆかり
吉田 有里子(
JVCアフリカボランティアチーム)
松下 照幸(福井県美浜町議会議員)
相原 太郎(なごや自由学校)
武田 貞彦(前新潟県議会議員)
瀧澤 勇人(仙台国際協力フェア実行委員会代表、NGOネットワーク代表)
高橋 忠久(T
..C(The Earth Communications))
馬場 健一郎(ナマケモノ倶楽部)
田中 徹二(
ATTAC日本設立準備会事務局)
松清 紀子
岡野内 正(法政大学社会学部教授)
中原 玲子(市民オンブズ・佐賀)
茂住 衛(アフリカ日本協議会会員)
野木 美早子
吉岡 きよみ
田中 優(グループ
KIKI
村田 久(北九州かわら版)
徳井 俊之

 

以上            
呼びかけ団体  3団体   
賛同団体   10団体   
賛同個人    97名   

   
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