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Vol.27 (05 December 2005)
国連地球温暖化対策交渉の新ラウンド始まる

 カナダのモントリオールで11月28日から12月9日まで国連気候変動枠組条約の第11回会合が始まりました。この会合は2月に発効した京都議定書の第一回会合でもあり、同議定書ではこの会合をもって2012年以降の国際温暖化対策の次のステップの為の政府間交渉を始めるものと定めています。世界は新交渉ラウンドの基調を成すであろうこの会議の行方に大きな注目を寄せており、条約事務局は97年の京都会議を上回る規模の参加者となるものと見ています。これまで交渉をリードしてきたトイツの先月の政権交代や議定書への懸念を表明した現EU議長国のブレアー英首相、また陰で大きな力となっていたヨーコハンター条約事務局長の逝去に加え、会議初日に議長国カナダの国会が内閣不信任案を可決する等、国際交渉のリーダーシップに波乱が出る一方、次期国際目標の設定に強硬に反対する米国はこれまでにない意気込みでこの会合に臨んでいることが会合開始早々の発言にも明らかに現れています。この会合の正否に政権の行方を委ねた形のディオン加環境相の手腕も結果に大きな影響を与えることでしょう。

■京都議定書実施文書、採択さる

京都議定書の運用を定めた2001年のマラケシ合意に関する19の決定がモントリオール会合三日目、議定書を批准していない為採決権のない米豪が見守るなか全会一致で採択されました。これにより議定書義務不履行時課される結果の法的位置づけ以外、先進国の排出量目録の整備から国際排出量取引制度立ち上げまでの全ての制度が正式に確立された訳です。京都議定書第一回会合の冒頭で議定書採択から8年の困難な国際交渉を重ねた結果がやっと実った瞬間ですが、採択はむしろ淡々と進められました。議定書下の最初の排出量削減目標が終わる2012年以降の議定書の不透明な将来を暗示するかのようです。

議定書ではまた、議定書義務不履行時遵守委員会の強制執行部により課される決定に法的強制力を持たせる為には議定書を改正しなければならないとしています。マラケシでの合意時環境団体のみならず殆どの政府が望み、日露の強い反対により発効後の最初の会合まで決定を持ち越されたのがこの議定書の法的強制力の問題です。その後の状況の変化を受け今会合では殆どの国が、改正を先送りにし法的強制力は無いが、実施義務を怠ったと見なされる国が課される罰則に異議を唱えることをほぼ不可能とするコンセンサスによる決定を今議定書会合で図ろうとしています。これは改正すれば各国は再度批准せねばならず2008年の議定書実施にも間に合わなくなると見られるからです。これを逆手に取って今会合での改正を提案しているサウジアラビアは強引に途上国グループをまとめようとして同グループ内で強い反発を買っているともいわれ、議定書会合初日の作業部会では、サウジ同様孤立しているにも拘らず、依然いかなる議定書改正論にも反対する日本との間で激しいやり取りとなる一幕がありました。最終的には改正により法的根拠のある拘束力を持つべきですが、それには時間がかかりそのタイミングが次期目標の議論と重なる為、新交渉ラウンドにも影響を与える要素となります。もし各国がこの非遵守での合意に達せなかった場合、2008年を待たずに議定書の命運がつきることにもなりかねないとして、FoEを含め約500の環境団体で構成されるCANは各国に今会合でコンンセンサスで早急な決定を図るよう求めています。


FOE インターナショナルは欧州を中心に3000を超える市民から政府へのメッセージを絵や文字でボードに書いたモザイクを会場に隣接した公園に設置し、モントリオール会議が成功するようカナダ政府代表に伝えました。

■ついに本格化した新交渉ラウンド

 京都議定書は先進国の温室ガス排出総量を1990年水準から2012年までに約5%削減することを義務付けています。極地の急速な温暖化や史上初の南半球でのハリケーン出現等、科学者は温暖化の進行が現在予測されているより早くかつ急速に進んでいるのではないかという懸念を強めています。そのような温暖化をさける為には地球全体で5割から7割といった排出量削減が必要となりますが、CANは2020年前後をピークに地球全体での排出量を減らしてゆくことを可能にするよう求めています。その為には先進国だけでなく排出量の急成長している中国他途上国の排出抑制・削減が不可欠なことは明らかです。次期国際温暖化対策ではこれら途上国の新規義務への道が開かれることが、先進国側の更なる排出量削減の一つの条件となっています。会議初日ディオン議長は16の各国との非公式会合をこなしたと言われ、4日目には二回目の非公式会合で具体的な新提案とともに30ヶ国との非公式円卓会合を行いました。第二週半ばの閣僚会合までに本格的なたたき台となる議長提案が出されると言われます。

現状のカナダ提案は基本的に二つの交渉プロセス、4つの重点が柱となっています。

○京都議定書3条9項は付属書Bに定める先進国の次期削減目標の交渉を今会合から始める旨定めており木曜夜には初めての作業部会会合が開かれ途上国グループと日欧の三提案がテーブルに載せられました。議定書9条2項は来年の第二回議定書会合で議定書及び条約のもとで更に何が必要かレビューを行う旨を定めており、日欧二提案はこの項目を引用し2012年後の排出量に関する義務に大口排出途上国を加える道を開きたいと考えています。これに対し途上国は今すぐに将来目標の交渉を始めるべきとしつつも、京都議定書を生み出した交渉プロセス、95年のベルリンマンデートを引用しこれを拒否しています(ベルリンマンデートは途上国に新規の義務を課さないという条件で合意されました)。

○ディオン議長及び各国は議定書3条4項プロセスと同時に条約下での将来目標交渉を設けるという平行交渉を提案しています。これは議定書の下で米豪不在の先進国のみの削減目標強化では納得せず、途上国も議定書即排出量削減義務と考え交渉テーブルにつかないのではと見られているからです。しかしながら米政権は今会合直前にワシントンで次期交渉プロセス開始につながる条約決議に反対する旨を明らかにしました。FoEインターナショナルを含む国際環境NGOの連合である気候行動ネットワーク(CAN)は米の入った条約プロセスでは市場メカニズムの将来を含め意義ある合意につながらないとして、むしろ議定書の内容を拡充強化しより包括的な国際温暖化対策につながるような交渉を求めています。

○京都議定書は先進国間の排出量取引、共同実施プロジェクト制度と先進国が途上国にプロジェクト投資して削減排出量を得るクリーン開発メカニズム(CDM)の市場メカニズムを導入しました。CDMは既に制度が確立され最初のプロジェクトが認証されたばかりです。CDMの下ではCDM排出削減クレジットに課される2%の課徴金によって運用され、懸念される途上国の増大する温暖化の影響への対策資金となるべき適応基金が設けられました。議定書発効により運用方針が協議される同基金は、その規模に於いてもこれまでの先進国の自主拠出による他の基金とは大きく異なります。途上国はCDMの第一約束期間より後の存続を担保することを求めていますが、日欧は途上国が自らの排出量について将来義務を認めない限り先進国のみでの次期削減義務は受け入れられないとしており、京都市場メカニズムの将来は重要な項目の一角に浮上しています。

○昨年ブエノスアイレスのCOP10では、徹夜の交渉の末、温暖化の影響への適応のための行動計画が採択され、条約の下で5年間の行動計画の内容を詰める交渉が行われています。既に被害が広がっておりそれへの対応を十分できない後発開発途上国や南太平洋諸国への緊急な援助を実施に移すことが不可欠なのですが、途上国グループ内の中国等大国の思惑、今後の被害拡大に伴う拠出金増大を懸念する先進国側、その先進国での対策による原油輸出減を補償するよう求めている産油国の思惑が絡み合い、94年の条約発効以来具体的な事業実施ができずにきました。途上国はこの適応行動計画への資金拠出も含めた先進国側の対応を日欧がどれほど国際温暖化対策の強化に真剣なのかを図るバロメーターと考えており、議長国カナダはモントリオール会議での5ヶ年計画合意を次期目標開始で途上国からの合意を取り付けるに不可欠な要素と見ています。

 ディオン議長の下で包括的に進められている次期目標策定の為の交渉は表に出ない非公式なプロセスとして第一周を通じ続けられました。各国の様々な見解を吸い上げたディオン加大臣と議長団は二週目に入りいよいよ議長としての具体案をテーブルに載せようとしています。2012年の後の世界の温暖化対策を定めるであろう交渉がどのような形で始まるかは、カナダのリーダーシップにかかっています。

 厳しい冬の始まりを見せる寒さの中、ケベック州を中心とした四万人のカナダ市民が週末の12月3日、各国政府に議定書の将来を守り更なる行動を求めて会場周辺をマーチしました。世界の熱い視線が今モントリオールに向けられています。

お問い合せ:気候変動プログラム・小野寺ゆうり
Email:energy@foejapan.org
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