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サンロケダム
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地元の農民団体の 「アグノ川統合灌漑事業(サンロケ灌漑部門)に関するポジション・ペーパー」
2003年12月8日(フィリピン灌漑庁受取日)
2003年12月9日(日本・外務大臣、財務大臣、経済産業大臣および国際協力銀行総裁への提出日)


人々に役立つ灌漑事業を求める農民の要求を検討するよう
フィリピン国家灌漑庁および他政府機関へ呼びかける要望書
(パンガシナン州の灌漑のニーズに関するポジション・ペーパー)


アグノ川の自由な流れを取り戻す農民運動(TIMMAWA)は、アグノ川の上下流沿いでサンロケ多目的ダム事業の影響を受けている農民の連合体である。TIMMAWAは提携団体・個人とともに、人々に恩恵をもたらす灌漑事業と人々の環境・生活・生計手段に悪影響を及ぼさない灌漑を求めている。このポジション・ペーパーは、パンガシナン州で実施されるいかなる灌漑事業についてもガイド(指針)として役立つだろう。

1.サンロケダムに関連した未解決の問題を解決する必要性

サンロケ多目的ダム事業は発電を目的としており、サンロケパワー社、また、政府機関であるフィリピン電力公社によって管理されていると聞いている。また、同事業には、公共事業高速道路省(DPWH)および国家灌漑庁(NIA)といった政府機関が各々管理することになっている洪水制御と灌漑部門も含まれている。現在、サンロケダムの発電部門については商業運転がなされており、灌漑や洪水制御など、同ダムに関連したその他の部門についても(反対を押し切って)推進されようとしている。

サンロケダムは、同事業に関連した未解決の問題があるにもかかわらず、2003年5月に(発電部門の)商業運転を開始し、同事業に関連するその他の部門についても継続している。あげられている主な問題点のいくつかは以下のようなものである。

  a. (サンロケダムによる)影響を直接的・間接的に受けている人々の環境・生計手段・生活保障に(将来にわたって)及ぶ可能性のある長期的な悪影響について、パンガシナン州およびベンゲット州において、徹底的に話し合う協議の場が欠如している。サンロケダムは3つの断層に近いところに立地しており、地震がこの断層で起こった場合、ダムに深刻な影響を及ぼす可能性があるほか、特に下流域の人々の生命を危険にさらすことにもなる。

  b. 何千ヘクタールもの農地がダム建設によって収用された結果、大勢の農民や人々が生計手段を喪失した。何千人もの砂金採取者が生計手段を依存していた砂金採りの活動も、ダム建設時によってできなくなってしまった。しかし、生計手段を失った農民や砂金採取者らは依然として補償を受け取っていない。現在、そうした影響を受けた人々は貧困の中で生活を送っており、彼らが失った以前の生計手段に代わる持続的な生計手段を依然待ち望んでいる状態だ。

  c. サンロケダムは明確な洪水制御部門の計画を持たないまま運用されている。このダムは、パンガシナン州で今年破壊的な洪水が起き、広範囲にわたる農地や資産に損害が及ぶこととなった原因の一つとして多くの人々から非難されている。

  d. 東南アジア最大と声高に謳われたダムが造られた結果、ダム建設現場、貯水池、またその他のダム関連施設への土地利用の転換によって、広範囲にわたる肥沃な農地と森林が失われた。この大きなダムは、真の土地改革の実施や農地の改善をもたらすものではなく、それ自体、農民から土地を奪う手段となったのである。現在、影響を受けている地域社会の人々は、食糧安全保障の問題にぶつかっている。

TIMMAWAとその提携団体・個人および地域社会は、サンロケダムが人々によい影響をもたらしているとは考えていない。したがって、TIMMAWAはダムの商業運転の中止、また、ダムの撤去、損害を受けた土地の修復を求める。また、上述した問題が解決されない限り、灌漑部門といったダムに関連するいかなる事業の推進も許容できない。


2.サンロケダムと関連しない灌漑の必要性

TIMMAWAは、直接的にせよ間接的にせよ同ダムに関連するいかなる灌漑も能率的なものではないと考える。それどころか、そうした灌漑は人々の土地や生計手段を一層破壊し、生活を脅かしさえするだろう。

パンガシナン州の人々には、アグノ川上流に位置するアンブクラオダムとビンガダムの経験がある。それらのダムから放水がある場合、パンガシナン州の人々はほんの少雨の時でさえ洪水を経験してきた。アグノ川上流で行なわれている鉱山活動が原因で、ダムの貯水池に多くの土砂が堆積しているためだ。サンロケダムと関連した灌漑事業を推進すれば、まさに今年台風が来た際に、サンロケダムの貯水池からも放水せざるを得ず、その結果、アグノ川の増水を招いたように、サンロケダムから放水され制御できなくなった雨水が、農地や商業地に洪水を起こすことは明らかだ。

他にもアグノ川上流で行なわれている鉱山活動のため、川への土砂堆積や汚染のレベルが問題となる。つまり、農地へ流れ込む水の水質に影響を及ぼす可能性があるということだ。土砂堆積や鉱屑がサンロケダムにつながる灌漑を通って農地へ流れていく可能性がある。さらに、サンロケダムを通って流れてくる灌漑用水の水質は化学物質や重金属を含んでおり、それは人体にも有害の恐れがあり、穀物やその他の農作物の収穫にも影響があることは明らかだ。ダムを通って流れてくる水の水質は、灌漑用水源としてよいとは言えないだろう。


3.いかなる灌漑事業においても必要とされる民主的な協議プロセス

地域社会や個人の健康状態や生計手段、環境に、直接的にせよ間接的にせよ、大きな影響を及ぼす事業であれば、その影響を受ける人々が協議を受け、重要な意思形成に参加することは彼らの権利である。したがって、いかなる灌漑事業であっても、特に、直接影響を受ける地域社会や個人に対しては、民主的かつ効率的で、十分な協議のプロセスが実施されなくてはならない。以下、そうした協議プロセスに関するTIMMAWAの要求を示したい。

  a. 協議のプロセスが互いの合意のもとで決定されるべき。あらゆる協議プロセスはすべてのステークホルダー、影響を受ける地域社会、事業に関する専門家、関係するNGOの共通の合意のもとで決定されなくてはならない。

  b. 入手可能な情報や必要とされる文書すべてが、協議が行なわれる前であっても、あらゆる関係者に公開されるべき。協議を受ける関係者は全員、会合の協議事項について知らされるべきで、話し合われる文書や参考資料のコピーは事前に提供されなくてはならない。

  c. 関係者が事業の実行可能性を調査、もしくは、評価するのに極めて重要な情報の透明性と説明責任を確保すべき。

  d. 事業を独立的な見地から評価できる第三者グループ/組織を互いの合意のもとで選出し、取り入れるべき。

  e. 協議や評価の準備のために十分な時間が確保されるべき。

  f. 事業の各段階において協議が継続的に行なわれるべき。

  g. 協議や提言の結果は事業の実施計画に反映されるべき。

民主的な協議プロセスとともに、事業の契約や財政状態について透明性が確保されるべきである。また、よく見られる実施機関にまつわる汚職慣行を回避するための措置についても、協議プロセスに関する協議事項とされるべきである。


4.必要とされる灌漑

まず第一に、現在提案されているARIIP(アグノ川統合灌漑事業:旧称サンロケ多目的ダム事業灌漑部門)のような大規模なレベルの灌漑事業計画は、農民らに恩恵をもたらす保障がないため、TIMMAWAは反対する。つりあげられているARIIPのコストとは裏腹に、かなりの部分の土地がこの事業の実施によって使用され、荒廃することだろう。ARIIPの事業計画では、推測幅40-60メートル、深さ15メートルの人口水路が提案されている。もし灌漑の目的でこの事業があるならば、このような事業は必要ない。サンロケダム事業のように、何ヘクタールにもわたるかなり広大な農地と生計手段がまた、大規模な事業によって使い尽くされてしまうだろう。そして、それにもかかわらず、土地の生産性や農民に対する持続的な恩恵はもたらされることはないだろう。

TIMMAWAは依然、ARIIPがサンロケダムの洪水制御部門であるにもかかわらず、推進派が灌漑のための事業だとして、農民の支持を得ようとしているのではないかとの疑念を抱いている。仮に部分的にせよ全体的にせよ、この事業がダムの洪水制御のためであるとすれば、上述したような巨大ダムによる未解決の問題から、広範囲にわたる被害と損害が出る可能性があるとして、同事業の承認を躊躇する組織や人々が出てくるだろう。直接的にせよ、間接的にせよサンロケダムに関連した灌漑事業は、明らかに有害な影響をもたらすだろう。というのは、もしダムに何かが起こった場合、あるいは、ダムが放水した場合に、洪水が農地を襲う危険性を伴っているからだ。

国内における灌漑事業の過去の事例を見ても、大規模レベルの事業はどれも成功談とみなすことはできない。たとえば、米の穀倉地帯である隣のヌエバ・エシハ州にはパンタバンガンダム、カセクナンダムという巨大ダムがあるが、これらのダムは夏季/乾季に農地を灌漑できないことで評判だ。先の夏季(2003年)も、ヌエバ・エシハ州の巨大ダムはどちらも州内の農地を灌漑することができず、その結果、特に米作農家にかなりの損失を与えることとなった。サンロケダムのような大型ダムは、灌漑用水が貴重とされる夏季の間に農地を灌漑できるのか疑問が残る。というのは、十分な発電機能を発揮させる目的で、(貯水池の)水位を高く保つため、貯水を優先することになるからだ。他方、雨季になると、この巨大ダムはそれほど大きな働きをするわけではない。というのは、田畑に貯まる雨だけで農民のニーズを満たすことができるからだ。

以上から、TIMMAWAは、灌漑用地への顕著なプラスの影響がない大規模レベルの灌漑事業を承認もしないし、支持もしない。中部ルソンの農民の要求は、人々に真の恩恵をもたらす灌漑を築くことであり、それは必ずしも海外の融資機関に多額の借金を負うような巨大事業である必要性はない。以下に掲げるのは、パンガシナン州において今後行なわれる灌漑事業のためのガイドライン/提言である。

  a. 無税の灌漑−新しく造られる灌漑に対して、NIAはどんな納入金も手数料も税金も徴収しないこと。これは、NIAが灌漑利用の代償として、農民に収穫の一部を支払いに回させていたこれまでのやり方とは異なる。これまでのNIAの体制では農民の生活手段の支援になるどころか、貧困を悪化させてしまう。

  b. NIAの押し付け農業(Imposed Planting Calendar)はいらない−田植え時期や栽培する作物の種類を押し付けられる(NIAの)枠組みに農民が従う必要はない。そのような押し付けは、農業における(事前の)投入物や収穫物の価格変動のため、これまで農民に多大な損失をもたらしてきた。事業者が考えなくてはならない一つの要素は、作物を植える必要があるときにいつでも、水の絶え間ない流れを確保することだ。

  c. 小さい灌漑用ダムの建設と共同社会灌漑システム(CIS)の発展−国内における農業と灌漑の過去の事例をみると、農民は共同社会灌漑システム(CIS)を通じて自分たち自身の灌漑システムを造ることで、彼ら自身が助け合うことにおいて、極めて重要な役割を果たしている。小さい灌漑用ダムの建設とCISを発展させることは、特定地域の灌漑を向上させるのによいステップになるだろう。

  d. 既存の水路の修復と小さい水路群の建設−ARIS(アグノ川水系灌漑システム)、ADRIS(アンバイオン川水系灌漑システム)、LARIS(下流アグノ川水系灌漑システム)といった既存の灌漑システムが十分に機能していない主な理由に、アグノ川上流から運ばれてくる堆積の存在がある。これらの既存の灌漑システムの修復と灌漑用水を田畑へと流れるようにする小さい水路群の建設は、灌漑を改善する有効な手段となるだろう。

  e. 効率的な灌漑を実現するために他の代替源がないか検討し調査する必要性

     a. パンガシナン州のさまざまな地域、特に河川系の近くに見られる天然の湧き水(bukal, tabon)の利用を改善すること。現在でも、CISの農民らのなかに、湧き水を水源として利用し、年中彼らの土地を灌漑している者たちがいる。

     b. 灌漑用の水ポンプを使用すること。ポンプを通って勢いよく出てくる水は代替の灌漑案として、特に河川系の近くでは有効だ。水ポンプを使用すれば、川や小さい灌漑用ダムから水を必要とする田畑まで、水をくみ上げ運ぶこともできる。

     c. 山々にある小川や湧き水から「自由に流れる」灌漑パイプの建設。この灌漑システムは現在、国内の別の場所で利用されており、山々に近い平野を灌漑できる。


このポジション・ペーパーは、灌漑のニーズについて農民の要求を検討し、他方で、農民や住民の生活/生計手段の真の向上を保障することのない大規模な灌漑事業を継続することがないようNIAに求める要望書である。  
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