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サンロケダム
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概要と現在の問題点(2002年11月版)
2002年11月1日

国際環境NGO FoE Japan


San Roque Multipurpose Project

フィリピン:サンロケ多目的プロジェクト


●プロジェクトの概要と日本の関わり

 フィリピンのルソン島北部を流れるアグノ川で、アジアでも最大級の規模を誇る巨大ダム「サンロケ多目的ダム」の建設が進んでいる。ダムの主要な目的には345MWの水力発電が掲げられており、鉱山採掘や輸出農業、輸出工業、観光業等の経済開発を推進しようとするフィリピンの国家最優先プロジェクトとなっている。水力発電のほかには、下流に広がるパンガシナン平野70,800haの灌漑、また洪水の制御等の役割が期待されている。

プロジェクト概要  

 プロジェクトを実施するサンロケパワー社(SRPC)は、総合商社の丸紅(出資比率42.45%)、アメリカのサイスエナジー社(50.05%)、そして関西電力(7.5%)が共同出資してつくった現地法人である。25年間にわたって発電事業をおこない、一定量の電力をフィリピンの国営企業であるフィリピン電力公社(NPC)に卸し売りする(電力購買契約)。
 事業費の大半は、特殊法人である国際協力銀行(当時の日本輸出入銀行)からの融資で賄われており、1998年10月には同プロジェクトの発電部門に民間金融機関との協調融資 で約5億ドルの融資が行なわれた。その後、調査が不十分であったことが判明し、融資は一時凍結されたが、1999年9月にはダム部門への4億ドルの追加融資が決定された。これまでに工事全体の98%が終了している。   お金の流れ
●これまでの経緯(略年表)

年月日   事項
1974頃〜 当時マルコス政権 サンロケダムの建設計画を模索
1983.3.〜 中曽根政権 ODAによる資金拠出を検討
1983.7.〜 国際協力事業団(JICA) サンロケダムの実行可能性調査について追加調査(水文分野)を開始(85年に最終報告書を提出)
1984.3.および8. 国会 サンロケダムに関する中曽根−マルコス疑惑を追及
1984.4. 中曽根政権 サンロケダム事業へのODA拠出見送り
1986.3〜5.および1987.5. 国会 サンロケダムに関する中曽根−マルコス疑惑を追及

1996. SSIPM(サンタナイ先住民族運動) 設立、先住民族によるサンロケダムの建設反対運動を展開
1997.10.11 NPC−SRPC 電力購買契約の締結
1997.10.29   先住民族権利法の制定(2週間後に発効)
1998.2. フィリピン環境天然資源省(DENR) 環境応諾証明書(ECC)を発行
1998.2. SRPC 工事着工(サンロケの家屋取り壊し開始)
1998.10.27. 旧輸銀→SRPC 約5億ドルの投資金融融資承認(旧輸銀・日本民間銀行団(東京三菱、富士、住友、住友信託、農林中金、さくら、三和)による協調融資)
1999.1. イトゴン町評議会 17つの条件のもと、プロジェクトを支持
1999.1. 旧輸銀 外部専門家を含んだ調査団をフィリピンに派遣
1999.2. 旧輸銀 融資の一時停止
1999.3.   上流部での社会環境調査終了
上流部の立ち退き世帯が61世帯に増加
1999.9.22. 旧輸銀→NPC 融資再開
4億ドルのアンタイドローンを承認
2000.5.31. フィリピン上院 電力購買契約の再検討を促す決議採択
2000.9. イトゴン町評議会 プロジェクト支持を撤回する決議を可決(市長拒否権発動)
2000.10. サン・ニコラス町評議会 プロジェクト支持を撤回する決議を可決(市長拒否権発動)
2001.1. イトゴン町評議会 プロジェクト支持を撤回する決議を再度可決
2001.3. TIMMAWA(下流の農民組織) 設立、ダム建設下流の反対運動が活発化
2001.6. フィリピン先住民族委員会調査チーム プロジェクトに対する先住民族の事前合意の有無についてイトゴン町で調査
報告書を提出
2001.7. NPC、SRPC アグノ川下流沿いでの砂金採取を本格的に禁止
2001.10. 日本政府 サンロケダム灌漑部門へのODA拠出を見送り
2002.8.8. SRPC、NPC ダム湖への貯水を開始
2002.11.   建設工事は約98%まで完了
2003.1.   完工、商業運転開始予定
● 現状と問題解決の緊急性

 現在、サンロケダムの建設工事は約98%まで完了しており、国際協力銀行の融資も残すところ約10%となっている。事業者は今年の8月、ダム湖への貯水を開始。2003年1月の商業運転開始を目標に、着々とプロジェクトを進めている。一方で、ダムの計画がもちあがった1995年からダムの建設に反対してきた先住民族、また、立ち退きなどによって苦しい生活を強いられている住民らの懸念は、これまで一向に解消されてきていない。

 危機感を募らせた住民側は、ダムの操業中止および実質的な問題解決を事業者に求めるとともに、残りの融資を行なわないよう国際協力銀行に要求。現地の反対運動も一層激しさを増している。
  大使館前の抗議活動
 マニラの日本大使館前での住民の抗議活動(2002年9月)
アグノ川流域のダム   ● プロジェクトの問題点

1.サンロケダム建設地の上流域に住む先住民族の懸念

◆先住民族の合意の欠如と先住民族権利法違反の問題

 ダム上流域のイトゴン町ダルピリップ村に暮らす先住イバロイ民族は、計画が明らかになった1995年当初から土砂堆積等によって川沿いの村が土砂に埋まってしまうことを懸念。プロジェクト反対の姿勢を明らかにしてきた。すでに上流の2つのダムにより 、イバロイ民族の村が土砂に埋まってしまった経験をもつからだ。これは、サンロケダムの建設がフィリピンの国内法『先住民族権利法(IPRA)』に違反して進められている疑いがあることを意味する。
 この法律は、先住民族の地域社会へ悪影響をもたらすプロジェクトから先住民族を保護することを明記。プロジェクトが先住民族の地域社会に影響を与える場合、その地域社会が「@自由な選択権をもち、A十分な情報を与えられた上で、B事前に」合意することをプロジェクト実施の条件としている。また、この要件が満たされない場合、先住民族委員会(NCIP)がプロジェクトを中止する権限を認めている。
 イトゴン町の先住民族らは、IPRAの要請する「合意」なしにプロジェクトが進められていることを指摘し、NCIPにサンロケダムの建設を中止する権利を行使するよう訴え続けている 。2001年6月には、NCIPの調査チームが、「ダム事業の着工以前に必要とされている、影響を受ける先住民族の事前合意はなかった」と記した報告書を提出している。今後、この違法性の問題はフィリピンの最高裁に問われる予定となっている。
◆自治体の合意の欠如と地方自治法違反の問題

 ベンゲット州は、ダム貯水池の予定地に含まれているため、明らかにプロジェクトの影響を受けることになるが、1999年4月の州議会決議においてプロジェクトへの反対姿勢を明らかにした。現在もプロジェクトの承認決議を可決していない状況が続いている。
 イトゴン町は、建設工事がすでに始まってしまい、事業を止めることは不可能だろうと考えたため、1999年1月、上流の先住民族の生活に被害を与えないことを条件(「17つの条件」を提示)にプロジェクトに合意した。しかし、2000年9月、イトゴン町評議会は事業者がこの条件を満たしていないことを理由に、プロジェクトの承認を撤回する決議を行なった。この決議は一度、町長により拒否権が発動されたが、翌2001年1月、評議会は再度その承認の撤回決議を行なっている。また、同町評議会は2002年1月にも、17つの条件の遵守状況について評価を行ない、依然として条件が満たされていない状況を明らかにし、事業者に条件を遵守するよう求めている。
 以上のことは、いかなる政府事業であっても、影響を受ける当該地方自治体の支持が必要であると定めたフィリピンの国内法『地方自治法(LGC)』にサンロケダムの建設が違反していることを意味する。今後、この違法性の問題はフィリピンの最高裁に問われる予定となっている。
2.サンロケダム建設地とその下流域の人々への影響

 プロジェクトによって立ち退きを迫られた人々は約781世帯 にのぼり、すでに全世帯が移転を完了。この非自発的移転住民に加え、@アグノ川沿いで砂金採取をしてきた住民、Aプロジェクト用地に土地を所有していた住民、Bプロジェクトの影響による農業用水の不足を訴える住民――等がプロジェクトにより生計手段を失い、現在、生活難に直面している。本来、プロジェクトによって改善されるべき住民の生活水準は、以前の水準の維持すらできていないのが現状だ。
  サンロケダムと貯水池
 サンロケダム(左後方)と貯水池(2002年9月)
カマンガアン再定住地
 売却され、今は誰も住んでいないカマンガン再定住地の家(2002年9月)

灌漑用水路
 1998年にダム建設が始まって以来、水が来なくなったという採石場近くの灌漑用水路の跡(2002年9月)

荒野
 採石場近くの荒野。ダム建設が始まる前は農地だったという(2002年9月)
  ◆砂金採取の喪失とその補償・代替の生計手段の欠如

 アグノ川流域はフィリピンの中でも有数の砂金採取場であり、それは流域住民の貴重な現金収入源であった。しかし、サンロケダムの建設により下流で砂金採りができなくなってしまうことは住民に適切に伝えられてこなかった。
 砂金採取者のダム反対の声は2001年から強まり、砂金採りの禁止によりこれまでに受けた損失の金銭補償と砂金採取の継続を求め、これまで数度にわたり要望書が提出されている 。
 しかし、この重要な現金収入の手段であった砂金採取に対する事業者の評価は低く、現在のところ、金銭補償についてはまったく考えられていない。また、2001年に、砂金採取を補償対象とし、生活再建プロジェクトを提供することを決めた事業者だが、その対象者は最小限の砂金採取者に限定されており 、また、喪失した現金収入分を代替するような有効かつ持続性を備えた生活再建プロジェクトは提供されていない。

◆生活再建計画の不備

 生計手段を失った人々は今、新たな生計手段を必要としている。しかし、事業者の提供している生活再建プロジェクト(養豚など)や技術支援(キノコ栽培やキルト作りなど)では、生活に最低限必要な収入も得ることはできない。また、生活再建プロジェクトは貸付け形式となっているため、参加した住民がその貸付を返済できないケースも出ている。これらの生活再建計画の有効性および持続性に疑問をもつ住民は多く、事業者の生活再建プロジェクトへの参加自体を拒否している住民も多くいる。
 このような生活再建プロジェクトの不備は、住民・NGOにより再三指摘されてきたが、事業者による適切な対応は何ら取られていない。その結果、カマンガアン再定住地では、約180世帯のうち、すでに約30世帯の人々が生計を立てられず、家を売却、また、約30世帯の人々が家をレンタルで他人に貸し出し、再定住地を後にしている。

◆灌漑用水の不足

 農地がプロジェクト用地として買収された人々とは別に、工事の始まった1998年以来、灌漑用水の不足のため、収穫のできなくなった農家や収穫期・収穫量の減少した農家が多発している(多くは水稲作)。
 事業者は、ダムの建築資材を用立てるためにアグノ川沿いの広範囲で採石作業を行なったが、住民は、この露天掘りの掘削作業がところによって深さ15m近くにまで及んだために水位が下がり、灌漑地まで水が上がってこなくなったことを指摘。また、2001年の洪水により採石場に位置していた既存の灌漑用ダムが崩壊し、サン・マニュエル町を中心とした多くの農家が水不足に苦しんでいるが、この灌漑用ダムの周辺で行なわれた採石がダムの崩壊の一因としてあげられている。その他、2002年8月に貯水が開始されて以来、アグノ川自体の流水量が減少し、灌漑用水が不足しているとの苦情も出されている。
 このようにプロジェクトが原因となって引き起こされた苦情については、現地の苦情処理機関 が客観的科学調査の上、適正な補償を支払うことになっているが、これまで適切な問題解決は図られていない。
◆補償の適正評価と支払い手続きの不備

 プロジェクトの影響を受ける人々は、新しい生活を始めるための十分な補償を必要としている。そのためには、彼らの被る損害額が適正に評価されなければならない。しかし、事業者の補償額の査定に対しては、補償価格の設定における過小評価、補償額の下方修正、調査時期の不適切な選定(収穫を終えた後の作物の調査等)などの問題が指摘されている。
 また、プロジェクトが98%進んでいる一方で、補償の支払いが完了していないケースが多発しており、住民の懸念が増大している。とくに土地の補償に関しては、多額をかけて土地の登記書などの必要文書を準備したにもかかわらず、明確な理由も告げられないまま、依然として補償が支払われていないケースも多い。NPCの土地収用リスト(Masterlist Expropriation)(2002年8月20日時点)でも、依然437件の補償未完了のケースが確認されている。

3.プロジェクトの経済効果

 サンロケパワー社(SRPC)とフィリピン電力公社(NPC)の間で結ばれた電力購買契約(PPA)には、SRPCがNPCに発電施設を移管するまでの25年間、SRPCが一定量の電力をNPCに卸し売りすることが記載されている。独立専門家の調査 によれば、SRPCは電力の供給過多や流水量の不足などによる電力の供給停止に左右されず、発電コストとして毎月約1000万ドル以上の固定料金の支払いをNPCから受けることになっており、また、この支払いはフィリピン政府によって保証されているということだ。この高い発電コスト によってフィリピン政府および消費者に大きなリスクがかかることが懸念されている。
 2002年半ば、民間セクターとの間で結ばれた電力購買契約(PPA)に関して、フィリピン財務省の諮問委員会が提出した報告書では、サンロケダムについて、「現時点でプロジェクトを買収するほうが、今後25年間、電力購買契約に基づいてSRPCへ電力料金を支払い続けるよりも安くつく」ことが勧告としてあげられている。また、この報告を受け、フィリピン上院では、「NPCに関する委員会」がサンロケダムのPPAについてレビューを行なうことになっている。
 また、電力供給過剰(40%)の状態にあるフィリピンにおいて、民間セクターによる発電は必要とされておらず、このような背景からも、サンロケダム事業自体の必要性に疑問が提示されている。
  パブリック・ヒアリング
 カマンガアン再定住地にて、上院議員によって開かれたサンロケダムに関するパブリック・ヒアリング(2002年9月)
4.円借款および輸出信用における日本政府の政策の矛盾

 サンロケダムの建設計画はマルコス政権により70年代後半から準備が進められ、80年代前半、日本へ政府開発援助(ODA)の要請が来た。これを受け、当時の中曽根政権は、旧海外経済協力基金(現JBIC)からの資金供与を検討。しかし、国会 で当時のマルコス大統領、中曽根総理、丸紅、鹿島建設の汚職などが非常に大きな問題となり、結局、ODAの供与は見送られることとなった。このダム計画に関してはアジア開発銀行も融資を見合わせたといわれている。しかし、98年になって旧日本輸出入銀行(現JBIC)の投資金融という形で日本による融資が決定。途上国で多大な社会環境被害をもたらず事業が開発援助案件として敬遠される中、援助機関に代わって民間セクター主導によってこうした事業が進められ、旧日本輸出入銀行などの輸出信用機関によって事業の支援が行なわれている。サンロケダム事業はその典型的な事例といえる。
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