FoE Japan
開発金融と環境プログラム
開発金融 トップ キャンペーン 資料室
開発金融と環境プログラムキャンペーン>JBIC個別プロジェクト>サハリン石油開発>要望書
サハリン石油開発
サハリン・トップページ
プロジェクトの概要
これまでの活動・動き
English Documents
サハリン写真館
関連リンク
サハリンU サハリンエナジー社に日本市民からの要望書提出
2003年6月10日

サハリンU石油・天然ガス開発事業
サハリンエナジー社に日本市民からの要望書提出


 7月10日、日本の専門家、漁業関係者、NGOなどが共同でサハリンエナジー社宛に以下の要望書を提出しました。この要望書は、融資を検討している国際協力銀行や欧州復興開発銀行、日本政府にも併せて送付しました。


*要望書は下記をご覧ください。

2003(平成15)年7月10日

サハリンエナジー・インベストメント社
最高経営責任者  Stephen H. McVeigh 様

 
ロシア・サハリンU石油・天然ガス開発に関する要望書


 サハリンU石油・天然ガス開発事業(以下サハリンU)は下記のような様々な環境・社会問題が解決されないままに進められています。サハリンでの開発は、サハリン内でも漁業への影響や自然環境への影響が指摘されていますが、地理的・環境的に密接な関係を持つ日本、特に北海道への影響もまた考慮されなくてはなりません。

サハリンU事業には、日本企業(三井物産、三菱商事)からの出資、また国際協力銀行や欧州復興開発銀行を通じて日本政府からの融資が行われています。また、生産予定の液化天然ガス(LNG)は、日本が大口の購入先です。これほど事業への日本の大きな関与がありながら、サハリンU第一期工事に際し、貴社は事業や影響について日本の市民への説明責任を果たさず、市民が事業に意見を言う機会、市民参加の機会は設けられてきませんでした。

市民への十分な情報公開と協議の確保

サハリン石油・天然ガスを懸念する日本の市民、漁業関係者、専門家、市民団体、NGOは、現在準備中の第二期工事に関し、2002年12月および2003年4月に貴社と非公式な会合を持ちましたが、会合の情報は関心を持つ市民の一部にしか行き渡らず、また事前の情報提供も不十分なものであり、問題の具体的解決・改善のための協議の場ではありませんでした。第二期工事に向けた準備が急速に進められる中、日本での正式な協議は未だ開催されておらず、私たち日本の市民は大変な危惧を抱いております。

また、貴社の「公開討議及び情報公開計画(Public Consultation and Disclosure Plan)」では、利害関係者として「北海道のいくつかの地域社会(Communities)」が明記されているにも関わらず、「環境社会健康影響評価(ESHIA)」の利害関係者リストには、これが含まれていません。影響を受けるオホーツク海や日本海沿岸の地域社会の市民が利害関係者に含まれるよう、修正されるべきです。

さらに、日本市民から挙げられている下記の具体的な懸念について、貴社に十分認識していだき、誠実に対応していただくよう要望いたします。また、日本の市民への適切な情報公開、事業策定の過程での市民参加のプロセスが確保されるよう要望いたします。

油流出事故への対応

貴社が2002年9月に策定した「油流出対応計画書(Oil Spill Response Plan、以下OSRP)」では、自社が設置する海洋掘削施設及び原油輸出ターミナルなど各施設以外での油流出事故は想定されていません。また、貴社が委託しおこなった油流出シミュレーションによると、油は事故発生後3日以内に回収可能で、日本には影響がないと聞いています。しかし、貴社はシミュレーションの想定条件の公開を拒否しているため、その結果は市民や専門家が納得できるものではなく、依然として日本への影響が懸念されます。シミュレーションの想定条件は、早急に一般公開されるべきであると考えます。

また、原油の輸送過程で大規模な流出事故が発生した場合、日本の海岸線を汚染する可能性は非常に大きいと考えられます。タンカー航行等の頻度上昇に伴い、事故における日本のリスクが確実に高まる一方、貴社がタンカー事故に対する十分な予防策や対策を講じないことに、大きな疑問を抱かずにはいられません。

   同OSRPでは、サハリン北東部の掘削施設における油流出事故発生時の初期段階での対応から分散剤(油処理剤)の使用を推奨する記載が見られます。塩水性湿地帯のような脆弱で生物学的に豊かな場所に油が到達する量を減らすことができるとの記載があります。しかし、そのような場所付近での分散剤の使用は、逆に生態系全体に悪影響を引き起こす危険性があり、漁業への影響から考えても非常に慎重に議論されるべき事項です。

 貴社は、同OSRPの日本語版概要を作成しましたが、この概要はわずか30ページで、分散剤の使用など、日本の漁業にも深く関係するような内容については触れられていません。OSRPは、全て早急に日本語に翻訳され、これに基づき日本の漁業関係者や専門家らと協議されるべきであると考えます。

北海道の漁業、地域への影響

漁業は、北海道経済において重要な役割を果たしてきました。北海道の漁業生産は、数量・金額ともに全国一となっており、平成13(2001)年の生産量は沿岸漁業だけで60万トンと全国の38.8%、生産額は1,398億円で全国の25.7%を占めています(農林水産統計)。今、その北海道の漁業がサハリン開発によって脅かされています。

漁業は、唯一自然の再生産力によってのみ成り立つ産業です。一度タンカー事故などによる油流出が北海道近海で起きれば、北海道経済に大きな打撃を与えることは間違いなく、漁業によって生計を立てている地域では大変大きな不安を抱えています。冬場、流氷時に事故が起これば油の回収はますます困難です。しかし貴社は、タンカー事故は責任外として十分な予防や対策を怠っています。

更に、事業者が海洋への掘削汚泥投棄など長期間に渡って影響が表面化する恐れのある開発行為を行っていることも、漁業者としては許せる行為ではありません。直接的な影響を受ける可能性の高い北海道の漁業者や市民に対して、これまで貴社は事業に関する説明責任、情報提供・情報公開の責任を十分果たしてきませんでした。このような貴社の対応は即座に改められるべきです。

サハリンと北海道を往来するオオワシへの影響

オホーツク海沿岸部は絶滅の危機に瀕した希少種オオワシの繁殖地となっており、サハリンUが計画・実施されているサハリン北東部沿岸にも本種の重要な営巣環境が広がっています。

(社) 北海道野生生物保護公社では2000年夏より、モスクワ大学と共同で本地域のオオワシの繁殖状況および行動に関する調査を実施しています。これまでの調査で、サハリン北東部の湾周辺には約80ペアが繁殖していることが判かっており、200個以上の巣も見つかっています。また、繁殖に関与していない成鳥や亜成鳥、幼鳥を含めると湾の沿岸部(流入する河川の河口部を含む)には、夏季を中心に、少なく見積もっても250羽以上のオオワシが生息していると思われます。これらのワシは餌のほとんどを湾や河川の魚類に頼っており、特に繁殖中のワシは雛を育てるための重要な餌資源としても活用していることから、開発行為や油流出事故などによる環境破壊は本種の存続に重大な影響を与えることは明らかです。

ところが、2002年9月に貴社が策定した環境影響評価書(EIA)にはオオワシに関する記載はほとんど無いばかりか、「チャイヴォ湾では5ペア、ピルトゥン湾でも5ペアが生息している」ことになっています。同公社とモスクワ大学の共同調査によると、開発により最も重大な影響を受けると推察されるチャイヴォ湾では約30ペア、ピルトゥン湾周辺には少なくとも10数ペアが生息していることが分かっており、本評価書に記載されている情報の信憑性が疑われます。さらに、評価書ではこれらのワシへの影響として、「騒音」を最重要視しており、開発行為そのものによる営巣環境や餌環境の破壊、人や車両の立ち入りによる繁殖妨害、油流出事故による餌資源への影響、亜成鳥や幼鳥などへの影響については言及していません。サハリン北東部で繁殖したオオワシのほとんどは北海道で越冬しています。オオワシは「日露渡り鳥条約」の保護指定種でもあり、年内にも条約の政府間協議が再開される予定です。貴社の責任ある対応を要望いたします。

  注:オオワシは日本国内法で天然記念物(文化財保護法)、国内希少野生動植物種(「種の保存法」)に指定されている。また、日本版レッドリストで絶滅危惧2類に指定されているほか、ロシア版レッドリストにも記載されており、日露渡り鳥条約の指定種として両国が協力して保護することが約束されている希少種である。

西部大西洋コククジラへの影響

  サハリンUが進行している海域は、西部太平洋コククジラ系統群(ニシコククジラまたはアジアコククジラとも呼ばれる)の重要な採餌海域でもあります。ニシコククジラの現在の推定生息数は100頭以下、繁殖可能な成熟個体は40頭程度とされ、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種の中でも最も危険度の高い「絶滅寸前」系統群とされています。ロシア政府によっても絶滅危惧、日本哺乳類学会や日本の水産庁でも絶滅危惧と分類されている、国際的にも最も絶滅の恐れの高い大型クジラの系統群のひとつです。

コククジラは夏から秋にかけて北の海域で、泥ごと底生生物を吸い込み、泥や海水をヒゲで漉して食べています。ニシコククジラの採餌海域はピルトゥン湾の辺りが唯一、知られています。調査によってその海域の海底には他海域とは比べものにならない高い密度で底生生物が見つかりました。つまり、今の採餌海域はニシコククジラが生き残るためには必須の海域なのです。さらに、ニシコククジラは騒音や振動にも敏感に反応するようで、油田探査のための地震探査が近くで行われた際に、採餌海域から離れ、調査が終わるとすぐに戻ったという調査結果も出されています。また、海面にでて呼吸をする海生ほ乳類として、油流出事故にも大きな影響を受けます。

日本近海に生息する鯨類の中で最も絶滅の危機に瀕しているこのニシコククジラの生存に向けて、特段の注意を払い、開発手法もそれに準じたものへ変更されるよう要望いたします。

活断層とパイプライン敷設

  石油を産出する地層の周りには地震を引き起こす活断層が多く存在します。サハリンも活断層が多く、最近でも1995年5月28日にサハリン北部を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、2000人以上の死者がでるとともに、多くの施設にも被害がでています。地表面に1〜2メートルのズレを起こすような地震が発生する地帯では、石油パイプラインを敷設する際には、断層の調査などを十分行って、敷設場所の選定や断層を横切る際の工法上の配慮が必要です。

  地震発生時にパイプラインからの石油流出などで、植生や漁業資源にとって貴重な河川への影響が甚大であると予測されますが、十分な対策を取るべく、活断層とパイプライン敷設に関して、適切な調査が行われる必要があります。


共同提出者:
国際環境NGO FoE Japan
NPO推進オホーツクプラットフォーム
後藤真太郎 (立正大学)
沢野伸浩 (星稜女子短期大学)
齋藤慶輔 ((社)北海道野生生物保護公社)
渡辺有希子((社)北海道野生生物保護公社)
舟橋直子 (国際動物福祉基金)
吉田東海雄(北海道指導漁業協同組合連合会)
北村吉雄 (網走漁業協同組合)
佐尾邦久  (滑C洋工学研究所)
佐尾和子 (滑C洋工学研究所)



CC:
国際協力銀行 篠沢 恭助 氏
国際協力銀行 天川 和彦 氏
欧州復興開発銀行 Alistair Clark 氏
欧州復興開発銀行 藤本 進 氏
財務省 国際局開発機関課 石井 菜穂子 氏
財務省 国際局開発金融課 菅 正広 氏


要望書の英文はこちらへ
(c) 2002 FoE Japan.  All RIghts Reserved.

サイトマップ リンク お問い合せ サポーター募集 English