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IUCN「コククジラに関する独立調査」、調査結果を発表
 
2005年03月04日

IUCN「コククジラに関する独立調査」
調査結果を発表



サハリンで進行している石油・天然ガス開発プロジェクトによって絶滅の危機が増大しているニシコククジラ(現存100頭)に関して、国際自然保護連合(IUCN)の独立専門家チームがまとめた調査結果が2月16日に発表されました。

調査結果の詳細はこちら >https://www.iucn.org/themes/business/

このIUCN専門家チームによる独立調査は、このプロジェクトの環境・社会 配慮が不十分であることを指摘する関係者や融資機関からの要請の高まりを受け、事業者サハリンエナジー(SEIC)の依頼によって、2004年9月より実施されたものです。

レポートは英文131ページになりますが、全体的な結論として、「事業者サハリンエナジー(SEIC)が提出した情報が不十分なため、 同プロジェクトがコククジラに与えるリスクやその緩和策の有効性を評価できない点が多数あった」としています。

その上で、「もっとも慎重な行動をとるのなら、工事を一時中断し、コククジラの餌場近くでの開発を遅らせるべきだ。それによって重要なリスク評価、適切なモニタリングの手法の確立、緩和策の検証を実施することができる」としています。

この調査は、「サハリンIIフェーズ2プロジェクトがコククジラに与える影響やその緩和策を評価すること」に目的が限られていましたが、レポートにはサハリンIによる影響、また今後サハリン島で行われる開発に対する懸念、これらによる累積的な影響が深刻な問題であることに触れられています。コククジラを絶滅させないために、関係各国を含めた包括的・国際的な計画(研究)が今後必要であり、IWCやRussian Groupfor Strategic Planning of Gray whale Research やIUCNなどの団体がこうした計画の土台を作っていけるのではないかと締めくくられています。

以下に調査結果のポイントをまとめました。
______________________

IUCN独立専門パネルによる
サハリンIIフェーズ2プロジェクトがニシコククジラに与える影響調査(要約)


▼パネルの目的

パネルの目的は、サハリンIIフェーズ2においてコククジラに与える影響を科学的に評価すること。SEICの事業計画をレビューし、コククジラとその周辺生物(餌など)に与える影響を最小限にするためにSEICが提案した緩和策を検討すること。昨年9月よりプロセス開始。

▼全体的な結論

・ SEICによって、膨大な資料がパネルに提出されたにもかかわらず、重要な情報が不足していることから、リスクや提案された代替案の有効性を評価できない箇所が多々あった。
・ SEICの意思決定プロセスも同様に不明確だった。SEICは、プロジェクトによる環境へのリスクを「合理的に達成可能な限り減らす(as low as reasonably practicaple)」としているが、それが何を意味するのか、意思決定のプロセスでどの程度の配慮がなされたのか判断できないケースが多々あった。(例えば、PA-B洋上プラットフォームの位置の決定に関して)
・ 上記の理由から、フェーズ2に関連するいくつかのリスクや緩和策は厳密に評価することできなかった。

▼コククジラの現状

・ コククジラの運命は、人為的あるいは自然による累積的影響にコククジラとその餌生物がどれだけ耐えうるかにかかっている。累積的影響とリスクは、あらゆる脅威や影響の想定をもとに行なう個体数モデリングによってのみ調査が可能だ。
・ これまでの限られた調査によってすでに以下のようなことが分かっている。

*新たなリスクがなくてもコククジラは絶滅する可能性がある。
*持続的な影響の方が、短期間の大規模な影響より深刻な問題。
*年に一頭の雌が死ぬことにより、絶滅の可能性が大きく高まる。
*短期間では感知できない影響も持続すれば個体数の回復を妨げる。

・ コククジラが開発による影響から生き残れるかどうかは、個体数の統計モデルを使い、将来的に開発が与える影響の範囲が明確になり、この範囲であれば高い確率で個体数を保つことができるということが明確になるまでわからない。
・ 毎年の写真によるデータ、新たな個体の生体検査、個体数モデリングの調整や更新を通して、個体数のモニタリングを継続していくことが欠かせない。

▼助言

・ もっとも慎重な立場をとるなら、工事を一時中断し、コククジラの餌場の近くでの石油・ガス開発を遅らせるべきだ。それによって、非常に重要なリスクの評価、適切かつ独立したモニタリングの手法、緩和策の検証を行なうことができる。
・ 何らかの理由でそれが不可能な場合、コククジラ及びその餌場の生息環境のリスク管理は慎重に行なわれなくてはならない。リスク管理に関する決定が与える影響を評価するための十分なモニタリングが必要だ。モニタリングの結果、手順の変更が必要とされる場合もある。
・ PA-A、PA-B洋上プラットフォームから石油・ガスを陸地へ運ぶ海底パイプラインについて、3つの代替案がある。いずれもフェーズ1で行なわれているプラットフォームからタンカーへ原油を移すシステムが持つ深刻なリスクは解消するが、それぞれに問題がある。
・ 海底パイプラインによるリスクは(1)建設がコククジラに与える騒音や障害(2)建設中の船との衝突(3)建設が餌の底生生物へ与えるダメージ(4)コククジラ、その餌、生息に欠かせない生態系が石油・ガス漏れの被害を受けること、と分類できる。
・ 代替案1は(1)〜(3)の点で他の案よりリスクが少ない。(4)の油・ガス漏れが起こった場合にも、ピルトゥン湾沿いの餌場やラグーンからもっとも離れたところとなる。ただ、パイプラインの長さがのびる分、パイプが破損する可能性は増える。

▼様々な脅威、代替案の提案

○騒音の場合
・ SEICの騒音に関するモデル調査は成功とは言えず、どの程度の音がコククジラにとって深刻な影響を与えるかについて、以下の二つの重要な点でいまだ不明確だ。
(1) コククジラが実際に音を聞く場所。(コククジラの動きや音の性質、浅瀬での伝播によって変化する)
(2)コククジラの聴力と音の種類に対する行動・生理的反応の違い。
それゆえに、建設音によるコククジラへの影響を評価するのに信頼できる予測方法はまだない。
・ 騒音は建設期間中がもっとも大きく、また継続的に続く。コククジラの餌場近くでサハリンI、IIという2つの事業による複数の開発行為が場所・時間的に同時に進められている。サハリンIIフェーズ2による騒音が与える影響は脅威であり、深刻だ。
・ コククジラを開発行為から場所的にも時間的にも守るためのあらゆる手段が取られなければならない。(音のする中、しない中でのコククジラの行動や生息環境での様子に関するリアルタイムのモニタリング、ハイレベルの騒音から守るために工事を中止するための厳密な基準作りなど)

○船との衝突の場合
・ サハリンIIフェーズ2のPA-B洋上プラットフォームや海底パイプラインの建設、またサハリンIの建設や業務の実施によって、船舶の航行量は増加するため、コククジラと船との衝突の可能性は増える。
・ サハリンIIフェーズ1からフェーズ2へ事業が完全に移行すれば、タンカーへの原油の積み荷がなくなるため餌場地域での航行量は減るが、南部アニワ湾のターミナルから原油とガスを運ぶタンカーと南へ移動するコククジラが衝突するリスクは増える。
・ SEICは、船の立ち入り禁止区域、スピード制限、夜間や悪天候における航行の制限など数々の緩和策を提示している。しかし、そうした策を実行するために必要な詳細は書かれておらず、パネルはその効果を判断することができなかった。
・ 慎重な航行は衝突を防ぐために欠かせないが、衝突する前にコククジラを発見するのは容易ではない。立ち入り禁止区域や航行ルートの策定やスピード規定などを取り入れてクジラと船の空間を広げることがもっとも効果的な方法だ。

○油流出の場合
・ 油流出がコククジラに、またその餌を介して与える影響はほとんどわかっていない。場所や時期、規模、餌生物の状況や回復力によって、軽度のものから壊滅的打撃を与えるものまでさまざまなケースが考えられる。分かっているのは、コククジラが餌を底生生物にほぼ完全に頼っていることだ。
・ サハリンII事業がフェーズ1からフェーズ2に完全に移行すれば、コククジラ生息地域での油流出の可能性は減るが、フェーズ2プロジェクト存続期間中に油流出が起こる可能性は十分にある。
・ SEICが提出した資料(CEA)によると、プロジェクト存続期間40年の間に2つある掘削洋上プラットフォームのどちらか暴噴する可能性は3%、パイプラインから少なくとも1度流出する可能性は24%ある。
・ CEAの中にある流出経路モデルによると、コククジラが採食する2つのエリアに高いリスクがあるとされているが、プラットフォーム暴噴や流氷期の流出など最悪のケースは考慮されていない。
・ ピルトゥンラグーン近くでの流出はコククジラが子育てをする採食地域の生態系に多大な影響を与えうるため、非常に懸念される。これはサハリンI、II両プロジェクトに当てはまり、ラグーンを横切るパイプライン計画にも同様の懸念がされる。
・ 油流出を防ぐことが何よりも重要だ。油流出に素早く対応することも重要だが、大規模な油流出が起こりうる状況(自然の厳しい海域であること、悪天候や流氷等)を考えると、またプラットフォームやパイプラインから油流出対応センターまでの距離を考えると、対応の有効性には限界がある。
・ SEICの油流出対応策は広範囲におよぶが、具体性に欠けており、評価するのが困難だった。例えばPA-Bプラットフォームが現在の場所に設置されることになった理由を評価することができない。コククジラを保護するためには、プラットフォームをさらに沖合に動かすなど、プラットフォームが採食場に与える被害を減らすための合理的な措置がとられるべきだ。
・ こうした情報不足の中、パネルはSEICに対し、油流出のリスクを減らすための措置として、「少量の油漏れの感知システム、契約会社との規則、油流出防除計画、プラットフォームやパイプラインの位置、ダブルハルタンカー使用、PA-Aプラットフォームによる油生産をパイプラインができるまで中止する」といった提案をしている。

○物理的な影響
・ サハリン北東部のコククジラの採食場所が、損なわれずに生産力を維持することが重要だ。しかし、沖合で行なわれる石油・天然ガス開発が海底に物理的な影響を与えるのは必須で、それゆえにサハリンIIフェーズ2は厳密に精査される必要がある。残念ながら、SEICはこの問題に対し、表面的な配慮しか行なっていない。
・ 餌の底生生物は浚渫土砂による窒息や現在の沿岸のパターンや流れの変化などによって破壊される可能性がある。
・ PA-Bプラットフォームやパイプラインをどこに設置するかを決定する際に、底生生物全体やその生産能力に与えるリスク(特にピルトゥン湾沿岸の採食地域を生み出す生物学、生態学観点から)を注意深く詳細に評価する必要があったのに、実施されていない。

○情報格差、モニタリングについて
コククジラの個体数に関する調査は1995年から行なわれており、個体の識別、繁殖、生存、状態、採食パターンや餌場での行動などに関する情報が相当数ある。しかし、こうした情報をサハリンIIフェーズ2による潜在的な影響に直接的に結びつけるには、個体や生息地に関するさらなる毎年のモニタリングが必要だ。
・ 騒音や衝突、石油・ガスの流出や生息地の破壊などといった潜在的な影響に関して、リスク要因と変化する要素(コククジラ、餌、生息地の反応)を明らかにする研究やモニタリングが必要。
・ 潜在的な影響が不明確であることから、モニタリングや研究はコククジラの存続に影響を及ぼす個体数の変化を検知する可能性が多いにあることを前提とした、注意深い、厳密なものであるべきだ。
・ 今後、次のような研究(毎年、あるいは状況に応じて)が必要となる。

* 重要なパラメーターとなるモニタリングを継続的、連続的に毎年行う。(個体数、生存数、生殖率、年齢、性別など)。時系列のデータ分析の結果、コククジラに与える影響を早期に発見することが可能となる。
* コククジラの餌場や生息地の利用パターンを毎年モニタリングする。時系列データ分析の結果、開発行為による生息地の変化を検知することが可能。
* 建設や地震探査などによって、海底での騒音量が著しく増える間、コククジラの行動的、(可能であれば)生理的反応をリアルタイムでモニタリングする。
* クジラと船の遭遇(衝突、ニアミス、安全な回避)の記録とモニタリングを行い、船の航行において船の大きさ、位置、速度、明るさなどに基づいた変更が必要かどうかを決める。
* 開放水域のシーズンに、サハリン島東海岸沿いでコククジラが岸に打ち上げられたり、死んで浮かんだりしていないかを定期的に調査する。コククジラの死骸が発見された場合、死亡原因の徹底調査を実施する。
* ピルトゥン湾沿岸や沖合いの餌場、ラグーンなどサハリンII付近の海域の変化(海流、潮、風)を調査すること。これにより、油流出が起こる際のモデリングがしやすくなり、対応策の改善につながる。
* ピルトゥンラグーンと採食場の生態系及びその関連性の調査。コククジラやその餌生物に与えるリスク評価をするための基礎となり、パイプラインの敷設やその他の施設建設や開発行為を決定する情報となる。
* 餌である底生生物の数量、分布、生態調査と油が底生生物に与える影響を調査する。
* 流出事故が起こった場合、(1)コククジラと餌に与える直接的かつ正確な影響を調査し、(2)長期間にわたって流出した油が残留した場合、慢性的に流出油にさらされる影響を調査する。
* 潜在的に油・ガス漏れや流出にさらされる(あるいは実際にさらされた)生息地の汚染レベルを定期的にモニタリングする。

▼コククジラとその生息地を保護するためは包括的計画が必要

この調査は、サハリンで行われている数々の大規模な石油・ガス開発のわずか1つを対象としたに過ぎない。コククジラを絶滅の危機にさらす脅威は、石油・ガス開発のみならず、それはサハリン地域だけにも限らない。また、そうした脅威は単独でおこるより累積するものだ。コククジラは1年の約半分を東アジアで過ごす(日本、北朝鮮、韓国、中国の海域を通過する)。

コククジラに関して、IWCや第3回世界自然保護会議(IUCN)がこれまで表明した分析や懸念は、コククジラとサハリン石油ガス開発の問題に重要な関心が集まっていることを明確にした。コククジラの保護がロシアにかかっているのは、コククジラがその餌のほとんどをロシアの海域で採ることから明らかだが、その他の国も直接的、将来的に決定的な役割担うことになる。

包括的かつ国際的な計画(研究も含め)が何より必要だ。それは石油・ガス開発だけでなく、他の脅威も対象とすべきだ。個体数調査によって、コククジラや生息地に与えるわずかな影響もそれが続けば種の絶滅につながることがわかった。 1つの石油・ガス開発による影響の評価に基づく断片的なアプローチでは、コククジラの保護に十分に取り組んでいるとはいえない。なぜなら、たとえ一つ一つのプロジェクトの影響が許容範囲内であったとしても、それが蓄積することによって個体数の回復を妨げる可能性があるからだ。コククジラの保護は、現在、将来に及ぶ開発行為の影響が生息地や採食地域に与える累積的影響を制限することを目的とした沿岸の採食地域の保全体制なくして確保できない。

包括的な計画(研究を含む)というのは、このパネルの目的外であったためそれを作成する試みはなされなかった。しかし、今回のレポートは独立した国際組織がそうした計画を作り上げる基礎の一部になったのではないか。そうした上では、IWCの専門委員会やRussian Group for Strategic Planning of Gray Whale ResearchやIUCN種の保存委員会の鯨類専門グループが、これまで、そして現在も行っている定期的調査や研究を称えたい。こうした団体が今後、国際的、独立的な立場による包括的計画の土台を提供できるのではないか。


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